20-17
「お見事!」
「ふう…」
あたしがシュナイダー様に習った奥義が、ゴーレムの脚を砕いた。
奥義は剣に気を纏わせてそれを目標に向かって放つ。(もしくは纏わせたまま斬りかかる)
気 を扱うには相当な集中力が必要。
自身の内部から湧き上がる力を具現化する。
その力は見ての通り。
魔法力に似て非なるもの。
「痛った…」
右腕の痛みが走る。
奥義を使った後は、必ず右腕が痛む。
通常とは異なる大きな力を扱う以上、どこかに負担がかかるらしい。
シュナイダー様は疲労感、倦怠感だけだった。
あたしは下手くそなんだろうね、たぶん。
体に合っていないんだと思う。
あたしがゴーレムを倒した直後、敵が敗走を始める。
「やっと引いたか…」
「深追いするんじゃねえ!」
サムが引いていく敵兵を追おうした味方に、そう声をかけている。
ゴーレムの脚は再生し始めていた。
「ヴァネッサ様…」
「わかってる」
さすがにこれ以上は対処のしようがない。
「隊長!」
「サム?」
サムがサインを送っている。
「エレナに策あり?」
「ゴーレムを撃破出来る方法が見つかったのでしょうか?」
「みたいだね」
サインはさらにつづく。
「ゴーレムを引き寄せろ?…簡単に言うんじゃないっての…」
「わたくしにお任せください。ヴァネッサ様はエレナ隊長の元へ」
「ジル…」
ライアがやられた姿が脳裏に浮かぶ。
「わたくしなら大丈夫です。無理は決していたしません」
「当たり前だよ」
ジルなら大丈夫だろうけど…。
「サポートに誰かをすぐに回すから、任せたよ」
「はい」
後ろ髪を引かれつつも、サム達と合流。
「ヴァネッサ隊長、すごいっすね!」
「それはいいから。あんた達もよくやったよ」
サムの肩を叩く。
怪我人が出たものの、数で勝っていた敵をよく押し返してくれた。
「あんた達も大丈夫そうだね?」
歩きながらライノ、ステイン、ミレイに声をかける。
「はいっ」
「全然平気です」
「勝手に出てしまって、すみません…」
ミレイが頭を下げた。
「いいよ、今回は。黙って見ていられなかったんでしょ?」
「はい…」
三人は苦笑いを浮かべる。
気持ちはすごくわかるから、咎められない。
あたしも同じ行動をしたと思う。
ふと通用口を見ると、ウィルが外に出ていた。
「あいつ…全く…」
竜も持ってきたレスターと、ハンス、ウィルが何か話している。
「三人はウィルのそばに付いて」
ライノ達にそう指示した。
「了解」
「あいつを、あの場所から、前に出すんじゃないよ。絶対にっ。守れなかったら、ケツ蹴るからね」
「はい!」
三人は表情を強張らせ走ってウィルの元を行く。
あたしはレスターを呼び寄せる。
「レスター」
「はい!」
「悪いんだけど、ジルのサポートに行って」
「了解です」
「うまくこっちに誘導してあげて。無理は絶対にするんじゃないよ」
「わかってます」
彼は竜に乗り、ジルの元へ駆け出す。
「さてと…」
エレナの策とやらを聞かないと。
「キミがちゃんと魔法を使っていれば、ライアは怪我する事はなかったんだヨ!」
「やめてください、隊長!」
ミャンがエレナに食って掛かり、それをリックスが止めていた。
「ミャン、落ち着きなよ」
「落ち着いてるヨ!アタシは!」
「ライアが勝手に出ていったんでしょ?」
「勝手に…ライアのせいだっていいたいワケェ?」
「あたしがその場にいても、出ていったよ」
「自業自得だって言いたいノ?」
ガルドとその他から状況を聞く。
「エレナ隊長は止めたんですよ」
エデルがそう話す。
「でも、ライア隊長が来てくれなかったら、自分もガルドさんも…もしかしたら…」
スチュアートには悔しさと安堵の両方の気持ちがあるみたい。
「過ぎた事を言っても始まらないんだよ。眼の前のアレを何とかしないといけない」
ゴーレムが復活しつつあり、その速さは鈍化してるものの、復活すれば確実にあたし達の方へ来るだろう。
「エレナ、あんたの策って?手短かに頼むよ」
「ええ」
エレナが言うには、ゴーレムの頭の中に魔法陣があるとのことだった。
ミャンがヤケクソで投げた剣が、ゴーレムの頭部に当たり削れて魔法陣が見たらしい。
「その魔法陣を壊せば、ゴーレムは瓦解する」
「復活しない?」
「しない」
エレナは大きく頷く。
「あんたが魔法で壊すんだよね?」
「魔法ではなく、直接壊す方法を推奨する」
「え?魔法には魔法で対抗するんじゃないの?」
「体には魔法を弾くものはなかったが、頭部はわからない」
「まあ、そうだね…」
「何より、ミャンが投げた剣が頭部を破壊した」
「なるほど、確実な情報があると」
「ええ」
なら、やるしかない。
けど…。
「頭部を破壊と言っても、どうやっても届きませんよ」
ゴーレムの身長は見上げる高さだ。
「それは私に任せてほしい。ゴーレムを地面に埋める」
「埋める?…」
「見ていればわかる。それよりもジルを戻して。すぐに始める」
エレアに言われた通りジルとレスターを呼び戻す。
二人に状況を話している間に、エレナが早速始めた。
「これにあなた達の魔法を込めて」
私は手の中に収まる小さな水晶を取り出し、エデルに渡す。
「込めるのはいんですが…あまり残っていませんよ?」
「半分以下なんですけどぉ…」
「構わない。少しでも向こうの魔法士に対抗したい。それにはあなた達の魔法力を使う必要がある」
「なるほど」
「わかりました」
エデル達には気絶する限界ギリギリまで魔法力を水晶に込めてもらった。
その間に復活したゴーレムを止めに入る。
「三つ同時にかい?」
「ええ。止めるというよりも移動速度を遅くするだけ」
魔法陣を三つ用意。
「ラファール!」
旋風がゴーレムの足元から湧き上がる。
旋風はゴーレムを止めてはいない。移動速度が落ちただけ。
左手で魔法を制御しつつ、右手でさらに魔法を作り出す。
「あんた、魔法二つはマズイんじゃないの?」
「仕方ない」
良い悪いを論じている場合でないのだから。
「制御範囲、設定…出力、最大…」
やはり、二つの魔法を同時に操るのは難しい。
ゴーレムの動きを見つつ魔法を制御し、更に魔法を作り出す。
頭がクラクラする…。
「もう少し…」
「エレナ、大丈夫かい?」
「大丈夫…」
この程度の事で、泣き言を言ってはシンシア先生に愛想をつかされる。
私の才能を見出し、育ててくれたシンシア先生に恩をまだ返していない。
こんな私を受け入れてくれたシュナイダー様やヴァネッサ達、ウィル様にも。
こんな所で死ぬわけにはいかない。
「エレナ隊長…」
エデルが弱々しく水晶を差し出す。
「もうダメ…」
「魔法力ここまで使い切ったには初めてだ」
「あたしは二回目だから、まだいいけど…ナミ、大丈夫?」
「体に力が入らないよ…」
他の隊員も意識が朦朧していた。
「魔法力を込め終わりました…」
「ありがとう」
水晶を右手受け取る。
「彼らを中に…」
「あんた達、手伝ってあげな」
そばにいた兵士に肩を借りて隊員達は敷地内へ入っていった。
「準備、完了…」
私はヴァネッサに頷いた。
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