20-15
夢であって欲しいとどれだけ思ったか…。
あの時の事を思い出すと、今で胸が痛くなる。
アタシの目の前で、アタシの大好きなライアの真っ白な翼が引きちぎられた。
片方の翼を失った彼女は、敷地の防壁に当たり地面へと落ちる。
彼女の背中から血が流れ、広がっていった。
「ライア…ああ…うあああああっ!!」
アタシは怒りで、全身の毛が逆立つのが自分でも分かった。
短槍片手にゴーレムに突っ込んで行く。
「どけええぇ!」
ゴーレムの周りいた敵をなぎ倒し、足元へ。
ゴーレムを倒せない事は分かってたけど、何かをしてライアの仇を取りたい。その一心で槍を突き立てる。
「くそ!くそっ!くそがぁ!ライアの翼を返セ!」
ゴーレムに傷をつけるのが精一杯だった。
その傷跡もすぐに消える
「ミャン隊長!離れて!」
突然、後ろに体ごと引っ張られる。
「放せ、放してヨ!」
「放さない。ミャン隊長まで死んでしまう…」
「アリス?」
アリスはに引きずられたまま後ろに下がり始める。
「エレナ隊長が魔法を使おうとしている。早く離れないと…」
「エレナが?…はっ!上から腕が!」
「え?」
ライアの翼を奪った腕が、今度はアタシとアリスを狙う。
アリスの手を振りほどき、体勢を整える。
襲ってくる腕を切り刻みながら後ろに下がっていく。
アリスも両手にナイフを持ってゴーレムを腕をさばいていた。
「はあ…はあ…」
「アリス?」
まずいよ。
アリスは昼は苦手だったんだ。
「くっ、限界だ」
アタシはアリスを肩に抱え走り出す。
「エレナ!早くしてくれ!」
そう叫んだ瞬間、彼女は魔法を使う。
よくわからない物が頭の上を飛んで行った。
背後で大きな音。
振り向くと、ゴーレムの両脚がなくなり後ろにゆっくり倒れていた。
アタシは落ちていた剣を拾い、ゴーレム向かって、思いっきり投げつける。
「くそったれエ!!」
剣は回転しながら飛んで顔のあたりに当たって弾かてしまった。
「ヴァネッサ隊長!ゴーレムが!」
「分かってるよ!」
エレナがゴーレムの脚を壊してくれたおかげで、敵を減らす時間は出来た。
が、さほど時間がかからずに復活。
再び動き出し近づいて来るゴーレレム。
それをまたエレナが魔法で脚を貫く。
「よし!」
こっちはあたしとサム、それにジルが中心の隊。
敵は密集隊形で迫る。
「やるじゃないか…」
密集してちゃ、剣を振りづらいし、同士討ちになる可能性が高い。
敵を切った勢いで味方まで切っちゃった、なんて一生の恥だ。
ジルも戦いにくそうにしてた。
「よっしゃあ!」
サムの素早い突きが敵兵の喉元を捉える。
敵ばかりを気にしてはいけない。
敵の後ろにいるゴーレムが早くも動き始める。
もう一度エレナに、と思った瞬間。
「ライアァ!!」
ミャンの叫びが聞こえた。
「なんだ?」
声のした方に目を向ける。
あたしが目に入って来たのは、ライアがゴーレムの腕に捕まったところだった。
彼女は片翼を掴まれたまま振り回され、その勢いで翼をもぎ取られる。
そして、振り飛ばされ防壁に無惨に叩きつけられた。
「ライアがやられた…」
「ええ!?」
ライアが出たのは彼女の独断だろう。
だけど、そういう状況にしてしまったのは指揮官であるあたしの責任だ。
「…くそ!」
エレナの魔法により、右のゴーレムが倒れる。
こっちは接近中。
真ん中のゴーレムはエデル達魔法士隊のがなんとか食い止めていた。
こっちには魔法士はいない。
あたしがやるしかない!。
指笛を吹き、竜を呼び寄せる。
「隊長?何するんすか!?」
「あたしが、竜でゴーレムの注意を引く」
「無理っすよ!」
「やんなきゃ、やられるんだよ!あんた達は敵を減らして押し返せ!任せたよ!」
「ちょ…隊長!」
竜を駆り、敵兵の真ん中を突っ切る。
通りすがりに敵兵の頭をかち割ってやった。
突っ切った先にには、ゴーレム。
「あたしが相手してやるよ!かかって来な!」
ゴーレムの足元を竜で走り回る。
股をくぐり抜けながら、脚を剣で切りつけた。
傷はつくが、大した効果はない。傷はすぐに塞がる。
「くっ!だめか…」
だけど、ゴーレムの注意を引く事は出来ていた。
サム達の方には行っていない。
サム達は奮戦中。
押し返してはいないものの、戦線は維持出来ていた。
よく見るとステイン、ライノ、ミレイが加勢している。
何かしなきゃいけないと衝動に駆られたか。
悪い判断じゃないと、あたしは思うよ。あの状況ならね。
「ヴァネッサ様!上です!」
「はっ!…まず…」
ゴーレムの拳が頭上から迫っていた。
「はああああっ!」
「ジル?」
ジルが怒号とともに、ゴーレムの拳へ飛び突進する。
「獅子破吼!」
彼女は右拳に、わずかに気を纏わせままそれをゴーレムの拳に叩きつけた。
ゴーレムの拳は砕け、土やら小石やらがあたしに降り注ぐ。
それ浴びつつ、ゴーレムから距離を取った。
「ヴァネッサ様、ご無事で?」
「あ、ああ…」
ご無事だけどさ…。
「ジル、やる時は一言言って」
あたしは体にかかった土を払う。
「え?あっ…申し訳ありません」
なにはともあれゴーレムを注意を完全に引く事ができた。
ゴーレムはあたしとジルを標的としている。
あたし達は、バリケードから離れるよう後退りして行く。
「ジル。さっきやつ、もう一回できる?」
「申し訳ありません…もう一度するには、時間がかかります…」
「そう…」
だろうね。
気 を扱うには相当な集中力や時間が必要。
あたしも使えるけど、こんな状況じゃ周りが気になって出来やしない。
けど…。
「やってみるか…」
「ヴァネッサ様?」
「ジル、ゴーレムの注意を引いてもらえる?」
「何をなさるおつもりですか?」
「シュナイダー様に教わった技をやってみるよ。あんたのと似た感じのやつ」
下手くそだから時間がかかるのが難点だけど。
「うまく行けば、さらに時間を稼げる」
「わかりました。お任せ下さい」
ジルはそういうとゴーレムへと近づいて行った。
右ではライア隊長がやられ、左ではヴァネッサ隊長とジルさんがゴーレムに突撃して行く。
俺は、それをエレナ隊長の横で見ていた。いや、見るだけしか出来なかったというが、正確な表現だ。
元剣士で脚を怪我して魔法士に鞍替えした俺は中途半端な存在。
「ライアが…」
隊長は茫然自失
ゴーレムはもう一体いる。
俺は迷わずゴーレムに向かって魔法を放った。
俺程度の魔法にはびくともしない。
「エデル、あんた何やっての!?」
背後の警備通路からベッキーが叫んでる。
「あたし達が相手出来るわけないじゃない!」
「だったら、黙って見てろってか?何もしなけりゃ蹂躙されるんだぞ!」
あんなのに潰されて死にたくはない。
死んでも死にきれない!。
「攻撃を一点に集中しろ!」
「レスターさん?」
「ダメージを与えれ続ければ破壊出来るかもしれない!」
「了解!」
一点突破。
俺達はゴーレムの右脚、膝あたりに魔法攻撃を集中させる。
「砕けろ!」
ここで結果を出さないと、何のために訓練してきたのかわからないぜ。
「見て!外側が崩れた!」
「やった!」
リサとベッキーが声を上げる。
「まだ終わってねえよ!破壊してから喜べ!」
「いちいち、うっさいわねっ」
「そんなんじゃモテないわよ!」
「うるさいのは、そっちだろうが!」
「いい加減してくれ!…喧嘩してる場合ではないだろう?」
ウェインの言う通りだ。
「もう少し…」
これでどうだ!。
ゴーレムが右脚を持ち上げた瞬間、脚が砕け落ちた。
横倒しになるゴーレム。
右側のゴーレムも何故か倒れる。ヴァネッサ隊長がやったようだった。
「やったああ!」
「やっとか…」
まだだ。まだ、終わっていない。
ゴーレムを転ばせただけ。無力化したわけじゃない。
魔法力を半分以上使ったはすだ。
ゴーレムはすでに回復しつつある。
次は、倒せるかどうかわからない。いや、無理だろう。
「ここまでか…」
「まだ、手はある。.終わらせない…絶対に…」
隣にいたエレナ隊長が、そう呟いた。
Copyright(C)2020-橘 シン




