20-13
敵陣のモヤの中から人が出てきた。
いや、人らしきものというべきか。
背丈が人の三倍はあり、体は土、泥?。
頭が体に対して異常に小さい。アンバランスだ。
「エレナ、あれって、魔法だよね…」
ヴァネッサは呆然として尋ねてくる
「ええ、間違いなく魔法…。まさか、ゴーレム…」
ゴーレムは巨大な泥人形はのっそりと前進してきた。
一歩踏み出すたびに地響きが足に伝わってくる。
その足元には敵兵が取り巻き、ゴーレムともに前進していた。
「ゴーレム?とやらは、あんたに任せるよ」
「了解。任せて」
とは言ったものの、どうすればいいか考えあぐねていた。
ゴーレムとは、魔法により自立稼働させた人形である。
複雑な術式を魔法陣に込めて発動させる。
単純な動きだけなら私でもできるが、それでも相当な苦労を要する。
今、目の前にいるのは三体。
動きはバラバラ。統一感はない。
ということは三体それぞれが独立して稼働しているのか。
暴れまわれば相当な被害が出るの必死。
「アレ、土でしょ?一気にさ、魔法で消しちゃってヨ」
「そういう単純な事では倒せない」
「またまた、ご冗談ヲ」
ミャンは楽観的に笑う。
冗談ではない。
三体を自立稼働。
それだけで済むはずはない。
何かしらの仕掛けあるはず。
ゴーレムと敵兵は迫ってくる。
「どうすんのサ?」
「私から仕掛ける。離れて」
胸のまえで両手の間に魔法力を貯める。
「アイス・ランス!」
両手を前に出す。
両手の先から大きな氷の柱を出現させ、中央のゴーレムに向かって放つ。
氷の柱は、ゴーレムの上半身を貫く。
ゴーレムは動きを止める。
貫いたそこには穴が空き、向こうが見えた。
「おほー!やったジャン」
「さすがエレナ隊長」
ミャン達は喜んでいるが、私は冷静だった。
これで終わるわけがない。
ゴーレムは再び動き始め、前進を始める。
そして、上半身に空いた穴が塞がっていく。
「エエエッ!?」
「やはり…」
この程度の攻撃で、倒せたら苦労はしない。
次、どうすれば…。
敵兵とゴーレムが近づき距離が縮まっていく・
「脚を壊したら止まらない?」
「一時的でしかない。根本的な解決にはならない」
そうヴァネッサに話す。
「まずはそれで時間を稼ぐんだよ。その間に敵の数を減らす」
「でも、兵士の障壁は?」
「障壁はない。やる気だよ、あっちは」
敵兵はそれそれ武器を手にしていて、臨戦態勢のようだ。
「あんたがゴーレムを脚を壊したら、あたしらが出る」
「了解…」
ゴーレムを倒せてない状況で、ヴァネッサ達が前に出る事には反対だったが、何もしないでいれば解決するかというと、そんな事はない。
「気合い入れてかかるよ!」
「おお!」
私はさっきと同じように氷の柱を作り出す。
今度は三つ同時。
頭上に作り出した氷の柱。
ヒヤリとした冷気が、私に降り注ぐ。
「準備完了」
「よし。あんたのタイミングいいよ」
「了解…」
氷の柱三つを、ゴーレムの右脚に向けて放った。
氷の柱は、ゴーレムの右膝あたりを貫く。
ゴーレムはバランスを崩し、倒れ込む。
逃げ遅れた敵兵の何名かがゴーレムの下敷きとなった。
「よし行けええ!」
ヴァネッサの号令とともに、バリケードの左右から兵士達が飛び出ていく。
左の隊はヴァネッサが、右の隊はガルドが率いている
敵兵に障壁はなく 、ヴァネッサ達が交戦状態となる。
武器同士が打ち当たる金属音が至る所で聞こえる。
「エレナ隊長、ゴーレムが!…」
「やはりこの程度では足止めにしか…」
ゴーレムの脚が復活し始めた。
私は再び氷の柱を作るべく魔法力を貯める。
こんな事を繰り返していては埒が明かない。
根本的にゴーレムを倒す事を考えなくては。
「エレナ、ゴーレム?とやらがまた歩き始めるぞ」
「わかっている…」
ライアにそう答えるが、こちらの魔法の準備が整っていない。
ゴーレムの復活が予想以上に早い。
動き出したゴーレムの一体が、ヴァネッサ達の方へと向かう。
「まずい!…」
作り出す氷の柱を三本から二本へと急遽変更。内一本をヴァネッサ達の方へ向かうゴーレムに放った。
片脚を貫かれたゴーレムがバランスを崩し倒れる。
もう一本を中央のゴーレムへ放つ。同じように倒れた。
「右のゴーレムがガルドの方へ向かっている!」
「了解」
右のゴーレムを足止めするべく、急いで氷の柱を作り始めるが、間に合わない!。
ゴーレムはガルド達を足蹴にする。それに敵兵も巻き込まれていた。
「なんて事を…無差別か!負傷兵を早くひかせろ!」
巻き込まれなかったガルドやミャン達が負傷した味方を引きずり下がっている。
ゴーレムがそれに追い打ちをかけようしていた。
「ガルドさん、早く下がってください!」
「エレナ、まだか!」
「もう少し…」
両脚を破壊しようと氷の柱を大きくしていた。
それが仇となった。
「ぼくが注意を引き付けて時間を稼ぐ!」
ライアが翼をはためかせ飛び上がる。
「行ってはダメ!」
彼女は、私の静止を無視して行ってしまった…。
僕は通用口から事態を見守っていた。
モヤの中から出てくる敵兵達。
敵兵達は障壁に守られていてヴァネッサ達の攻撃防ぎつつ前進する。
エレナの魔法で押し返したが、怪我人や疲労で戦力が減った。
「怪我人は先生の所へ行け!」
レスターが警備通路から叫んでいる。
すぐに前線へ兵士が補充され、軽食が運ばれた。
「ウィル様も」
料理長のグレムから軽食を手渡される。ハンスにも。
小麦粉を水でこねて薄く焼いたものを使って、スープにすべき材料を調理し巻いたものだ。
「…」
何もしていない…いや、できないでいる僕にこれを食べる資格があるのだろうか?…。
「ウィル様、どうしたんです?」
そばにいるハンスが軽食を食べながらそう尋ねてくる。
「あまり、食欲がないよ…」
「だめですよ、食べないと」
「だけど…」
「食べれる時に食べておく。一寸先は闇。どうなるか分からないんですから」
確かにそうだ。
商人だった時も、宿の次に重要視していたな。
「イケますよ、これ」
彼に習い、僕も渡された軽食を頬張った。
濃い目の味付けなのは、満足感を得るためだろうか?。
ヴァネッサ達は作戦会議中のようだ。
「隊長!」
サムが声を上げた。
彼が指差す方には…。
「何だ、ありゃ…」
ハンスが唖然としている。僕もそうだった。
「どうしたんだよ?」
「見せてくれ」
兵士達が通用口に集まって来る。
「何だよ、あれは?…」
「知らねえって!」
今まで見たことがない異形なものが三体、モヤの中から出てきた。
人型のそれは土、泥のようなもので出来ていて人の背丈の三倍はある。
それともに敵兵も出てきた。
巨人が一歩踏み出すたびに地響きが起こる。
「あんなの、どうやって戦えばいいんだよ」
「お、落ち着けって。こっちにはエレナ隊長がいる。何とかしてくれるはすだ」
そうエレナがいる。
あの巨人も敵の魔法士が作り出したものだろう。
なら、エレナにしか対処は出来ない。
「エレナが魔法を使おうしているぞ」
彼女は巨大な氷の柱を作りだし、巨人向かって放った。
柱は巨人の胴体を貫く。
「おお!」
「すげえ…」
巨人の胴体にはぽっかりと穴が空く。しかし…。
「穴が塞がっていく…」
「エレナ隊長の魔法が効かない?」
効いていないわけではないだろう。
あの巨人に対しては有効な魔法では事は確か。
エレナの魔法が効かなかった事が兵士達に伝わり、落胆と動揺が広がっていった。
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