20-11
バリケードに兵士を配置してから三日目の昼。
「隊長!敵に動きあり!何かを準備してる模様!」
警備通路から兵士が叫ぶ。
あたしはちょうど館の外にいた。
「やっと来たか…。全員持ち場に付け!」
兵士達が慌ただしいく動き始める。
ハンスとソニアには、ウィルとリアンのそばに行くように指示。
あたしは胴鎧だけを身につける。
「レスター。あんたは弓兵隊と魔法士隊を連れて北側の警備通路に。上から状況を見な。それとライノ、ステイン、ミレイの面倒も見て」
「了解!」
レスター達は警備通路に上がって行く。
「ガルド」
「はい」
「あんたはあたしと一緒に前に出るよ」
「了解。暴れていいんですよね?」
「ああ、手加減はいらない。だけど、引くところを間違えるんじゃないよ」
「任せて下さい」
ガルドはニヤリと笑顔になる。
彼には竜騎士以外の兵士の編成を任せた。
「サム!スチュアート!」
「はい!」
「あんた達も前に出る。出来るね?」
「隊長、出来るとか出来ないとか言ってる場合じゃないんでしょう?」
フル装備のサムが、彼らしくない真剣な表情を見せる。
「そうだよ」
「なら、やってみせます」
「期待してるからね」
「はい」
「よし、竜を連れてバリケードの後ろへ。あたしとガルドのもだよ」
「了解」
二人が厩舎へと走る。
次にライノ、ステイン、ミレイを呼び寄せた。
「あんた達は、とりあえずここにいてレスターの指示で動く事。いいね?」
「はい」
緊張か不安か。
三人の表情は硬い。
「あんた達も出ないといけない状況になるかもしれない。覚悟は決めておくんだよ」
「わかりました」
三人と拳を合わせる。
「ヴァネッサ」
呼ばれ振り向くとミャンとライア、それとアリスとジルが立っていた。それとエレナ。
五人とも準備万端。
「アタシは当然、前に出ていいよね?」
「今出ないでいつ出るの」
「イヒヒ」
ミャンはなんだか嬉しそう。
ミャンはこういう時でも笑顔を絶やさない。それが心強い。
「ジル、あんたも」
「はい」
「アリスとライアはバリケードの後ろで待機」
「了解だ」
「わかりました」
アリスは真っ昼間の戦闘は苦手をしている。
戦闘能力が減ったとしも賊には負けはしないけど、長時間の戦闘は無理だろう。
最近は日を浴びて慣れようとしているが、吸血族の血の濃さがそうさせるのかあまり成果は見られない。
ジルも平気というわけではない。長時間の戦闘は苦手だ。
ライアは翼人族だから目立つし出したくない。
彼女の剣は頼りになる。が、今回のように多人数戦では使いにくい。
彼女が得意とする翼を使った立体的は剣術では、弓や魔法で狙われる可能性が高い。
二人が出る事態にはしたくない。
「エレナもバリケードの後ろに」
「了解」
「あんたには向こうの魔法に対して対応してもらう」
「任せて」
彼女は大きく頷く。
魔法士隊のエデルをエレナのサポートに当てた。
彼は元剣士という風変わりな魔法士だ。
脚に怪我をして剣士としてはやっていけなくなったため、魔法士へと鞍替えした。
敵に接近されても仕込み杖で最低限の対処はできるだろう。
敵が厄介な魔法を使ってこなきゃいいけど…。
「あとは…」
ガルドが兵士を編成してるところを見ながら考えていたら…。
「ヴァネッサ!」
呼びかけに振り向くとウィルとハンスがこっちに向かって来ていた。
「ウィル?どうしたの?」
「ヴァネッサ…戦闘をそばで見たいんだ」
「何言ってんの!あんたが見る必要はないし、あんたの身が危ないでしょ」
「わかってる」
「わかってるなら、館に入ってな!」
あたしは館を指差す。
「領主として見届ける義務がある。そう、思うんだ」
「見届けた結果が最悪だったとしてもかい?」
「君を信じているから、そんな事にはならないよ」
そう笑顔で話す。
「あんた、バカでしょ」
「それはお互い様だよ」
「ふっ…」
あたしは思わず吹き出す。
「リアンには言ったの?」
「言ってない」
「リアン様は領民のそばにいると言ってソニアと一緒に…」
ハンスがそう答える。
「リアンに怒られても知らないよ」
「それは気にしないで」
まあ、あたしには関係ないからね。
「わかったよ、もう…通用口からは、絶対に出ない。これだけは守って」
「ああ」
「ハンス!」
あたしは彼にケツを蹴り上げた。
「痛って!ええ?俺、何も…」
「あんたは体張ってでも、ウィルを止めなきゃダメでしょ!」
「すみません!」
「たくっ…」
「ヴァネッサ、ハンスを悪く言うのは…僕が言うもおかしいけど…」
ウィルは、あたしとハンスの間に入る。
「ほんと、おかしいよ」
全く何考えてんだか。
黙って見に来られるよりはいいけど。
ハンスには絶対にウィルを外に出すなと、釘をさしておいた。
ガルド達はすでに出ている。
「さあ、始めるか…」
周囲の兵士達の表情は強張っている。
「気合い入れてかかるよ!」
「はいっ!」
「レスター!」
彼は何も言わず笑顔で親指立てるだけ。あたしも笑顔で親指を立て返した。
小走りで通用口出てバリケード裏へ。
「どんな様子?」
バリケードの中央で、姿勢を低くするガルドの肩に手を置く。
「陽炎の向こうに敵が集まっているように見えます」
「ああ、そんな感じに見えるね」
はっきり見えないのがもどかしいけど、今までと明らか違う。
やる気だ。
「敵がはっきり見えたら、バリケードの前に出る。いいね」
左右にいる兵士達に言う。
「了解」
陽炎は消えずに奥に引いていく。
そして敵兵が見え始めた。
「出るよ」
「了解!」
バリケードの左右を回り込んで前へ。
横陣に陣形を組む。
最前列にはあたしとガルド
あたしとガルドが中央。
その横に兵士。そして左右の端にサムとスチュアート。
前から二列目にはミャンとジルを配置させた。あたしとガルドの後ろにいる。
その後ろにもう一列。
各列十名前後
現れた敵も横陣。
陽炎は敵の後ろで存在し続けている。
お互いににらみ合う。
「剣を抜け!」
剣を抜き臨戦態勢を取る。
敵は剣を抜かずに、こっちを見てるだけ。
なんだ?妙な感じ….
こういう時、お互いに剣を抜くものだと思っていたんだけど。
「なめてんのか!ああ?」
ガルドが威嚇するが、怖気付いた様子はない。
ガルドの威嚇で怖気付いて動揺しないなんて。
敵の陣形も整っている。
賊とは思えない。
やはり指揮官がいる。
どいつだ?。
敵兵を一人ひとり見るが、指揮官らしき者は見受けられない。
「ガルド。指揮官らしき奴がいたらできるだけ早く潰せ」
「はい」
敵がゆっくりと前に進み始めた。
こっちを警戒しつつも進みは止めない。
「ねえ、ヴァネッサ。こっちは出ないの?」
「焦るんじゃないよ」
「一気に片付けようよ」
ミャンは待ちきれないみたいだね。
一気に片付けたいのはミャンだけじゃない。
あたしもだよ。
だけど、なんか妙なんだよ。
「あいつら、やっぱど素人ですよ。こっちは弓兵がいるってのに…意外にあっさり勝てるかもしれません」
「楽観するんじゃない。始まったばっかりなんだよ」
敵がどんどん近づいて来る。確実に。
嫌な予感はそのままだった。
「まずは敵を減らす。ガルド、レスターに指示を」
「了解」
素人なら、逆手に取るだけ。
弱点を突くのは常套手段だ。
「隊長」
「ああ、全員しゃがめ」
全員が弓兵と魔法士隊の攻撃視界確保のため腰を落とす。
あたしは手を上げ、一度止めそして振り下げた。
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