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ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


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20-7


「姉御!」

  

 タイガは入ったくるなり、そう叫ぶ。


「やっと帰ってきたか…」


 あたしは少し安堵する。


「ただいま戻りました」


 ユウジが丁寧に頭を下げた。


「おかえり。ジョエルには会えた?」

「はい。例の手紙はちゃんと渡して来ました」

「そうか」

「ありがとネ」


 ミャンがお礼を言ってる。 


 例の手紙とは、猫族特有の薬に関するもの。


「あと、薬や薬草に関して色々教えてもらいまして、取引もして来ました」

「取引?」

「はい」


 タイガとユウジは、ジョエルとの取引のため、深き森と王都を往復していた。

 どうりで帰りが遅いわけだ。


「いやいやいや、取引とかどうでも良くね?シュナイツが賊に襲撃されてるんだぜ」

「わかってるよ。報告はしないといけないだろ?」


 真面目なユウジらしいね。


「大きな光の帯というか柱が見えましたが?…」

「敵側の魔法士による攻撃」


 エレナが淡々と答える。


「マジで!?」

「あれが…」

 

 これまでの状況を二人のざっくりとだけど説明した。


「くっそ…ふざけやがって!」


 タイガ-は怒りをあらわにする。


「状況は良くないみたいですね…」

「まあね」

「俺たちが来たんだから良くなるさ」


 タイガは自信ありげに腕を組む。


「二人だけじゃあまり変わらない」

「姉御、そんな事ないっすよ」

「そんな事あるの。帰って早々悪いけど、あんた達にはやってもらいたい事がある」

「僕達にですか?」

「そうだよ。救援要請に行って来てもらう」


 現状、敵との戦力比は互角だろう。


 籠城しジリ貧の分、こちらが不利。


 これを打開するには外から増援を呼ぶしかない。


「増援と言ってもどこに…王都からでは食料が持ちませんよ」


 レスターがそう話す。


「わかってるって。六番隊ならどう?」

「六番隊…一応近いですが…正規の竜騎士隊がこちらの要請に答えてくれるかどうか…」


 通常、正規の竜騎士隊は上からの命令で動く。

 その他の要請では動かない。

 

 竜騎士隊に助けを求めるには一旦国側に要請しなければいけない。

 でも、そんな時間はない。


「あたしとウィルの連名で手紙を書く」

「それで動いてもらえるかどうか…」


 動いてもらわなきゃ、あたしらだけで正面切って戦うしかない。


「…俺らは戦力に入ってねえかよ」

「誰も戦力になってないなんて言ってないでしょ」


 不満顔のタイガにそう話す。


「だったらなんで、救援要請とかパシリなんだよ!」

「失礼ですよ。ヴァネッサ隊長は…」

「ジル、いいって」


 タイガの言葉を嗜めるジルを止める。


「あんた達を信用してるから、救援要請に行かせるんだよ。どこぞのわからないヤツに任せるなんてしない。この戦闘の要なんだから」

「…」

「増援がないと、とんでもない被害が出る。あんた達二人が一騎当千の戦いができるってんなら別だけど」

「…」


 タイガは黙ったまま、あたしやジル、ウィル達を見回す。


「タイガ、気持ちは分かるよ」


 ユウジがタイガの肩に手を置く。

 タイガはその手を振り切り多目的室を出ていく。

 その後をジルがタイガを追おうしたが、ユウジが止めに入る。


「あの、僕に任せてください。大丈夫ですから」

「しかし…」

「なら、頼むよ」

「はい。救援要請の手紙を用意してください。出来次第、すぐに出発します」


 ユウジは、そう言うと敬礼し多目的室を出ていく。


「申し訳ありません」


 ジルがあたしに頭を下げる。


「謝る事じゃないって」

「わたくしの指導不足より、あの様な発言に…」

「あんたの指導不足じゃなくて、あいつの経験不足だから」


 戦いたいって気持ちはよく分かる。

 後方支援じゃやきもきするだけで、手応えはないから。


 自分が重要な役割りだったとしても、納得できない割り切る事ができないって感情はある。


「若いのさ」

「隊長が言いますか?」


 苦笑いするレスターにツッコまれた。


「とりあえず、救援要請の手紙を書こうよ」

「そうだね」



 多目的室を出てタイガを探す。

 

 タイガは階段のそばにある北西の出入口を出た所にいた。

 ここにはベンチがある。


 僕は何も言わずに、彼の隣に座った。


「俺達、吸血族だよな?」


 タイガは壁に背を預け正面を向いたまま話す。


「そうだけど?」

「なら、戦うべきじゃね?」

「戦わない吸血族もいるし、僕達は商売をしてる」

「そうじゃなくてさ…」

「タイガ。直接的は方法じゃなくも、シュナイツを助ける事は出来るよ。分かるだろ?」


 彼は何も言わず、ただ大きく息を吐く。


「よお」


 そう話しかけてきたのは料理長のグレムさん。


「おはようございます」

「ああ。これからすぐに任務なんだって?」

「はい…」


 よく見るとグレムさんの後ろにゲイルさんがいた。そして、親指立てている。


「これ食べていけ」


 グレムさんがくれたのは、トレイに乗せられたいつも料理だった。


「朝の分は配分しちまったから残りものだが」

「十分です。ありがとうございます。タイガ、ほら…」

「…あざっす…」


 スープは少な目だけど、パンはいつもより大きいサイズだ。


「頑張れよ」

「はい」


 用意してくれた料理を二人で黙々食べる。

 

「こうなったら絶対に竜騎士を連れて来てやるぜ」

「ああ」


 僕達は、まだ下っ端だ。

 出来る事は少ないし、判断能力にも乏しい。

 命令されるばかりだけど、それを確実に実行したい。


 食べ終わってしばらくしてヴァネッサ隊長とレスターさんが現れる。

 僕達はすぐに立ち上がり、姿勢を正す。


「これね、手紙」


 渡された手紙は二通。


「二通…ですか?」

「内容は同じだ。二人それぞれ持って行け。不慮の事故に備える」

「なるほど。わかりました」


 タイガと僕、それぞれの鞄の中にしまう。


「六番隊の場所はわかってる?」

「そばを通ったことがあります」

「ウィル様が小麦の商談に行ったとこより少し南だったよな」

「うん」

「そうだね」

「どれくらいで行ける?できるだけ早く行ってほしんだが…」

 

 どれくらいかな…。


「リカシィよりも南だろ…」

「四日?」

「三日で行けないか?」


 レスターさんはそう尋ねる。


「道沿いじゃなくて、最短距離でいけば行けるぜ」


 タイガは自信ありげに言う。


「行けるぜって、確証もなしに言わないでよ…」

「行けるって。絶対行ってやる。そして、竜騎士を連れて帰ってくる。約束する」

「タイガ…」

 

 そんなにムキにならなくても…。


「わかったよ」


 ヴァネッサ隊長は怒りもせずに頷く。


「あんた達にも作戦を教えておく」


 隊長が考えている作戦。


 増援とシュナイツの戦力とで挟み撃ちするというもの。


「ポロッサに敵兵が紛れ込んいる可能性もあるから、休憩なんかはその手前で」

「はい」

「竜騎士隊はポロッサとシュナイツの間で一旦待機。敵に見られないようにね」

「おう」

「待機させて、あんた達はシュナイツに急いで戻って挟撃のタイミングを合わせる」

「これは予定だからな。状況によって変わる場合もある。その時はお前らが判断しろ」


 と、レスターさんは話す。


「しろってさ、具体的にどうすりゃいいんだよ…」

「一応、あたしらが引き付けて、六番隊が後ろからってのが予定なんだけど、六番隊が先かもしれないし、同時になるかもしれない。その辺ことも手紙に書いてあるから」

「あるのか…焦ったぜ」

「何があったも動じてはいけないんですね」

「そうだよ。落ち着いて状況をよく観察する」

「わかりました」


 タイガには苦手な部類だ。

 僕が判断しないといけないかも。


「それともう一つ。タイガ」

「はい!」

「挟撃作戦。あんたも、ユウジもだけど、二人も参加するんだからね」

「参加って戦闘に参加?」

「当たり前でしょ。見学だけしたいなら、それでもいいけど?」

「いやいやいや、やります!やりますよ!」

 

 タイガは嬉しそうだ。


「暴れていいから」

「しゃあ!」

「空回りして怪我はするなよ」


 レスターさんは苦笑いを浮かべてる。


「怪我とか勲章ですよ。なあ?」

「吸血族だから、多少の怪我は大丈夫だけど、僕はしたくないよ…」


「で、これはウィルから」


 渡されたのはお金。


「大丈夫です。ジョエルさんとの取引で稼ぎがあったので」

「だとしても、持って行って。ウィルなりに何かしたいのさ」

「そういう事なら、わかりました」


 お金を受け取った。


「じゃあ、早速」

「ああ、頼んだよ」

「はい」


 ヴァネッサ隊長とレスターさん、それぞれと拳を合わせ僕らは、六番隊に救援を求めにシュナイツを出発した。



「後は祈るだけだね」

「はい。あいつらが三日で着いて、すぐに竜騎士隊が出発したとしても、シュナイツまで十日はかかるはずです。その時、どうなっているか…」

「どうなってるかは、あたし達がどうするかで決まる」

「はい…」

「やれる事をやるよ。まずはバリケードを完成させる」

「了解」



Copyright(C)2020-橘 シン

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