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ブレイバーズ・メモリー(2)  作者: 橘 シン


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19-11 初めての王都4


「それでいくら位かかるの?分割払いはできる?」

「お金はええよ」

「ええよって、いらないってこと?」

「うん、その代わり…」

「その代わり?」

「うちの商品を買ってくれや」

「商品って」

「香辛料や」

「香辛料か。ねえ、香辛料ならいいよね?」

「ああ、もちろんだ。料理に必須だからな」

「契約成立やな」


 アスカさんの手配で、マリーダさんや大工の棟梁まで店の改装に加わり、イメージチェンジは完了する。



「それからは客が増えたな」

「俺は前から知ってるけど、変わりすぎて別の店かと思ったよ」

「女性客が増えたが嬉しかったわ。ウィルさんには感謝してる」


 ウィル様は商売を繁盛させる力を持っているのかもしれない。



「ジョエルさん。僕達もあなたに相談というか教えを乞いたいと王都まで来たんです」

「そうなのか。何を教えてほしい?」

「俺達、クァンさんから北の深き森を受け継いたんだ」

「それで?」

「森には薬草がたくさんあります。その薬草で商売できないかなと」

「シュナイツに恩返しをしたいんだ。金欠だし、なんとかしたいんだよ」

「なるほど。深き森の事は知ってるよ。行こうと思った事はあるが、慣れてないと遭難するって噂を聞いてからはやめた。お前らは大丈夫なのか?」

「ああ、大丈夫だぜ」

「だいぶ覚えてきました」

「吸血族だもんな」


「どんな薬草が取れるのか教えてくれ」

「はい」


 俺達はクァンさんの手帳を、ジョエルさんに見せる。


「どれどれ…これはずいぶん詳しいな」

 彼はクァンさんの手帳に感心する。


「薬草は時期によって取れる物が違うから安定供給難しいんだ」

「はい」

「だから薬草で商売するのは難しいぜ」

「ジョエルさんはやってるじゃん」

「俺は薬草の買い取りをだし、一箇所じゃないし、買い取った物を納品、それで製造した薬を仕入れて売る。までやってるから」

「では僕達に商売は無理だと?」

「無理じゃないが…厳しいな」

「マジ?…」

「クァンさんは一人でやってました」


 そうクァンさんは一人でやっていたんだ。

 あんなに広い森を一人で回って…。

 

「一人食って行くだけなら、できるだろうさ」

 ジョエルさんは厳しい口調で話す。


「お前ら二人で食っていけるのが、限界だろうな」

「…」

「…」

「シュナイツまで助けたいなんて…気持ちはわかるがな」


 商売が難しい事はわかってたけど、実際に言われると…。


「厳しすぎるんじゃない?まだ始めてもいないんでしょ?」

 ニーナさんが気を使って優しく言ってくれる。


「それが現実ってだけですよ。ニーナさん達もわかってるでしょ?むしろニーナさん達のほうが、わかってる」

「そうだけさ…」

「厳しいからって、辞めるわけじゃないんだろ?」

 マーカスさんがカウンターの裏から出て来る。


「もちろんです」

 ユウジが力強く答えた。 


「薬草を必要としている人は必ずいるはずだ」

「はい」

「厳しくても誇りを持ってやっていれば、認めてくれる人が出てくる」

「継続は力ってね」


 俺達はまだ始めてすらいないんだ。

 ビビってどうする。


「ジョエルさん。シュナイツの事はとりあえずいいから、商売の事、薬草の事を教えてくれよ!」

「シュナイツに恩返しができなくても、頼るのだけはやめたい」

「お前ら…」

 彼は何か含んだ笑顔を見せる。


「長くなるぜ?」

「構わねえって。な、ユウジ」

「うん。ジョエルさんが良ければ」

「俺は一通り終わって帰るだけだから」

「じゃあ」

「やる気がある内にやらないとな。すみませんが、このまま店にいていいです?」

「いいわよ」

「ちゃんと金払ってくれよ」

 マーカスはそう笑顔で言いながらカウンターの裏に行く。


 ジョエルさんから色々教わった。


 商売の基本やお金の出入りを記録すること、薬草の事など。


 メモするためのペンとインク。紙までくれた。


 夕方は過ぎて、もう夜になる。


 店には夕食を食べるための客で込み始めた。


「とりあえずこんなところか…」

「ありがとうございます」

 メモは全部ユウジに任せた。

「やべぇ…全部覚えられねって…」

「やっていれば、自然と覚えられるさ」

「お金の出入りはきちんと記録したほうがいいですか?」

「一番重要だな。いくらで売ったか、いくら支払ったかを記録しておけば、計画的に金のやりくりが出来る」

「なるほど」

「いくらで買ったかな?とか、売ったかな?とか覚える必要はないし」


 正直、めんどくせー。


「ユウジ、頼む…お前がやってくれ…」

「言われなくてもやるよ」

「苦手なのか?」

「別に苦手じゃねよ…めんどくせえんだよ」

「確かに面倒くさいな。でも、やらないと無駄使いでいつまで金が貯まらない」

「僕が管理するんで大丈夫です」

 

 商売に関しては、ユウジが主導権を握る事になった。

 異論はない。

 俺がやったら、めちゃくちゃになる。必ず。


 夕食もエルージュで食べた。

 その夕食が食べ終わった頃。


「じゃあ、早速取引するか」

「え?」

「今?」

「今やらずにいつやるんだよ。話聞いて、はい終わりって商売やっていけないぜ」

「はい…」

「儲けるチャンスは逃がすな」


 逃すなって言われてもな。


「で、具体的にはどうすれば…」

「さっき見せてもらった手帳に、欲しい薬草があったんだ。それを採って来てほしい」


 ジョエルさんはいくつかの薬草の名をあげる。

 俺達は手帳を見ながら確認した。


「どうだ?用意できるか?」

「あー…えっと…」

「多分、できると思います」

「多分、じゃダメだ。不確定な約束はするな」

「はい」


「これは、クァンさんといった洞窟で採った物だよ」

「おう。これは…どこでも採れるって書いてあるぜ」

「それは、その辺の林でも採れるな。だが量が欲しいんだ」

「なるほど」

「これって…ワーニエであったお医者さんが持っていた物だ」

「あのクッサイやつか?」

「傷薬に使われるやつな。他のと混ぜて使うと違う効能になる」

「へえ」

「量はどのくらいを希望ですか?」

「あーそうだなぁ…この皿に山盛り一杯」

 

 ジョエルさんは、食べ終わった夕食の皿を指差す。


「両手にいっぱいを二つくらい?」

「それくらいだな」

「そんなに採れるのか?これ…」

「お医者さんが結構な量を持っていたはず。しかもクァンさんから買った物だった」

「じゃあいけるな」


 俺とユウジは頷く。


「ジョエルさん、その依頼引き受けます」

「よおし。全部持ってきたら二千払う」

「「え!?二千!?」」

「あれ?少ないか?」

「いやいやいや。なんで二千も払うんだよ」

「普通だぜ」

「普通なのかよ」


 もっと高額の取引もあるらしい。


「初めての取引だから、ちょっと上乗せしてるけどな」

 そう言って笑う。


「それで手順は?また会う約束をしないといけないですよね?」

「直接会って取引するのが理想だが、俺は帰らなきゃいけないんだ」

「じゃあ、どうすんだよ」

「ギルドに仲介してもらう」

 

 まず、取引額の半分をもらう。

 半分はギルドに預け、依頼された分の薬草をギルドに持っていった時にもう半分をもらう。 


「へえ」

「なるほど。ジョエルさんは、後で薬草を回収と」

「そうなる」

「量とか誤魔化かもしれないぞ」

「タイガ…」

「この方式は信用できる奴としかしない」

「あの、僕達初対面ですけど?…」

「お前らは大丈夫だよ。ウィルの紹介だし、ユウジは真面目そうだしな」

   

 ユウジは? 


「それは、どうも」

「俺は?」

「お前も大丈夫だと思う」

 そう言いながら笑う。

「なんで笑うんだよ」

「いや別に」

「タイガも基本真面目ですので大丈夫です」

「大丈夫、大丈夫ってなんなんだよ…」


 俺は、量とかちょろまかした事なんてねえから。

 マジで!。


「まずは千ルグだ」

「…確かに千ルグいただきました」

「次はギルドだ」

「この時間混んでるんじゃ…」

「窓口が違うから大丈夫なはずだ」


 ギルドに向かう事になった。

 と、その前に。


「ニーナさん。食事代、全部でいくらです?」

「三百五十だよ」

「三百五十ね」

「僕達も支払います」

「いいって、俺が払うって言ったろ?」

「千もらったから、少しだけも…」

「借りは作りたくねえだよ」

「借りにするほどの額じゃないだろ」

「ジョエルさんはそうかもしんねえけど、俺達は違うの!」

「はいはい…じゃ百出してくれ」

「百ですね。どうぞ」

 ジョエルさんは受け取り、ニーナさんに食事代を支払った。


「毎度ぉ」

「じゃあこれで」

「またね。若い二人も」

「また来ます」

 

 俺達はエルージュを後にしてギルドへと向かう。


 ギルドは混んでいたけど、仲介用の窓口は空いていた。


「いらっしゃいませ」

「薬草売買の仲介を頼む」

「かしこまりました。少々お待ち下さい」


 窓口に出た男性に変わって別に男性が現れる。



「ジョエルさん、どうも」

「よお」


 男性は親しげにジョエルさんと会話を交わす。


 男性は元々薬草師らしく薬草に詳しい。


「この二人を取引したいんだ。仲介を頼むよ」

「わかりました。こちらの契約を書いてください」


 契約の書き方を教えてもらう。


「こんな感じだ」

「なるほど」

「ここに名前を書いてくれ」


 俺達二人の名前を書く。


「若いようですが、駆け出しですか?」

「ああ、今日からな」

「初対面での取引はお薦めしませんが…」

「初対面だが、友人からの紹介だから大丈夫」

「そうですか」


「書いたぜ」

「よし」


 同じ書類を三枚枚書いた。

 俺達とジョエルさんとギルドとで、それぞれ保管する。


 ジョエルさんがお金をギルドに預けた。


「俺達が、薬草をここに持ってきたら残りの千ルグを貰えるんだよな?」

「ああ」

「少し多めに持って来てください。足りなければ契約は成立しません」

「わかりました。けど、多めに持ってきて余った分はどうすれば…」

「少量なら店で買い取ってもらったほうがいいな」


 店か…。

 リカシィの店みたいのかな。

 

 価格交渉は、当然自分達でやる。


「相場とかわからないですけど…」

「いくつか店を回ればいい」

「めんどくせぇ…」

「取引掲示板を見ると大体わかりますよ」

「取引掲示板?」


 取引掲示板には、

 何をいくらで売ってますよ、いくらで買い取りますよみたいな紙か貼っているらしい。


「そういうのがあるのか…」

「そっちは余裕のある時でいい」

「最初の内はギルドほうでサポートします」

「ありがとうございます」


 ということで、俺達はジョエルさんと別れ宿へ。


「じゃあ、よろしくな」

「はい」

「ウィルにもよろしく言っておいれくれよ」

「ああ」


 僕達は翌日、深き森へと向かった。




「薬草取りにいって王都に戻って残りのお金を受け取りました」


「問題はその後だ。俺達の話なんてどうでもいい」


「うん…」


「一段落終わって、シュナイツに帰ったんだけど、シュナイツがあんな事になってるなんて思いもしなかったぜ…

「もっと早く帰っていれば、なにかできたかもしれねえ…」


「僕達にできる事は少ない」

「状況はあまり変わらなかったと思う」


「だけどよ…」


「今更言っても仕方がない。もう済んでしまった事だし」


「まあな…」


「タイガの気持ちはすごくわかるよ」


「詳しくは他の人に聞いてくれ」

「俺らが帰る前からの話を聞けるし」


「僕達は、これで失礼します」

「取引が待っていますので」




初めての王都4 終わり


エピソード19  終わり

Copyright(C)2020-橘 シン

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