最強の生物兵器
それは、見たことのない異様な生物だった。
「これが完成品だというのか……」
毛むくじゃらの全身と、うねくる長いしっぽに顔をしかめつつ、私は傍らの白衣の男へと不信感も露わに問いかけた。
「ああ、ついに成し遂げた」
科学者は誇らしげにそう言って、黄色い乱杭歯をのぞかせ笑う。
「あらゆる争いを終結させ得る力を持った最強の生物兵器を作る──そんな貴様の言葉を信じて私はこれまで支援してきた!」
「あんたには感謝している。おかげで俺は、子供のころ夢の中で見たこの生物を再現できた」
嗚呼。私はこの男の妄想を具現化するため、国家予算の大半を注ぎ込んでしまったのか。このままでは早晩、我が国は隣国の侵略になすすべもなく滅ぶことになるだろう。
怒る気力もなく絶望する私の足元に、その生物はまとわりつく。
「にゃーん」
そして上目遣いで鳴いた。
不思議だ。それを見ていたら、何もかもどうでもよくなってしまう。
「夢の中でその生物は、“ねこ”と呼ばれていた」
科学者が言った。それは我が星のいかなる言語体系からも外れた奇妙な発音で、にもかかわらずなんと心安らぐ名前、そして鳴き声と姿だろう。
──数年後。
暴君と謳われた隣国の皇帝と私の右手は、堅く和平の握手を交わしていた。
互いの左腕に“ねこ”を抱き、満面の笑みを浮かべながら。