隣街の偵察
アヴァントさんが、あの要求を受け入れた理由がよくわからない。
「本当に、良かったんですか…?明後日から、戦争なんですよね…?」
アヴァントさんは、頷いて、真剣な顔で理由を教えてくれた。
「はい。実は私も、この街に入るのは初めてなのですわ。これで、見て回れば少しは対策が出来るかもしれません」
なるほど…つまり、これは下見なのか。納得。
「ひとまず、どの様な武器があるのかを、確認しましょう。それと、出来れば、マジックユーティリティの皆様の情報も、手に入れておきたいですわ」
本気だな、アヴァントさん。大人しい性格の人でも、戦闘狂の人はいるのかな。
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武器は…銃、ライフル、マシンガンかな、これ。…うわ、ロケランまである…弓もあるのか、飛び道具が多いね…
「どうやら、この類のものは、マジックユーティリティではない方がお使いになる物の様です」
まあ、それはそうだよね。マジックと併用されたら…うん、即死案件だ。併用されなくても多分即死だけど。それに、私は戦えないし。
「近接武器もある様ですね…」
隣の机を見ていたアヴァントさんが、困惑している声色で独り言を呟く。
見てみると、確かにナイフや刀、剣…と、これは…細剣ってやつかな。
「困りましたね…これだけ武器類が豊富ですと、不利です。数の力で負けてしまいます。今の私達のマジックだけでは、恐らく…」
敵わない…って事か。プリズンタウン、恐るべし。戦力重視の街って言うだけある。夢マジックが、どれ位強いかはわからないけど、もし、ないとは信じたいけど…レベルⅤだった場合、一気に勝ち筋は無くなる。
そうだ、レベルと言えば。
「フライアが今、レベルⅢですよね。後の四人のレベルは、いくつなんですか?」
アヴァントさんは、辺りを見回した後、耳元で囁く様に言った。
「私とカーシアル様がレベルⅡ、ガレア様はレベルⅣですわ。ミディル様からは…あの方は、自分のマジックがあまり好きではない様でして、今までに何度かお訊ねしたのですが、お答えいただけなくて…」
なーるほど。ミディルさんだけ不明なのか。てか、本当に人嫌いなんだな、ミディルさん。それかあれか。『誰とも絡まない俺カッケー」タイプなのかな。なんか…クラスにいたな、何だっけ…『俺に友達なんて必要ない。一人で生きれる』…とか言ってた人いたわ。このタイプ説押してこう。そうしよう。
「武器はこれで全部なのでしょうか…見逃しはないでしょうか…」
奥の机もざっと見…うん、同じ武器があるだけ。多分見逃しはない。
「多分大丈夫です」
「それでは…管理者施設へ参りましょうか」
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管理者用特別施設。まあ…お城みたいな所。
部屋の隅々まで情報を探す。
無かったら次の部屋に行く。
また隅々まで探す。
次の部屋に行く。
これをずっと繰り返している。荒らさない事が条件だから、物を漁るのが難しい。
「こっち側にはありませんわ」
「私の方も特にないです…」
重労働。疲れた。
でも、ここで辞めたら負ける。寧ろ、今までよく負けなかったな。
「何となくですが…これが最後の戦争になる気が致します。ですので、何としてでも勝ちましょう!」
これが最後になるかもしれない…か。負けは嫌だよね…
戦えない私が出来る事、それは情報を探し漁る事だけ。
「アヴァントさん、確か隣は書庫室です。そこに、何かあると思います」
その『何か』に賭けるしかない。
もう、日が沈み始めている。これが…この部屋が、最後だ。
扉を開けて、中に入る。効率的に、手早く探すには、むやみやたらと見て回る事じゃない。怪しい物を見ていくんだ。
「…ん、これかな」
古めのノート。表紙には、『マジックユーティリティ 情報一覧』と書いてある。
当たりじゃないか?これ。
一ページ目をめくる。まずは…管理者こと、ディラーさん。
[名前 ディラー
性別 男
身長 176㎝
体重 Secret
マジック 夢マジック
レベル 現時点ではⅣ
備考 プリズンタウン、三代目管理者。二つ目のマジックの入手、可能性大。稀に傲慢。気紛れ。甘党。]
最後の甘党って情報いるかな…てかこの◯に◯◯が読めない。
「あの…これなんて読むんですか?」
「まれにごうまん、ですわ」
稀に傲慢か。傲慢か…じゃあこれは何だろ、きまぎれ?
「これはきまぎれって読むんですか?」
「きまぐれ、ですわ」
気紛れか。
後、漢字ばっかりで触れなかったけど…
二つ目のマジック入手、可能性大ってこれ…もし、二つ目持ったら相当ヤバいよね?夢マジックレベルⅣなのに。
って事は…互角に戦えそうなのが、ガレアさん。ワンチャンありそうなのが、フライア。火力不足が、アヴァントさんと呪マジックさん。そもそもどうなのかわからないのが、ミディルさん。
うん。明らかに戦力不足だ。
「…とりあえず、そろそろ帰った方が良いかもしれませんわ。あまり長居していると、殺されかねませんし」
と、言う事で、フィクスタータウンに帰る事にした。
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管理者施設に戻ってきたのは、大分夜だと思う。周り暗いし…大体8時か9時。それか10時。
ドアを開けると、呪マジックさんに似た外見の女の子がいた。
黒髪クル巻ツイン、白リボン、銀目。絵とかによくある、太陽のペンダント。
この人、ガレアさんかな?
「お帰りなさい、アヴァントさん。初めまして、ガレアです」
無表情、抑揚がほとんど無い声。ちょっと不気味。とりあえず挨拶。
「初めまして、レイラです」
「さっそくですが、レイラさん」
ガレアさんは、私の首にペンダントをかける。みんながつけてる様なやつだけど、紐だけで、本来形がある所に、何もない。なのに、触ると何かある様に感じる。
何だこれは!すごいな!?
「ボクからアナタへ」
この人が私にペンダントを渡した…?
あれ、そうなってくるとさ。
「あの…他の人にペンダント渡したのも、ガレアさんなんですか?」
「それにはお答えしかねます。それよりも、ボクに敬語を使うのは辞めてください」
「あ、うん」
質問を跳ね除けられた上に、敬語を使うなって怒られた。何この人超怖い。
「あの…ミディル様を今、お呼びする事は可能なのでしょうか?」
「ミディになんか用あるの〜?」
「多分、呼べるんじゃないかな。ちょっと見てくるよ」
フライアは、外に出て行った。これから、ミディルさんを連れてくるんだろうけど、なにせ私の持論が『俺は孤独に生きるんだ』的な人だからなあ…予想、外れてるかなあ…