管理者用特別施設の様子
テーブルや椅子、雑貨などが置いてあるせいで、広いとは言えない施設内、フライアとカーシアルは対峙する。
「もう…何回言えば分かるの?アヴァントさんだけじゃ心配だから、僕も行くって言ってるんだよ」
「そっちこそ、何回言えば分かんのよ〜?アンタみたいなのに任せられないって言ってんでしょ?」
堂々巡りの言い合いに、二人はエスカレートしていく。
「決めた。き〜めた!アンタを呪って、ここから出させなければいいのよ!」
「君のレベルじゃ、まだマジックは呪えないでしょ。だって、レベルⅡだもんね?」
「うっるさいわね〜!」
余りにも、子供の様な反論…いや、反論ですらない言葉に、フライアは付き合っていられない、と言う様に椅子から立ち上がる。
「【ファイアマジック Ⅲ獄炎地雷】」
一瞬、床全体が炎に包まれたかと思うと、跡形も無く炎は消え、いつもと変わらないタイルの床へ戻った。
困るのは、カーシアルである。この床に地雷を仕掛けられ、その場から動くことが出来なくなったからだ。
「アンタ、ホントそ〜ゆ〜のウザいんですけど!?この毒舌!腹黒!ド変態!」
床一マスで地団駄を踏みながら、指を突きつけ叫ぶカーシアル。対して、フライアは平常通り涼しげな顔でその言葉を受け流す。
「謂れのない事を言われるってどう言う事かな?」
言葉を詰まらせるカーシアルに、フライアは追い討ちをかける。
「繰り返し言うけど、僕は事実を言ってるだけ。分かる?」
何度か口を開閉させて、ようやく言葉を絞り出す。
「あ、ああ、そう…つまりアンタは…」
そこまで言って、金色に輝く目を見開く。
「アタシ達をバカにしてるって事でいいのよね!?」
憤るカーシアルを鼻で笑う。
「どこからその話が出てきたの?」
「だって…だってアンタ…」
震えながら、フライアが今まで言ってきた言葉の数々を、一息に並べ立てる。
「いつもアタシ達に目ついてるのかとか脳みそあるのかとかこれまで何で生きてきたのかとか…色々言ってくるじゃない!」
「それも全部事実だからね」
はぁ…と息を吐くと、フライアを殺気の篭った目で睨みつける。
「…末代まで…呪ってやる…」
「やめなよ、姉さん」
鍵をかけていたドアが開き、外から少女が入ってきた。カーシアルの様に、くるくるに巻かれた黒色のツインテールが、白いリボンで留められている。薄手の黒いシャツと、白色の手袋。太陽の形を象ったペンダントに、銀色の目をした少女は、地雷がかかっているにも関わらず、中に踏み込んでくる。
「ちょっと、ここは危ないでしょ〜、ガレア!」
「大丈夫だよ」
ガレアと呼ばれた少女は、フライアの方を向いて
「地雷を解除してください」
と言う。
「あ、久し振りだね。いらっしゃい。解除だね、今するから、ちょっと待ってて」
もう一度、床から炎が立ち上ったかと思うと、またすぐに消えた。
「ありがとうございます」
ガレアは、無表情のまま感謝の言葉を述べる。
「ううん、こちらこそ、くだらないものを見せてたみたいでごめんね?お茶でも飲む?」
「お断りします」
興味なさげに断ると、ガレアが知りようもない、人物の名前が出てきた。
「…レイラさん、でしたか」
会った事すら無いはずなのだが、なぜか名前を知っている事に二人は驚きを隠せない。
「あの人は、まだマジックユーティリティでは無いのですよね」
何やら、含みのある言い方に、思わず顔を見合わせる。
「ボクは、表向きには光マジックユーティリティということになっています」
「何の話よ…アンタに、表向きも裏向きもないでしょうに…」
「だいたい、レイラさんがまだ、マジックユーティリティじゃないって話と繋がっていないよ。どういう事か、ちゃんと説明してもらえる?」
ガレアは、少しだけ躊躇う素振りをした後、カーシアルの方を向いた。
「姉さん、ちょっと席を外してもらってもいい?フライアさんに話すから」
それと、と付け足し、改めて2人の方を向いた。
「ボクがレイラさんの名前を知っていたという事は内密にお願いします。無いとは思いますが…もしも言った場合、アナタ達を転生させる事になりかねませんので」
──────────
入った瞬間、明らかに違う雰囲気が感じ取れた。ピリピリとした…緊張に満ちた空間。さすが、戦力重視の街なだけある。
「ディラー様に会いに行かなければなりませんね。可能性は極僅かですが、戦う必要が無いかもしれません」
ディラーって人はこの街のどんな役割なんだろう。
まあでも…多分、管理者。
「ディラー様は、プリズンタウンの管理者様ですわ」
やっぱ管理者。戦力重視の街の管理者で、夢マジックユーティリティ…情報多すぎない?なんなら、街の情報より多くない?
中央に噴水なんていう物はなく、ただアスファルトだけが、奥のお城の形をした建物まで続いてる。余分なものは置かないのか。
「こちらの建物ですね。いらっしゃるといいのですが…」
しばらく、お城の前で待ってみたけど、全然出てくる気配がない。留守なんじゃないのか、これ。
「…いないのかな?」
「ディラー様は、気まぐれな方だと聞きます。もしかしたら、ご気分が宜しくなくて、私と会いたくないのかも…」
「俺がなんだって?」
急に背後から声が聞こえてくる。聞いたことない人の声だ。しかも、その言い方的にこの人…
「…ディラー様」
同時に振り返る。
「よおよお、何しに来た?」
思ったよりノリ軽いな、この人。なんだろ…チャラい、って言葉が1番合う気がする。実際見た目はチャラそうに見えるし。
観察しよう。濃い青のローブ、下はズボンか。茶髪、外ハネ、右が赤で左が青…オッドアイね。首元には…フワフワした形…わたあめみたいな形のペンダント。これが夢か…思ったより強くなさそう。
「街の観光ですわ」
強気にいくね、アヴァントさん。
「へー…」
何やら考えているらしい。何考えてるんだろ、怖いなあ…
「よし、分かった。じゃあ、こうしようぜ?」
ニヤッと笑って歩み寄ってくる。何だ、命と引き換えにとかいうパターンじゃないだろうな。
「今日、この街は自由に見てもいい。その代わり、二日後…」
二日後…まさか。
「…戦争、始めようぜ?管理者サン?」
そうだよなあ…そうなるよな…
「さあ、どうする?」
断ってもいいんだよ、アヴァントさん。気にしないから。
「…分かりましたわ。そう、フライア様とカーシアル様、ガレア様、それとミディル様に伝えておきます」
「交渉成立だな。荒らさなかったら好きにしてくれて構わねぇ」
アヴァント…さん?
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