街の観光
「フライア様、おかえりなさい」
「おか〜」
お風呂から戻ってきた二人は、椅子に座ってお茶を飲んでいるフライアに声をかけて前に座る。
「ただいま。ねえ、カーシアル。どういう事かな?」
「どうもこうもありませ〜ん。入ってきたからでしょ」
入ったのは私の意思じゃなくて、フライアが押し込んだからです。私ではない。
「だからやって良いって?誰が言ったの?」
仲裁!アヴァントさん仲裁!
言うのは憚られるから、目線で取り敢えず訴えてみる。頼む。分かってくれ、私のせいみたいになっちゃうのが凄く申し訳ない。
「あの、そこまでに致しませんか?戸惑っていらっしゃいますし…」
ナイス!ありがとうアヴァントさん!
「ああ、そうね。んで、アンタこれから何すんの〜?」
え、決めてなかった…うーん…
「何しよっかな…」
「それなら、街の観光とかどうかな?僕が連れて行ってあげるよ」
と、嬉しい事にフライアが言ってくれた。
それに反対する女子二人。
「は〜?ダメよ、アンタみたいなヤツに任せられないのよ」
「そうですわね。私も、カーシアル様に同感ですわ。流石に長くフライア様と一緒だと、悪い影響が出そうですし…」
ん?悪い影響?フライアは私の事を助けてくれて、ここまで案内してくれて、お風呂にも入れてくれた、優しい良い人じゃないの?
「何でフライアといると悪い影響があるんですか?」
純粋な疑問に対する二人の返答は。
「非常に申し上げにくい事なのですが…実はフライア様は、毒舌気味な所がありまして…」
「そ〜そ。それに、なんか変態っぽいしさ」
毒舌…?変態…?マジで…?
「人聞きが悪いなあ。僕は、事実を言ってるだけだし、変態でも何でもないよ」
は、はあ…そうなの?
「と、とにかく…街の観光でしたら、私にお任せください!」
強引に私の手を掴んで、立たせるアヴァントさん。ついでに、フライアから遠ざけ、ドアの方に確実に少しずつ移動しながら
「行きましょう。えっと…」
そうだ。名前まだ言ってなかった。
「レイラです」
「レイラ様、此方へ!」
外に押し出され、アヴァントさんも外に出てきてから、ドアを思い切り音を立てて閉めた。
「これで、もう大丈夫ですわ」
満足気に頷くアヴァントさん。閉じ込める事に成功したのか、僅かに勝利の笑みを浮かべていた。
「中からは、カーシアル様が鍵をかけていると思いますの。フライア様はしばらく出られませんわ。きっと、呪で何とかしてくださりますので、その間に、私が街を案内致しますわ」
──────────
「あのさ、カーシアル。そこ退いてくれない?」
管理者用特別施設内。
扉の前に立ち塞がるカーシアルを睨みつけ、フライアは溜息を吐いた。
「君は、レイラさんが嫌いなんじゃないの?」
今度は、カーシアルがフライアの事を、睨みつける番だった。
「は〜?アタシとレイは親友…いや、大大大親友なんですけど?」
「は?何言ってるの?」
紅い瞳を哀れみに染めて、レイラが思っている事を、オブラートに包みもせず、ストレートに投げつけた。
「レイラさんは君の事を親友どころか友達にすら見てないよ」
第一印象は最悪でしょ、と付け足すフライアに、カーシアルは声を荒げる。
「ふっざけてんの!?もう大大大親友だっつってるの!な〜に言ってんのよ!」
「認めたくないんだね。可哀想…」
「アンタ…いつまでも調子乗ってないでよね!レイはアタシの大大大親友なの〜!」
大大大親友の一点張りにはもう飽きた、と言う代わりとでも言う様に、冷たい眼差しでカーシアルを見る。
そして。
「そんな風には見られてないと思うよ?だから、いい加減そこ退いてよ。そうじゃないと、ここごと君を焼き尽くす事になるんだけど」
──────────
「こちらが、この街のシンボルの噴水ですわ。今は明るいから見えにくいですけど、夜はとても綺麗ですの」
「改めて見ると凄いね…」
街で一番最初に目に入った噴水。じっくりと眺めると、本当に規模が大きくて、沢山装飾がされていて、周りのライトの色が次々と切り替わっていく。夜にまた見たい。
「ですが、この街は無駄に土地があるだけで、噴水以外に見所が無いのです…」
少し寂しそうにするアヴァントさん。
そっか、ここ以外にないのか…
「そして…えっと、あそこの小道からいらっしゃったのでしょう?」
私とフライアが歩いてきた小道を指す。
「そうですね。ここから来ました」
「長かったでしょう?」
微笑みを浮かべるアヴァントさんに苦笑で返す。
「いえ、それ程長くありませんでした」
まあ、本当は凄く長かったし凄く疲れた。でも、管理人の前で言うのもなあ…
「お強いですね。大抵の方は、疲れたと仰るのですが」
疲れました。
バレない様に話題を変えようと、辺りに目線を走らせた所で、もう一本の道を見つける。
「あの道は?」
少しだけ微妙な表情をしたアヴァントさん。何かあるのかな。
「あの道は…隣街へ続く道ですわ」
へえ、隣街もあるのか。
「そこって行っても平気なんですか?」
「はい、気になりますか?」
気になるけど、もう少しだけこの街の事を聞いておきたい。この街の名前は何だろう。
「あの、この街は何ていう名前なんですか?」
「フィクスタータウンですわ。決めたというより、いつの間にかなっていましたの」
なるほど…スターってついてるのは、やっぱり噴水の影響か。
「隣街…参りますか?」
「大丈夫そうなら…」
「畏まりました」
そして、私の手を取って、隣街へ続く小道に向かった。
この時は、隣街との関係をまだ知らなかった。
まさか、フィクスタータウンとこんな関係だとは思わなかったんだ。