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艦魂短編集『彼女たちの物語』

五輪のプリンセス

作者: 高島智明


懲りる事もなく「2作目」を書いてしまいました。


尚、この短編は「架空戦記」であるため、前作『輪廻の「大和」』とは、必ずしも“世界”を共有していません。

昭和20年8月15日。大日本帝国は敗れた。その時から「戦後」と呼ばれる時代が始まった。

――― ――― ――― 

戦後。いわゆる「再軍備」は、それぞれの道を行く結果になった。陸の不連続と、海の連続。

陸の「隊旗」は、“警察マーク”とすら類似性のある、まったく新しいデザインであるのに対し、

海の「自衛艦旗」は、“軍艦旗”そのまま。


その違いにいたった理由は、帝国陸軍が完全に解体されたのに対し、海軍には、戦争の後始末が残っていたから。

そのため、縮小しつつも、組織と艦と人とが、最後まで、“再軍備”の時まで、温存されただけでなく、活動し続けた。


その「後始末」の1つが復員輸送。海外に取り残された「元」兵士や、民間人を、母国に連れ帰る事だった。

しかし、その「最後の」任務が終わったときには、解体か戦勝国による没収が決定していた「彼女」たちだが、

その、ほんの何年かの間に、ささやかな、そう敗戦国の運命が逆転したというには、ささやかな奇跡が起こった。

・  ・  ・  ・  ・

艦魂。それは「ふね」を愛するものたちの語り継ぐ伝説。

彼らは、彼らの愛する「ふね」に、命と心が宿ると信じた。

ゆえに、“それ”ではなく、“彼女”と呼んだ。

ゆえに、彼らは信じる。目に見えないだけ、耳に聞こえないだけ。

1パイの「ふね」には、必ず、1人の「彼女」が居る。

若く美しい乙女の姿をした、心優しき精霊。

・  ・  ・  ・  ・

海に生き、“ふね”に宿る命と心を信じ、“彼女”たちを愛する男たちだから、

互いに理解できる「何か」が奇跡を呼んだのだろうか。


復員輸送etc.の「後始末」が終了した「彼女」たちは、

あるものは輸送任務のため、武装解除された状態のまま、民間船として、復興に役立つ事になった。

ある客船改造艦などは、客船への再改造を条件とされた。復興中の母国には、負担でないともいえなかったが、

しかし、“彼女たち”を愛するものたちは、その道を開いてくれた。


また、あるものは、駆逐艦クラス以下が多かったが、海軍の「無くなった」島国に新設される「沿岸警察」に身を寄せた。

このとき、身を寄せた「ふね」と人と組織とが、数年後には、再び「軍艦旗」をあげる事になる。

…  …  …  …  …  

「姉さん。今日もうちの子供たちはにぎやかです」

ヘリコプターの爆音は、固定翼機よりも、爆音と呼ぶのにふさわしい。

その「にぎやか」な爆音の響く「アイランド」の上で、乙女は青空と白雲を見上げていた。

――― ――― ――― 

海上自衛隊、対潜ヘリコプター護衛艦「かつらぎ」。


第2次大戦WW-2には間に合わなかったヘリコプターも、戦中に水上機を載せていたクラスの艦ならば、

運用していて不思議の無い時代になりつつあった。

その結果、ジェット化する固定翼機に対応できず、したがって正規の空母としては価値を失ったがゆえに、

いわば「お目こぼし」になった、

そんな艦でも、定数18機のヘリを載せれば、それなりの使い勝手がある時代にはなったのである。

・  ・  ・  ・  ・

「旧」海軍「雲竜」級空母。

大戦を戦う一方で、急ぎ計画された中型空母であったが、姉妹艦中「雲竜」「天城」「葛城」の3隻まで完成させた時、

すでに敗戦へと、国家自体が転がり落ちようとしていた。

結果、1度も航空機を搭載することなく「長姉」雲竜と「次姉」天城は失われた。

葛城1隻のみが、復員輸送に従事可能な状態で生き残っていた。

・  ・  ・  ・  ・

“航空”「母」艦とは、航空機という「子供」の母となるために、建造される。

その「天命」をまっとうすることなく散った姉たちを、空と雲の向こうに見ている、

その空を「かつらぎ」の「子供」たちは、今日もにぎやかに飛翔していた。

――― ――― ――― 

この年「かつらぎ」は、定期メンテナンスを受ける事になったが、いくつかの事情で、とある民間造船所の請負になった。

その造船所には、1隻の客船も「お色直し」のため、ドック入りした。


WW-2によって中止となった2回のオリンピック。

そのうち1回は、東京で開催される予定であり、その「インフラ」の1つとして、豪華客船の建造が計画された。

現在、旅客機の普及にともない、海岸ホテルとして「リサイクル」されていたが、

今度こそ、東京でのオリンピック開催が実現しようとしており、関係者が建造の由来に気付いたのだ。

そのため、船体を真白く塗りなおすとともに「五輪マーク」を描く事になったのである。

・  ・  ・  ・  ・

航空母艦「隼鷹」

空母同士の艦隊決戦が戦われた太平洋戦争で、姉妹艦「飛鷹」とともに活躍し、

そして、生き残った数少ない空母である。

実は「東京オリンピック」のために計画された、大型客船「樫原丸」を、建造中に改造した艦である。

姉妹船「出雲丸」は、客船となることなく、空母「飛鷹」として散った。

…  …  …  …  …  

昭和39年10月10日。東京オリンピック開会。

その時、青空に飛行機雲で描かれた「五輪マーク」を見上げ、それぞれの場所で、それぞれの人が、

それぞれに祝福した。


ここ、東京湾内の桟橋に係留された「海岸ホテル」樫原丸のデッキでも、

青空の「五輪マーク」に乾杯する人たちがいた。

その中に混じって、グラスをかかげる乙女。乾杯の音頭を取る、樫原丸の士官たちと同じ制服姿だが、

しかし、その場にいるものたちは、彼女に気付かない。

しかし、彼女がこの「ふね」のどこかに存在している事を、彼女を愛するものは信じる。


樫原丸は、乾杯をささげた。

今日の、この平和の祭典に。自分がそのために生み出された。

そして、その同じ「天命」をまっとう出来ず、戦乙女として散った姉に。

この「平和」が来ると信じて、自分を飛び立ち戦った「子供たち」に。

――― ――― ――― 

一飯に、艦船の寿命は20年から25年を基準とし、それ以上を運用するためには、

あらかじめ計画された、大規模なメンテナンスを必要とする。

その天寿、そして飛翔する子供たちの母としての「天命」を「かつらぎ」はまっとうした。

おそらくは、姉たちの分まで。

――― ――― ――― 

女王。または、プリンセス。そう呼ばれる、真白き彼女たち。

人の移動自体は、旅客機の時代となったが、

それゆえに「海上の豪華ホテル」としての意味がより大きくなった、クルーズ客船。

それゆえに「ふね」としての旅を終えた後も「ホテル」としての長い「余命」を生きる機会がありうる。

その長い余命をまっとうするまで、

彼女『樫原丸』には、

“東京オリンピック”のため生まれた真白きプリンセスには「五輪マーク」が描かれ続けていた。

この作品は、ほんの少しだけ「歴史」を改変しています。


懲りる事もなく、未熟な作品を書き続けてしまいましたが、前作ともども、軽く読み飛ばしていただければ、幸いです。

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