序章
「勇者よ、良くぞ来たな」
ここは、魔王城の最奥、玉座の間。
勇者と、魔法使い、戦士、盗賊、僧侶、弓使いの5人の仲間達は長い長い旅をして漸くここまで辿り着いた。
「さぁ、決着をつけようか」
全体的に少年らしさを残しつつも逞しいその腕に聖剣を握り、勇者が呟く。
「そうね。ここまで色々あったけど、これで終わり……なんて思うと感慨深くもあるわ」
まるで街に買い物に出たかのような服装は町娘にしか見えない。溢れ出る余裕を隠そうともせず杖を握る彼女は魔法使い。
「観念しな魔王さんよ。俺もあんたもこれで食いっぱぐれになっちまうけど、それが世のため人のため、だ」
2m近い体格に筋肉の塊。さらには身の丈程の斧を軽々と担ぎ上げ不敵に笑う戦士。
「あたしみたいなのを生み出さない世の中にするためっす!!そのために勇者さんに着いてきたんすからね!」
緊張した様子もなくあくまでも自然体で、似合わないナイフをクルクルと回しながら、未来に思いを馳せ笑うのは盗賊の小柄な少女。
「正義のため、神のため……とは言いません。貴方々からすれば私たちは悪なのでしょう。貴方々がそうであるように、私も私の信念で戦います」
格式ばった衣装はあちこち汚れが目立ち擦り切れているがその溢れ出る神聖さは一切の穢れなく、僧侶の女性の瞳には強い意思が現れている。
「そうですn「行くぞ!最後の戦いだ!!」ちょ、ちょっと僕の台詞が!?」
言葉を遮るように勇者が駆け出す、とその速さは疾風の如く、一瞬のうちに魔王の眼前にと迫っていた。
━━━━━━━━━━一閃。
したかのように見えた聖剣は魔王の太く逞しい腕で止まっている。そこに傷はなく、皮膚すら切れていない。
「待て待て勇者よ、そう急ぐな。戦いなら何時でも出来よう。」
やれやれと頭を振る魔王。
「余裕ってかぁ!!ならこれならどうだよ!うぉおおおおおお!!!!!!」
戦士の咆哮と共に繰り出されるは、鍛え上げられた筋肉と長大な斧による力任せの唐竹割り。
空気が爆ぜる程の圧倒的暴力に、魔王は玉座ごと粉塵に包まれる、が。
「ふぅ……何が貴様らを駆り立てるのか。先程からそこの僧侶と弓使いも何かしているようだしな」
煙の中から現れた魔王は無傷。
「そ、そんな!?私の補助魔法付与のあの一撃を!??」
驚きを隠せない僧侶。さすがにこれには苦笑を浮かべるしかない。
「……というかお主ら血気盛んすぎんかの?儂、魔族と言えと一国の王じゃぞ?もっとこう話し合いとk「ならこれでどうだ!!!!」ちょ、勇者お主!!?」
話の風向きが何かおかしくなりそうと悟ったらしい勇者はその右手に魔力を込める。勇者の眼前にと浮かぶのは幾重にも折り重なる魔法陣。その数は数十にも及ぶ。それぞれが互いに干渉、増幅しあい、勇者の右手が虹色に輝く。
「これが俺の切り札だ」
キメ顔で言っているが切り札早くないですかね?まだ開始5分も立っていませんよ?
「くらええええぇえええええ!!!!!!!!!!!!」
振りかぶった拳が魔王に突き刺さる。と、その時
「ゆうしゃ~~!遊びに来てたなら言ってよねぇ!!!」
その声は!という間もなく、今まさに魔王に迫っていた勇者は吹き飛ばされる。否、抱きつかれて転がっている。誰に?乱入者だ。
「まお!ちょっと今は不味いって!!ほら、右手!!!!魔力爆発するから!!!!!!離れて!!!!」
「そう言って私の事除け者にするんでしょ?騙されないよーだ!」
爆発しそうな魔力を必死に制御する勇者に抱きつく少女、魔王の娘はべーと可愛らしく舌を出す。
「あーー!!!!まじでヤバいってくそ、こうなったら無害な魔法に……えぇい!アリス・イン・ワンダーランド(愛おしく愛らしく愛でるために)!!!!!!!!」
純白の光が玉座の間を埋め尽くす。そして世界から音が消えた。