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転生令嬢は姉溺愛(シスコン)中  作者: 千堂 あやめ
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4 楽しい作戦会議




「……お待ちしておりました、ミュレイ嬢」

「……こちらこそ、お招きいただきまして」


 にこにこと笑顔でそんな言葉を言い合う姿は、一見朗らかに映るのだろう。しかしその言葉の前にかなりの間があるのは仕方あるまい。


 ここは王城内。

 あの夜会の後、数日してセルシスさまからの手紙が届けられた。お父さまとお母さまは目を丸くし、「いつの間にオールガ家のご子息と?」と驚いていた。なるほど、ケルヴィンは殿下の護衛というだけあり、家柄もなかなかだったようだ。オールガー家は、南に位置する領地を管理している侯爵家である。

 手紙には打ち合わせの通り。殿下立ち合いの元、城での面会を許可してほしいというものであった。ここで不自然にしてしまえば気づかれそうなので、「まあ、夜会で楽しくお話させてもらったのよ」と―とても、とっても不本意だが―嬉しそうに説明すると、二人は目に涙まで浮かべて喜んでしまった。


「ふふっ、ミュレイもやるわね」


 違う!違うのです、お姉さま!

 すべてはあなたの幸せのためであって、わたしの本心ではないのです!

 なんてことも叫べるはずもなく、ドナドナよろしく、わたしは城から迎えに来た馬車に揺られるしかなかったのである。


「やあ、そうして見るとお似合いだな」


 セルシスさまの執務室に入り、人払いを行うと、そんなことをぽつりと漏らした。エスコートのため重ねられた手を、どちらとともなくすごい勢いで奪い返す。

 わたしはハンカチで手のひらをぬぐってやった。「この女……」という視線を向けられたが、つんっと顔を背ける。


「迷惑なことをおっしゃらないでいただきたいわ」

「こちらも同じ意見です」


 座るように促されたので、わたしは椅子に腰を下ろす。

 いちおう、わたしとこのいけ好かない男の顔合わせなので、わたしの向かいにはケルヴィンもいやそうな顔で座った。「失礼します」と、侍女の一人が入って来て、お茶を淹れ菓子を置くと、セルシスさまの指示でまた部屋を出ていく。


「さて、ミュレイ嬢、先日は色々と失礼した」

「いいえ、『楽しいお話』が聞けて良かったですわ」


 セルシスさまの言葉にそう返しておく。

 そう、憎きサーシュの話を、わたしなりにも調べてみた。そうすると出てくる出てくる。夜会では何度もご令嬢と抜け出す姿を見たとか、町の偵察と言いながら娼館に入り浸っているというところまで。それらの報告を受けるたびに、冷静を保とうと持っていたティーカップを何個叩き割りそうになったか。


「セルシスさま、今後作戦を立てることになりますが、よろしければなぜ姉を好きになったのかお聞かせ願いますか?」

「セルシス殿下のプライバシーです」

「いい、ケルヴィン。私が信用に値するかどうか、見定めてもらおう。なにせ、兄があれだからね」


 ケルヴィンに咎められたが、セルシスさまは苦笑する。

 そうです。わたしとしては問題がなさそうに感じるけれど、印象と現実というものは複雑に絡んでいることが多い。……それに、お姉さまのどこに惹かれたのか、気になってしまう部分もある。

 セルシスさまは「そうだな」と、やや気恥ずかし気に口を開いた。


「二年ほど前だろうか。それこそ、兄の成人祝いの夜会が開かれただろう?」

「ええ、覚えていますわ。他国の貴族の方も多くいらっしゃっていて、姉を害虫から守るのに大変だったと記憶しております」

「ああ、リザーヌ嬢はかなり言い寄られていたね。そういうのは夜会のたびに見る光景だったし、私はその時点では彼女に興味はなかったんだ」


 なので兄であるサーシュがお姉さまと踊り始めても、「いつもの癖が出た」というぐらいにしか感じてなかったらしい。その日、セルシスさまは体調を少し崩していたらしく、だからといって他国の賓客を招いていたので、すぐに退場することも出来ずにいたそうだ。それに加えて、ご令嬢たちに囲まれてしまい、どうにも分が悪い。


『あら、あなたたち。邪魔ですわよ』


 すると突然、一人のご令嬢が割り込んで来た。もちろん、それがお姉さまである。セルシスさまを囲んでいた者たちは、お姉さまより身分が低かったようで、その一言に口を返せなかった。ほぼ引っ張られるようにダンスホールへ連れて行かれた時には、よほど拒否しようかとも思ったが、軽く踊り流すと、お姉さまはこれみよがしに眉を顰めたらしい。


『セルシス殿下のダンスはリードが上手い聞き及んでいたのですが、お噂ほどではなかったようですわね?体調でも悪いのかしら?』

『……』

『熱でもあるのではございませんこと? そこの給仕。セルシス殿下の護衛をここへ』


 その時の護衛はケルヴィンではなかったらしい。慌ててやってきた当時の護衛騎士に「主の体調管理もできないのなら仕える資格などございませんわね」と揶揄し、セルシスさまには見舞いの言葉を告げると、さっさといなくなったそうだ。


「――周りはその一連の流れを見て、彼女を我儘で礼儀知らずだと言ったが、私はどうしてもその行動がわざとらしく感じてしまってね」

「……覚えていますわ。サーシュ殿下に、弟君は体調が悪いのではないかと進言したのですが、気のせいだと流されてしまったと」


 あの頃はすでに、お姉さまはサーシュに『お熱』だったので、あまりしつこく食い下がって弟に気があると思われるのは避けたかったのだろう。なのであえて自分を悪者にして、体調の悪いセルシスさまを裏へ下げたのだ。


「それから夜会のたびに気になって目で追うようになった。彼女の少し気が強いところも、私としては好ましく思えたよ。貴族社会では、あれくらい肝の据わった女性じゃないと伴侶として心配だからね。特に王族は」

「わかります。弱いところもありますが、姉は本来芯を持ったすばらしい女性なのですわ」

「それに君の言う通り――女神のように美しい」


 この人は本物だ。

 わたしは確信する。

 外見も認めるが、元々は内面で惹かれた、というのを明確にしたのだ。

 わたしはにっこりとする。


「安心しましたわ。セルシスさまでしたら、わたくしは安心して任せられます」

「妹君の太鼓判をいただけて何よりだ」

「……美談にも聞こえますが、お二人の言っていることが、常識からややずれているように感じるのは私だけでしょうか」


 ケルヴィンは頭が痛そうに呟く。


「どこもずれていませんわ。これが常識です」

「……セルシス殿下、考え直した方がよろしいのでは?リザーヌ嬢と良い関係を築けたとしても、義妹としてついてくるのは……これですよ?」

「これとは失礼な!女性をこれ扱いとは、ケルヴィン殿は騎士の風上にも置けぬ下衆ですわね」


 わたしの言い草に青筋を立てているが、そこはさすがに耐えているのか、殿下の御前だからか言い返してこない。わたしとしては別に嫌われてもいい。むしろこっちから嫌っているのだし。あくまで『ビジネスパートナー』のような関係なのだから。


「それでセルシスさま、今後のご予定なのですが」

「ああ」

「もしよろしければ、わたくしとそこの……お相手さま?と?」

「わざとらしく疑問符を付けないでいただけないか。腹立ってくる」

「あらそれは失礼。ケルヴィン殿とお会いするときに、姉も呼んでよろしいでしょうか?わたくしが緊張してうまく話せないとでもいえば、心優しいお姉さまは付き添ってくださると思うのです。そしてそこに、彼の主であるセルシスさまがいらっしゃるのは、なんら不思議な事ではないですものね」

「それは、私としては願ってもないことだが……」

「大丈夫ですわ。姉はあくまでわたくしの付き添いです。姉がセルシスさまとお話する話題も、わたくしの方でご用意しておきますので」


 サーシュの噂は、お姉さまの耳にだっていやでも入ってきている。それを、実弟のセルシスさまに相談したらいいのではないか、と進言するだけだ。いずれ、義弟になるのだから、と付け加えて。「よくそこまでの裏工作を思いつくものだ……」とケルヴィンはやや引いているが。


 手段は選びません。勝つまでは。









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