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転生令嬢は姉溺愛(シスコン)中  作者: 千堂 あやめ
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2 王城での夜会




 記憶を取り戻して、初めてお姉さまを見た時、衝撃が走ったの。


 ――なにこのかわいい生き物……!――


 ようやく目を覚ましたわたしを見て、お姉さまは目を赤く腫らして大粒の涙を流しながら謝ってきた。なんてことだ、かわいい女の子は泣いてもこんなにもかわいいのか。ぽたぽたこぼれる涙の雫さえ、女神が宝石を落としているようだ。

 頭の中で、ミュレイとひとつになった過去のわたしが愕然とする。

 愕然として、そして、あまりのかわいさに身悶えした。もちろんわたしに変な性癖は今までないし、これからだって開発するつもりはなかったけれど、その感覚はもはや次元が違った。


「お姉さま、わたしなら平気よ。お姉さまが落ちなくてよかった」

「……ミュレイ……!」


 ぎゅうと抱きしめてきて、ようやく落ち着くと今度は極上の笑顔を向けられたのだ。

 ああ、お姉さまはわたしが守っていかないと。こんなかわいい顔を見せられたら、変な男がごまんと寄ってくるに違いない。お姉さまが傷つかないように、わたしがしっかりしないと……!

 わたしにとって、それが使命だってなぜか思った。

 脳内ではリーンゴーンと、ある意味祝福の鐘が鳴り響いていたのだから。


「ミュレイ、一緒にお茶しましょう」

「喜んで!」


 そして今に至るわけだ。




「サーシュ様、ドレスを褒めてくれたの。やっぱりあれにして良かったわ」

「お姉さまなら何でも似合いますけど、殿下にも気に入って頂けてよかったですわね」


 話題が殿下の話ばかりは少し嫉妬するが、それでもお姉さまのとろけるような笑顔を見れるのだからこれはご褒美に違いない。

 正直なところ、わたしはサーシュ殿下があまり好きではない。お姉さまの想い人だし、もしかしたら将来義兄になるかもしれないが、女たらしの気があると聞いた。

 その噂を肯定するかのように、一度夜会で挨拶に回った時にはじろじろと胸ばかりを見てきた。これは自意識過剰ではない。国王さまが咳払いをし、その隣で王妃様が諌める様な視線を殿下に向けられ、殿下は慌てて目を逸らしたのだ。

 男なら自然と目が行くのは仕方がないが、お妃候補の妹にそんなあからさまなものを向けてくるのはいかがなものか。幸いお姉さまは気づいていなかったが、わたしはそれからサーシュ殿下はどこか胡散臭いと感じてしまい、良い感情を向けられなくなってしまった。

 もちろん、今後お姉さまを選んで幸せにするというのならば、二人が結婚しても無理やり納得するだろう。

 でも万が一、お姉さまが傷つくようなことになろうものなら、わたしは全力でお姉さまのために動く予定だ。


「ミュレイ、怖い顔をしてどうしたの?」

「……お姉さまが殿下にとられたみたいで、少し寂しいの」


 まさか脳内で報復の計画を立てているとは言えず、誤魔化すようにそういうと「あらあら、困った子ね」と両腕を広げた。わたしは笑顔になり、お姉さまの胸に飛び込む。


「お姉さま、大好き」

「ふふっ、私もよ」


 本日も、変わることなく姉溺愛(シスコン)中です。




「さあ着いたよ」


 馬車が止まり、お父さまが先に下りた。

 母に続いて使用人の手を借り外に出ると、きらびやかで壮大な城が聳え立っていた。今日は一家で呼ばれた王城の夜会である。サーシュ殿下の妃、または側室候補の一族が呼ばれ、言うなれば「保護者同伴婚活パーティー」のようなものである。

 元々の候補者たちは殿下にアピールし、その他の若い娘たちはめぼしい子息と出会うためという目的がある。もちろん、わたしには全くない。

 王族への挨拶も終え、開始の杯が上がり軽快な音楽が流れ始めた。

 誰が殿下と踊るか阿鼻叫喚な光景にはならず、ここは身分順で淑女らしく良い子で待つのが習わしらしい。その間、ぎらぎらとした肉食獣のような目をしたご令嬢が多いのはご愛嬌。

 わたしはお姉さまの、いつもにまして弾けんばかりの可憐さにうっとりしながら、両親と共に他の貴族たちのあいさつ回りに向かう。

 親に言われ、乗り気ではないご子息とダンスを踊る苦痛といったら。

 早々にホールを離れ、「少し休んでまいります」と壁の花になることにした。食事と飲み物を口にしながら、優雅に踊るお姉さまに感嘆の息を漏らす。談笑している間も他の令嬢に牽制して回る狡猾さ、加えてその動作の美しいこと。悪意さえも打ち消す神々しさ!

 やはりお姉さまが一番ね!

 鼻高々にしていると、「あれがツェンネル家の長子ですか」という声が近くから聞こえてきたので耳を傾ける。


「あのように他の令嬢に明け透けな態度を取るなど、いかがなものか」

「ケルヴィン、滅多なことをいうものでは……」

「ですが見ていて不快でしかありません。ツェンネル家の当主も、なぜあそこまで甘やかして育てたのか。あれでは娼婦の手口と同じような――」

「失礼」


 自分でも驚くほど冷たく低い声が出た。

 突然声をかけられたその男性は騎士の服を着ていて、わたしを見ると怪訝そうな顔をする。


「なにか?」

「わたくし、ツェンネル家第二子、ミュレイと申します。なにやらわたくしの姉のお名前が聞こえたようですが」

「……君が?彼女の妹?似ていないな」

「そのようなご感想は求めておりません。あなた、わたくしの姉についてなんとおっしゃいましたか?――娼婦ですって?」


 聞こえていたのに気付き、騎士の顔がこわばる。

 わたしは笑顔のまま続けた。


「とても遺憾ですわ。見たところ城に努める騎士さまのようですが、招待客……しかも第一殿下の妃候補に対し、声の大きさも控えずそのような無礼なことを口にされるなんて信じられません」

「……申し訳あ」

「お姉さまが娼婦?確かに娼婦のような男性を虜にしてしまいそうなほどの魅力は認めざるを得ませんわね。お姉さまは神が産み落とした奇跡の申し子のようにこの世界の美しさをぎゅっと凝縮したような存在ですもの」

「君、なにを言って」

「牽制する姿も凛々しく可憐ですわ。他のご令嬢の牽制など、子猫の威嚇のように他愛もないものですもの。見ていらして?先ほどエスタラ家のご令嬢が足をひっかけようとしたのをきれいに避けて、逆に彼女が転んでしまわれたのを。それなのに手を差し伸べて、なんてお優しいのかしら……!」

「落ち着いてくれないか」


 胸の前で手を組み、うっとり賞賛の言葉を述べていると、騎士とは違う声によって現実に戻された。ハッとして顔を向けると、騎士が話していた相手が顔をのぞかせる。わたしはその方を見て、先ほどの騎士と同じように顔をこわばらせた。


「セ……セルシス殿下……」

「私の護衛がすまなかったね。少し、バルコニーで話そうか?」


 そういって笑顔で手を差し伸べたのは、第二殿下のセルシスさまだった。











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