12 陛下とのご対面
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現在、わたしは王城で手配された馬車で家に向かっていた。
本当ならセルシスさまも一緒に来て謝罪したいと言っていたのだが、サーシュの一連の罪の裏付けはセルシスさま主導で行っていたらしく、これから事後処理に追われるそうだ。
セルシスさまの代わりとしてつけられたのは、もう当然のようになっているがケルヴィンである。わたしの向かい側で同じく馬車に揺られていた。
「あなたが来たら、両親がお祭り騒ぎをしそうだわ……」
「長居はしない。セルシス殿下のお言葉を伝えたら、俺もすぐ城に戻らなければならないからな」
「忙しくなるわね」
そうこうしているうちに、ツェンネル家の屋敷が見えてきた。
正面に馬車が停まると、すでに待機していたのかうちで雇っている従者が扉を開ける。
「ミュレイお嬢様、おかえりなさいませ」
「ただいま戻ったわ」
「さきほど王城より使者の方が来ておりました。旦那様方がお待ちしております」
先に走らせてくれていたらしい。屋敷に入るとまず、お姉さまが飛び出してきた。「ミュレイ!」と泣きながら抱きしめてくる。
「お姉さま……!」
「よかった……っあなたが無事で本当に良かった!」
そのあとお母さまも現れ、お姉さまと一緒に抱きしめてくれる。柔らかな温かい感触に少しだけ涙腺が緩む。
「ミュレイ」
「お父さま……ご心配をおかけして申し訳ありません」
「お前がちゃんと戻って来てくれたのならいいんだよ」
お父さまにも抱きしめられ、そう謝罪すると優し気に頭を撫でられた。それからケルヴィンの姿に気付く。
「お初目にかかります。ケルヴィン・オールガーと申します。此度は、セルシス殿下より言伝を預かって参りました」
「あなたがケルヴィン殿ですか。ツェンネル家当主、アルドルフです。娘がお世話になったようで、感謝いたします」
「いいえ、こちらこそ王家の問題に巻き込んでしまい、殿下からも謝罪の言葉を承っています」
すぐ戻らなければならないという旨を伝え、セルシスさまからの言葉を伝えていく。詳細は先に来た使者から聞いたのだろう、お父さまは恭しく頭を下げ、「殿下のお心遣いに深く感謝を」と返す。
「陛下からは、追って通達があるでしょう」
「承知いたしました」
「では、私はひとまず城へ戻ります」
ケルヴィンはお父さまからわたしに視線を移す。
「ミュレイ嬢、落ち着いたら手紙を送ります」
「……ええ」
もごもごとした返事をするわたしにケルヴィンは首を傾げる。わたしはちらりと自分付の侍女に視線を向けた。すると彼女はわたしの考えていることに気付いたのか、にこりと笑みを向けると「少々お待ちくださいませ」とわたしの部屋に向かう。
彼女はわたしに持ってきた物を渡すと、そっとまた後ろに控えた。
「庭園で、ハンカチをお借りしていたのに気付いて……」
「……ああ、そういえば」
「この間から返そうと思ってたんだけれど、この騒ぎで渡しそびれていたの」
元はシンプルな白のハンカチだった。
きっと彼なら怒らないだろう、と気まぐれで針を通し、仕上がったのはサーシュから手紙が届いた前日だったのだ。オールガー家の紋章もいれて、割と立派な出来だと我ながら思う。
ケルヴィンはハンカチを受け取ると目を瞠り、小さく笑った。
「私が頂いても?」
「いらないのなら結構よ」
「 そうは言っていないだろう。ありがたく使わせてもらう」
手を伸ばして奪い返そうとしたが、彼はそそくさと懐に仕舞う。その流れで掴んだ手の甲に唇を落とし「それでは、また近いうちに」と余所行きの口調に戻すと、今後こそ屋敷を出ていった。
「えぇっと……その、少し疲れたから、部屋で休んでも?」
家族どころか侍女たちにもなまあたたかい視線を向けられていることに気付き、ひきつった表情でそう告げると「ゆっくり休みなさい」とお父さまから許可が得る。部屋に逃げ込み、悶絶したのは言うまでもなかった。
後日、城から通達がありツェンネル家は一家で城へ召喚された。
他の貴族たちも知ることとなるが、サーシュはセルシスさまの予想通り、終身刑という形におさまったらしい。国が管理している北の領地の一角で、厳重なる監視のもと生涯を終えるまでそこにいることになるという。王位継承権はセルシスさまに移った。
「此度は、愚息がとんでもない迷惑をかけてしまったな」
「いいえ、陛下。お心遣い痛み入ります」
お父さまをはじめ、わたしたちは陛下に頭を下げる。陛下は溜息をつきながら頭を横に振った。
「よもや、政権さえ狙っていたとは我が息子ながら恥じ入ることだ。私欲にまみれ、国に多々貢献してくれる者たちに、なんと詫びをしたらよいか。アルドルフ、其方の父にはわしが王となるまでどれだけ助けられたか。其方も、騎士として尽力を尽くしてくれていたのは記憶に新しい」
「そのように思っていただけるだけで、ツェンネル家にとって大いなる栄光と言えましょう」
今でこそぽよんぽよんの体型だが、わたしが生まれる前まで父は城で騎士団に所属していた。外見からはおおよそ考えられない機敏な動きで、敵兵を一門打尽にしていたというが……まったく、本当に想像できない。
「リザーヌ嬢、サーシュの勝手な取り決めではあったが、セルシスの婚約者となることに異存はないのだな?」
「はい、陛下」
「セルシスもそれを望んでおるそうだ。双方に意義がないのならば、わしもそれを認めようぞ。正式に通達するまでしばし待たれよ」
「ありがとう存じます」
陛下の隣に控えていたセルシスさまとお姉さまの視線が絡み、どちらも恥ずかし気に笑みを浮かべ逸らしている。なんて微笑ましすぎる……今更ながらちょっと嫉妬してしまうではないか……。
そんなことを考えていると「ミュレイ嬢」といきなり名指しされたので、慌てて返事をする。
「其方には一番の苦労をかけたであろう。其方にも、色々と考えはあったにせよ――結果としては、粛清を行う良いきっかけとなった。その事について言及することもあるまい」
「恐れ入ります……」
陛下はわたしの計画をご存じのようだった。
お姉さまのために、セルシスさまと手を組んだことも。
そのために、わたしとケルヴィンが『仲が良い』ふりをしていたのも。
わたしの畏まった反応に、陛下はおかしそうに笑い声を上げた。わたしの家族は不思議そうにわたしを見ているが、これは墓まで持っていくので、お気になさらず。
「して、其方には労わりの意を込め、何か与えたいと思うのだが、望みはあるだろうか?セルシスの護衛騎士は優秀であるが、より良い縁談をと言うのであれば、わしが見繕うてもよいぞ」
同じく脇で控えていたケルヴィンの表情が引きつった。
陛下的に、『もし不本意に囲われそうならば助けてやれる』といったところだろうか。セルシスさまは何とも言えない、同情したような視線をケルヴィンに向けていた。わたしがケルヴィンに向け満面の笑みを向けると、ますますぎこちなくなるので少し面白い。だがわたしは気を取り直し、陛下へ頭を垂れる。
「国王陛下のお心遣い、深く感謝いたします」
「うむ、どうする?そうするか?」
「父上……」
例えるのならば『うきうき!』である。普段は厳格そうなお姿だというのに、実はかなり愉快な方のようだ。
「そうですね、それも少し興味はそそられますが――陛下は、わたくしが姉を大切にしているということをお耳にしたことは?」
「うむ、それはよく知っている」
「それでしたら、セルシス殿下と姉が伴侶となり、お子が生まれた暁にはそのお世話を一任されたく存じます」
「ミュレイ!」
お姉さまは顔を真っ赤にし、怒っていいのか喜んでいいのか、とっても複雑な表情をしている。陛下は意外そうに「それが其方の褒美か?」と聞いてくる。
「ええ!セルシス殿下と姉の子供は、実に、それこそ天使のようにかわいらしいでしょう!その天使のお世話を、女神のような姉と共に看れるなんて、わたくしにとってはこの上ないご褒美ですわ!」
「……話には聞いていたが、かなりのものだな?」
「そこはいずれ慣れます」
陛下は思わずケルヴィンに聞く。ケルヴィンはすでに慣れたもので淡々と返した。家族は陛下の御前で溺愛ぶりを発揮したわたしに絶句し、固まっている。すみません、あまりの嬉しさに我を忘れてしまったのです。
「あいわかった。その際には、其方に通達することを約束しよう」
「ありがたき幸せにございます」
うふふ、陛下のお孫さんはしっかり面倒看させていただきますよ!




