第9夢
ゴゴゴゴゴゴ。
また地鳴りだ。たった数日の間に何回あったか分からない。
小屋の天井からパラパラと砂らしきものが降ってくる。やっぱり確実に揺れているんだ。
「和希くん、気を付けてね。色んなところ、崩れやすくなってると思うから」
和希は、うん、と言ってつついてくるそろそろと着いてくる。さっき入り口で彼が見つけたものは、古ぼけた写真立てだった。写っているのは、壮年の作業服を着た男たちだった。どこの国の人かはわからないけど、白人だ。そして、写真の右下には「1995年」の印字。
「だれ、この人たち」
「何かを掘っていたんだろうね。とりあえず、この島に人がいたって証拠だよね、きっと」
「何かを作ってたのかも」
「やっぱり、あの建物かな」
「そうかも」
手がかりらしきものはそれ以外見つからず、僕たちの口数は自然と減ってしまっていた。
「あそこに行くしかないね」
「手がかりがあるとしたら間違いないよね」
何もないジャングルを少しずつでも着実に進んでいく。小枝を踏む音しか聞こえない。
そして僕は、ここにきて今までずっと感じていた違和感を思い切って和希に打ち明ける。会話の糸口が見えなくなってしまっていたのもあった。
「ねぇ、和希くん」
「ん」
僕の少し先を歩いていた和希が振り向いて立ち止まる。彼は少し大きい倒木の上、僕は地面ということで若干僕が見上げるような構図になっていた。
「ずっと考えてたんだ」
「え、何を?」
「今がいつなのかってこと」
「え」
和希が絶句する。
「いや、馬鹿な話だと思って聞いてほしいんだ。でも、そうなると色々と説明がつく気がするんだ」
「ちょ、ちょっとよく分からないよ」
「じゃあ単刀直入に聞くよ、和希くん、今年は2000何年?」
「え、今は2023年でしょ。なんでそんなこと聞くの」
「そっか、やっぱりそうだよね。あのね、ちょっと冷静に聞いてよ」
「うん」
ごくり。和希が唾を飲むのを感じる。
「僕の今は2027年なんだよ」
くふっ。和希が思わず吹き出す。
「いやぁ、壮児くんってそんな冗談いうタイプだったの」
「いや、僕は至って真面目だよ。一番最初に違和感を感じたのは、和希君が剣道の話をしてくれた時。オリンピックに出場したいって言ってくれてたよね。あれさ、和希くんは今、剣道がオリンピックでどういう扱いかは知ってる?」
「剣道は…2020年の東京オリンピックで正式種目になって来年のパリオリンピックでも正式種目になってる―――」
そうなのだ。和希の時代ではそうだった。だから、彼は間違ったことは言っていない。
「そう、でもね、そのパリオリンピックの後で剣道は正式種目から外れるんだ。2020年で正式種目になる段階でも懸念されていた問題は和希君も知っているよね」
「あの、日本ならではの『武道性』が無くなっちゃうっていう一部の反対があった話でしょ」
「うん、そう。その声が、海外開催でのオリンピックを境に一気に高まったんだんだ。『武道性が損なわれて、一気にスポーツ性が高まってしまった」って。だから、正式種目から外れることになった。だから、来年、2028年のロサンゼルスオリンピックでは剣道は行われない。でも、和希くんは剣道でオリンピック出場を目指しているって言っていた。そこが最初の違和感だった。そして―――」
「そして?」
「僕らの時代がずれているって確信を持ったのは墜落の話をしたとき」
「あぁ、昨日の夜だよね」
「うん。もう一度聞くけど、和希くんはオーストラリアやニュージーランドに向けた飛行機が墜落または消息を絶ったって話はいくつ知ってるんだっけ」
「俺は、一つだけ。2020年にニュージーランド行きの飛行機がエンジントラブルで墜落したって話。たくさんの乗客が亡くなったって」
「だよね。でも、僕は2つ知ってるんだ」
「え、まさか」
「僕が知っているのは、和希君が知っているそれと、もう一つ」
雲が太陽の上を抜ける。深いジャングルに木漏れ日が射す。
「2023年に起きたオーストラリア行きの飛行機が突然消息を絶ったって話。乗員乗客合わせて数百人が搭乗していた。でも、誰も見つかっていないんだ。4年経った2027年の今でもね」
「え、そんな…」
和希が混乱に近い表情を浮かべる。当然だ。材料が揃いすぎているんだ。
「そんな…じゃあ、なに、俺たちはタイムスリップしてるっていうの?」
「うん、ただ、それが本当に『俺たち』なんだか、『和希君だけ』なんだか、『僕だけ』なんだかは分からない。なんたって、僕も今が何年なの自信が持てないから」
沈黙。そして、和希が恐る恐る僕に尋ねる。
「じゃあ、壮児くんはどうやってここに来たの」
僕はここにたどり着いた経緯をかいつまんで話した。
「ちょっと、休んでもいい?頭、追いつかないや」
和希がそう言って、倒木の上に座り込む。当然だろう。僕らはそのまましばらく無言で時間を過ごした。さっきまで聞こえなかった鳥の声がやけにうるさく聞こえた。
「よし!」
不意に大きな声を出して和希が立ち上がった。
「未来から来た壮児くんと、現在か過去の俺。でも、無人島から脱出したいのは同じ。それは変わらないよね」
「う、うん」
「じゃあ、話はやっぱり簡単。あそこの建物を調べよう。きっとこの島に引き寄せられたのは理由があるはず。だから、難しいことを考えないで進む。いいよね」
和希に少し圧倒されるままに僕は頷く。すごい適応力だと思う。僕があの年齢だったらきっと受け入れられないだろう現実を彼はしっかり受け止めている。
「じゃあ、進もう」
僕は土のついた尻をポンポンと叩きながら立ち上がる。建物群までは半分以上来ている。今日中に調べて帰るまでまだ余裕がある。僕らはさらに深くなるジャングルをまた歩み始めるのだった。




