第6夢
◆
「壮児くん、魚、焼けたよ」
「あ、ありがと。にしても、和希くん魚を捌けるのはびっくりしたよ」
「い、いやぁ、お母さんのお手伝いでやったことあったから」
和希との共同生活が始まって四日が経過していた。今のところ天気には恵まれていて問題はない。食べ物はもっぱらあのマンゴー似の果物。そして、入江でやっとのこと手づかみで捕獲した魚。飲み水に関しては、昨日、島の中を流れる川を見つけた。生水だけど、つべこべ言っていられない。お風呂も日中に海に入れば汗は流せる上に体もしばらく浜辺にいれば乾いてしまう。順調に生活はできているものの、依然、脱出に至る糸口はこれと言って見えてこない。
僕らはだいぶ打ち解けてお互いのことを知った。和希は小六にも拘らず、国際試合にも出場するような剣道の名選手。オリンピックの出場を目指しているって。とはいえ、小学六年生らしいゲームの趣味や寝顔が意外とかわいいところ、そして、時々見せる甘えん坊な一面。最初に不愛想にしていたのは自分を守るためだったんだと思う。
「おいしい!これで元気が出そう」
「うん、明日は助けが来るかなぁ」
これは和希が夕食のときにいつも言う。きっと彼は無意識なんだろうけど。
「明日はきっとね。僕たちも脱出のために行動しないと。明日は島の少し奥の方に足を延ばしてみようか」
二日目の日中のことだった。僕らは、島全体を見渡せるような高台に出ることができていた。
そこから見えたのは絶望してしまうようなパノラマの大海原と、奇妙な建物が立ち並ぶ島の中心部分だった。どう見ても廃墟のようで人の気配はなかった。でも、あそこには何かあると確信めいた何かを感じていただのも事実だった。明日はそこに向かう予定なんだ。
「壮児くん」
「え、あ、ん?」
呼ばれていたのに気が付かなかった。
「ねぇ、この英語って何て読むの?」
和希がこれも森の中で拾った地図を開いて僕に尋ねる。
「んと、これは―――動力棟【ベータ】、何のことだろう…」
「電気が生きてるようには見えないよね」
和希の指摘はもっともだった。その他はかすれて読めなくなってしまっている地図はそれでも島の中心に何かしらがあることを示していた。
それにしても、この地図の持ち主はどこへ消え去ってしまったのだろう。
そんな疑問も夜闇に溶けて、夜はあっという間に更けていった。
◆
「おはよう」
壮児くんは眠たそうに眼をこすった。見た目だけなら中学生みたいなのに、中身は落ち着いているし、しっかりしてるからやっぱり高校生に見える。不思議な人だった。
2人で生活をしている内に俺の中の警戒心はどんどん薄れていった。彼がいい人だってことが実感できたからだと思う。
「今日はあそこに行くんだよね」
「うん。そのつもりだけど、和希くんは嫌だったら、待ってても大丈夫だよ」
「俺も行く。何か出てきたら、これで壮児くんを守るし」
そう言って俺は寝床の横において置いた竹刀ぐらいの枝を握る。
「ははっ、それは心強いや!でも、無理だけはしないでね。安全第一で行くよ。それが約束」
「うん、安全第一で」
朝ごはんもそこそこに俺たちは島の中央に向かって歩を進める。この辺りまでなら何度も来ているからなんとなく道が分かる。最初は全部同じように見えていた木も、こうやって判別がつくのだから不思議だ。
「俺たち以外の人ってどうなったんだろう」
「そうなだぁ、救助された人もいるだろうし、まだの人もいるはずだよ、きっと」
壮児くんが答えに困っていることが分かって俺は申し訳ない気持ちになる。ついつい、こんな答えのない様な話を振ってしまう。
「でも、絶対脱出しよう、そして新聞に載るんだ」
そんなことを言って壮児くんは笑う。どこまでも明るくいられる壮児くんを俺はひそかに尊敬している。
「さて、こっから先は初めてだったよね。何があるか分からないから慎重にね」
「うん」
そう言って、俺は竹刀の代わりをぎゅっと握る。
壮児くんが前で、俺が後ろ。お互い背中を任せながら森の中を進んでいく。
深い森の中では浜の方では聞こえなかった鳥の声がする。俺たちが来ることを誰かに知らせているような気がして怖くなってくる。
「ねぇ、和希くん、あそこ見て」
「え」
不意に壮児くんが少し離れた前方を指さす。
その指先を視線でたどるとそこには小さな小屋らしきものがぽつんと立っていた。
「こ、や?」
「たぶん…行ってみよう」
そう言われて俺もついていく。近づいてみると意外としっかりしたつくりの木造の小屋だった。壮児くんは勇敢にドアノブに手をかける。俺は枝を構える。
「(開けるよ)」
声を出さずに合図を出す壮児くんに頷く。一体、何が飛び出してくるのやら。
ガチャ…
一瞬の間で息が詰まりそうだった。
「ふぅ、何にもいなかったね」
壮児くんがそう言って室内を覗き込んだその時だった。
ギャァギャァ!
「うわっ!」
室内から何か黒い塊が飛び出してきて空へと飛び去って行った。
俺は気が付かないうちに尻餅をついてしまっていた。
「ははっ、コウモリかぁ。びっくりしたぁ。あれ、用心棒さん大丈夫?」
カァっと頬が赤くなるのを感じる。
「い、いや、ちょっと驚いただけだし。ビビってなんかいないから」
「おれ、そこまで言ってないよ」
壮児くんの方がやっぱり上手だった。
「ね、ねぇ、中に何かあるかも」
俺はこれ見よがしに話題をすり替える。
はいはい、と笑って壮児くんは室内へと入っていくのだった。




