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墜落夢  作者: そらりす
12/12

第12夢


祝は時々目を開くけれども、ほとんど動くことはなかった。

それは俺も同じで、ガラスの向こうに落ちくぼんだ眼をした自分の顔を認めては目を閉じる。それの繰り返しだった。

その時は、刻一刻と迫っていることは分かっていた。あっという間の人生。14年か。

その時だった。

目の前が急に明るくなったのを薄くなった瞼越しに俺の目が感じた。

ゆっくりと目を開ける。

向こう側には誰もいない。ただただ、やせ細った自分が見えるだけ。の、はずだった。でも、今確かにガラスに映った自分が動いた気がした。残された力を使って目を凝らす。

俺じゃない。

ガラスの向こう側に誰かがいる。少年?誰だ。

大声で俺に向かって何かを言っている。誰だろう。

すると、微かに彼の声が聞こえるような気がしてくる。

「――――――んだ」

(え)

「――を―――んだ」

(聞こえないよ)

「目を―さ―――んだ」

(もう少しなのに)

「目を覚ますんだ!」

はっきりと聞こえた。ガラスに着けたままの右手がじんわりと温かくなったと思ったら、向こう側の少年がぴったりとその手に彼の左手を重ねてくれている。すると不思議なことにさっきまで痩せこけていた俺の右手が見る見るうちに潤いを取り戻し、元の色に戻っていく。

「な、なんだよこれ」

「君が汰希くんだろ!?助けに来たんだ!たぶん、時間がない!飛行機に乗る前の時間を強く思い出して!ここの施設は意識に反応して人を飛ばすんだ。だから、念じて」

大声で叫ぶ彼からは必死さがありありと浮かんだ。

何を言っているか分からないけど、俺はその声に従った。

強い光。真っ白の世界。どこかで聞こえたような気がした少年の叫び声。

「汰希!何ぼけっとしてるの、空港着いたわよ」

「ん、お母さん」

見慣れた後部座席。俺はお母さんが運転する車に乗っていた。

「戻ってる…」

「はぁ、あんた何、馬鹿なこと言ってるの?飛行機乗り遅れるわよ」

「飛行機、飛行機・・・・!」

あの飛行機に乗っちゃだめだ!墜落しちゃう。必要以上におびえる俺にお母さんはびっくりしたんだろう。その場で英美理叔母さんに連絡をしてくれて俺のニュージーランド渡航は中止になった。しかし、飛行機は墜落しなかった。俺は、しばらく気まずい思いをするんだ。ただ、不思議な安堵感に包まれたのを俺は一生忘れることはないだろう。そして、あの時確かにガラスの向こう側で手を合わせた少年の顔も。



真っ白だった。全部見えなくなって、気が付いたら僕は自宅の部屋にいた。部屋中に張り出したはずだった飛行機墜落事故のスクラップはすべてなくなっていた。

当然、「2020年 墜落事故」死傷者リストも、「2023年 飛行機消失」の際の乗客名簿も存在しない。和希くんも、汰希くんも、竜馬くんもみんな救うことができた。祝くんは問題なく飛行機でニュージーランドに到着できるだろう。

よかった。ようやく成功したんだ。

何度も、失敗した。

でも、これで全員救うことができた。これで、未来は救われるんだ。

現実では彼らは飛行機に乗らなかったからあの島に入っていないことになっている。でも、記憶はそのままのはずだから、意識の中ではあの島に行っている。ちょうど夢と同じ扱いだ。でも、彼らは夢を頼りにここを見つけてくれるはずだ。

そうして、期待を込めて立ち上がると、白衣を脱いでハンガーにかける。

白衣の胸には「研究員 彩藤 壮児」のネームタグが光る。

ハッチを開けて外に出ると、朝日が昇ってきたところだった。まぶしい。

そして、聞きなれない音がする。ヘリコプターだ。

この島に取り残された自分を救出するための決死のタイムトラベル。その影響で磁場が形成されて飛行機が墜落してしまったり、ワームホールに消失してしまったりの不具合が起きていた。

それも、これをもって全て無かったことになる。無人島に流れ着いてしまった不運な彩藤さんが数か月ぶりに救助された。それだけの話に。

どこかで会えたら、僕らはなんて言葉を交わすんだろう。

「初めまして」なのか、「久しぶり」なのか。2027年を生きる彼らをこっそり見に行きたい欲にかられる。彼らを選んでよかった。2020年に無線で通信をした汰希くんたち、その信号をかすかに拾っていたおかげで2023年に和希くんが島の存在を外部に発信した時、島のおおよその位置を特定することに成功した。そのおかげで、今日のここにつながった。

目の前にバタバタと降りてくるヘリコプター。

そして、開かれたドアから、見覚えがある顔が下りてくる。少し、大人になったね。

「壮児くん、お待たせ」

僕の身長を追い越した14歳の和希くんが肩を貸してくれて僕はヘリコプターに乗り込む。

「ううん、ありがとう。信じてた」

ゆったりとした浮遊感。正面に座る和希くんの頼もしさ。これから起こるであろう研究所で起きた件に関する追及。浮かんでは消えていく目まぐるしい感情はいったん横に置いて僕は窓を覗き込む。


僕を悩ませ続けた島はどんどん小さくなっていき、あっという間に見えなくなった。


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