第11夢
「じゃあ、壮児くんの世界では去年、この島が見つかっているってことなんだ」
「うん、残念ながら数人の遺体もね」
「そっか…」
今が2000何年なのによって、俺たちがその数人の遺体になる可能性もあるってことなんだと思うと、悪寒が走る。でも、今は信じて進むしかない。俺の世界、2023年なのであれば例によってその磁場の発生装置を壊して助けを呼べば可能性はあるってことだ。
「よし、着いた。週刊誌で見たとおりだ。やっぱり、あの島だったんだ」
壮児くんはやけに納得した表情だった。
「片っ端から、動いていそうなところを見ていこうか」
そう言って、壮児くんはずんずん進んでいく。俺は、遅れないようについていくだけだった。本当に「知っている」らしい壮児くんは俺からしたら超能力者のように見えてしまっていた。未来を知っている男。そして、その未来を変えようとしているなんて。ドラマや漫画の世界にしかいない男。
建物のほとんどは打ち捨てられた廃墟になっていた。何もないコンクリートの箱。
「ねぇ、壮児くん、あれ、あの建物だけ周りのと違うよね」
俺はコップのような変わった形の建物を指さす。建物群のちょうど中心に位置するそれは、明らかな特別感を醸し出していた。
「行ってみよう」
入り口はぽっかりと開いていて、簡単に中に入ることはできた。
中に入ると吹き抜けのような空洞から太陽が顔を出していた。上に上がることは難しそうだ。
「和希くん、ちょっと来て、こっちに地下に降りられるところがある」
「うん」
「雑誌の記事に書いてあったんだ。遺体は地下で発見されたって。もしかしたら―――」
おあつらえ向きに下に降りる階段にはロープがくくられていた。それは、正解と言わんばかりの存在感だったんだ。
「行くしかないよね」
「じゃあ、僕が先に行くから、和希くんはそのあと降りてきて」
無言でうなずく俺を確認して、壮児くんがロープを降りていく。
「大丈夫そう!降りてきて!」
その声を合図に俺はロープをしっかりつかむと、慎重に降りていく。地面に足が付く感覚があるまでは生きた心地がしなかった。
「ここ、誰かが来たってことだよね…」
俺は思わず当たり前の質問をしてしまう。
「うん、じゃあちょっとぐるっと回っていこう」
微かに光が射し込んでいる地下は、どうやらドーナツ状に廊下が続いているようだった。左回りで進んでいく。
「ここのドア、開きそう」
壮児くんが見つけたのはいかにも厳重そうなドアだった。きっと重要な何かがある部屋なのは間違いなかった。かすかに開いている隙間に俺は竹刀の代わりに灯っていた棒を突きさして、てこの原理で開きにかかる。
ゴゴゴゴゴ
えてして、扉はあっけなく開いた。
そして、中には正方形の部屋が広がっていた。周囲には見慣れない機械群。そして、正面には水族館のような厚いガラスの壁。そして、
「遅かった――――」
和希が声を漏らす。ガラスの壁の向こう側に人影があった。しかし、間違いなく命の存在を感じられない状態で。
「和希くん、あんまり見ない方がいいよ。周りの機械で通信ができそうなのがないか探して」
ぴしゃりと壮児くんに言われて俺はガラスの壁から目をそらして、機械を見ていく。どこから電気が来ているのかはわからない。でも、間違いなく動いている。
「英語ばっかりで読めないよ」
そういうと、壮児くんはこっちに来て一緒に見てくれる。
「ううん、専門用語ばかりでいまいち分かんないなぁ。少し触ってみるしかないか」
そういうと、壮児くんは機械を触りだす。俺はもう任せるしかなかった。
ひとまず今わかっていることと言えば、2026年に発見されるはずの遺体があるってことは2020年と2026年の間にいるってこと。つまり、俺はタイムスリップをしていなくて、壮児くんが未来から飛んできているというのが一番可能性のある状況だってこと。
キュイーン!
高音の機械音が部屋中に鳴り響く。
「どうしたの!?」
「わかんない、なんかボタンを押したら急に!」
音はどんどん大きくなっていく。そして、変化はガラスの向こうに起き始めた。
「ねぇ、あれ見て!」
俺が叫ぶ。
「え」
壮児くんは言葉を失っていた。
そこでは、さっきまで朽ちていたはずの遺体の衣服が少し元の姿に戻りつつあったのだ。
ガラスが共振をしていく。割れんばかりの音の中で再生が進んでいく。
「ちょっと、待って、いったん切れないのそれ」
俺は怖くなって、壮児くんに言う。
ハッと我に返ったかのように壮児くんがボタンをもう一度押すと、すべては何事もなかったかのように元に戻るのだった。ガラスの向こうの人間だったソレはもとの魂の抜け殻に戻っていた。
「今の、見たよね」
「うん」
壮児くんが俺に覚悟を決めてくれって言っているように見えた。
「俺は、いいよ。壮児くんを信じるから」
「じゃあ、もう一回試そう。きっとガラスの向こうにも影響が出るはずなんだ。僕が、あっちか側にコンタクトをとれないか試すから、和希くん、ボタンを押して」
「わかった。うまくいけばみんな助かるよね」
「もちろん、そのつもり!」
壮児くんがガラスの向こう側に横たわるモノの正面にしゃがむ。
そして、俺がスイッチを押す。




