第10夢
「祝!起きろ!」
「ん、なに、汰希くん・・・?」
寝ぼけ眼の祝が目をこする。
「俺たち助かるぞ!無線がつながったんだ!助けが来る」
「え!」
一気に祝が覚醒する。
道中、ここまであったことを説明しながら祝を引き連れてジャングルをひた走る。
そうして到着した建物群はさっきまでと何も変わらず、静かに月明りに照らされていた。
「ここに竜馬くんがいるの・・?」
心配げに祝がきく。
「ああ、あそこの建物の地下で俺たちを待ってる」
祝の目が輝く。安心したようだった。
「おい、ロープちゃんとつかまれよ。落ちたらケガするぞ」
「うん、大丈夫」
降りてくる祝を受け止めると、例の大きな正方形の部屋に入る。
正面に張られた大きな水族館のようなガラス。そして、そこにもたれ掛かるようにして俺を見送ってくれた時と同じ姿勢で座っている竜馬。疲れで眠ってしまっている。
「竜馬くん!お待たせ!祝、連れてきた」
勢いよく肩を揺さぶる。次の瞬間、彼は何の手ごたえもなく、床に倒れてしまった。まるで、糸の切れた操り人形のように。
「え」
祝は何も言わずに立ち尽くしている。
「ねぇ、竜馬くん?」
倒れたままの竜馬をさらに揺さぶる。でも、反応はない。
「ねぇ、ねぇ、ねぇ!なんでだよ!待ってるって言ったじゃんかよ。おかしいだろこんなの!」
後半が涙声になっているのを自分でも感じていたが止めることなんでできなかった。どんなに揺さぶっても竜馬は目を開けない。彼に覆いかぶさるようにくずおれた俺は、しばらく動くことができなかった。
「んだよ・・・まだ、温かいじゃんかよ・・・竜馬くん・・・なんで・・・」
微かに残る彼の体温すらどんどん遠のいていく。こんな事あっていいわけないのに。
そして、無情で非常な時間を打ち切るように建物が急に揺れだす。
硬直したままの祝を引き寄せて覆いかぶさるようにして守る。
「祝、おまえは絶対返すから。竜馬くんがしようとしてたこと、俺が絶対成功させるんだ」
そして、ぎゅっと目をつぶる祝が揺れのおさまりに合わせて、ゆっくり目を開くと言った。
「僕、思い出した。全部思い出した。いや、知ってる。たぶん、助けはこないと思う」
◆
「祝、今、なんて言ったの」
汰希くんがすごく怖い顔をして僕に訊いた。
「たぶん、助けはこないよ。僕たちはこの島から出られない」
「お、まえ、なんてこと言うんだよ。だって、さっき無線で助けを寄越すって」
「ぼくね、思い出したんだ。飛行機に乗っていた時の事。隣におばあちゃんが座ってたこと、揺れが怖かったこと。そして、怖さの原因が昔あった墜落事故の話を知ってたからってこと。僕が小さい頃に大きな墜落事故があったんだ。乗っていた人はみんな死んじゃったか見つかってないって。そして、その3年後にも飛行機が消えたっていうニュースがあったんだ。そっちも、誰も見つからなかった。僕が小学校に入った頃だよ。で、今は2023年なんでしょ。僕がいたのは2027年なんだ。そしてね―――」
僕は、ここまで汰希くんと走ってくる間に聞かされた話を僕なりに整理した結果だった。
「そしてね、じゃねぇよ!無茶苦茶言うなって。ただでさえ、よくわかんないのに今度は祝が未来から来たって?しかも、助けはこないって」
急に汰希くんは立ち上がったと思ったらまたへなへなと座り込んでしまう。でも、僕は続ける。それがどんなにつらいことかは十分に分かっているつもりだった。
「そしてね、去年、だから2026年にこの島が見つかったんだよ。そして、数人の遺体が発見されたって。小さくだけどニュースになったんだ。たぶん、墜落事故の生存者だったって。だから、正しくは、まだ助けはこないってことなんだ…」
「嘘だろ…なんだよそれ、あとここで4年も待てっていうのかよ」
僕は何も言えない。知っているから。助けが来ないことを。
汰希くんはよろよろと熱いガラスの壁に近づくとへなへなと座り込んだ。そして、その厚いガラスの壁に手のひらをぴったりと押し当てた。
「俺たち、ここで終わりなのかよ。なぁ、祝、なんでお前はそんなに冷静なんだよ」
僕は答えられない。知っているから。何を言っても助からないことを知っているから。
ニュースで言っていた。この島は特殊な磁場を持っている。恐らく、この建物のどこかから作られているんだ。その地場のせいで、レーダーに表示されにくくなっている。だから、発見が遅れたと。でもこの島が何に使われていたかってことは確か報道されていなかった。
「くそっ、くそっ、くそっ、なんもできないのかよ」
ガラスの壁を汰希が叩く音が部屋中に響く。何も言えない僕。
無意識に終わりの近さを感じていたんだと思う。




