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墜落夢  作者: そらりす
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第1夢

ポン、と軽快な音と共に俺の頭上のランプが点灯する。俺は沈むように深く座っていたシートの上でやや姿勢を正す。

「当機は間もなく、不安定な気流に入ります。揺れが想定されますので、シートベルトをお締め下さい」

滑舌の良い女性の声。続けて、おそらく同じ内容であろう男性による英語のアナウンス。目の前にあるモニターで現在地を確認する。日本時間で深夜2時半。あっちは、何時だっけ。羽田発、ニュージーランド行きスターランド航空052便は順調に太平洋を南進し目的地へと高速で移動を続けていた。深夜の機内は至って静かで、アナウンスに起こされた乗客たちの小さな呻き声が聞こえるくらいだった。

足元に置いたリュックからレトロな茶色い封筒に入った手紙がはみ出していることに気が付いて手に取る。ここに来るまで何度か読み返した叔母さんからの手紙だ。



福嶺汰希ふくみねたいき さま

お手紙なんて久しぶりね。そっちはもう夏かしら。

ニュージーはだいぶ秋の気配が増してきて、

街路樹が続々と紅葉を始めています。

中学3年生で、受験に向けて大事な時期なのに、

よくあのお母さんが許してくれたと驚いています。

それはそれ、なのかもね。

とはいえ、汰希くんに会えるのは5年ぶりでとっても楽しみです。

最後に会った時のこと覚えているかしら。

あの時、汰希くんったら綿あめを口の周りにべったりと付けちゃって

大変だったんだっけね。懐かしいわ。

いずれにしても、会えることを楽しみにしているわ。

それでは、良い旅を。


追伸:観光したいところ考えておいてね。

   でないと、連れまわしちゃうからね(笑)


エミリ



英美理えみり叔母さんはお母さんの妹で、大学生の頃にニュージーランドに留学したことが忘れられなくて、大学卒業後少し働いて貯めたお金であの国に渡ったという。結婚はしておらず自由奔放に生きている叔母さんをお母さんは時々羨ましそうに話すんだ。

叔母さんが言うように俺は今年受験生。「夏を制する者が受験を制する」なんて耳にタコができるくらい言われた。けど、息抜きが欲しかったんだ。いったん、現実から離れたかった。

叔母さんからの手紙を丁寧に戻して、シートにまた深く座る。

微睡はあっという間に訪れるのだった。



パキッと小枝を踏む音が聞こえて振り返るとそこには用を済ませて戻ってきた和希かずきがいた。

「あ、お帰り」

「うん」

相変わらず、和希は不機嫌なのか無愛想なのか分からない。

ここで火を焚いてからどのくらい時間がたっただろう。日の沈み方を考えたら2,3時間は経過しているはずだ。あたりは薄暗くなってきていた。

「ひとまず、朝まではここで動かないようにしよう。森には何がいるか分かんないし」

「・・・」

和希は無言でパチパチと燃える焚火を木の枝でつつく。

「ねぇ、聞いてるの?」

「うん」

和希は消え入りそうな声で返事を返す。

「あ、ごめん」

ついつい、目の前に座る口数の少ない少年があまりにも落ち着いているものだから、自分が年上であることを忘れてしまいそうになる。でも、きっと彼も不安でどうしていいかわからないんだ。

彼を含めた何人か分からない人々が真っ暗な海に投げ出されたそうだった。そして、この島にたどり着いて森を彷徨う彼に出会った。全身をぐっしょりと濡らしてそれこそ死んだような眼をしてふらっと僕の目の前に現れたと思ったら倒れ込んでしまった。

着水のタイミングでかなり体を強く打っていたようで、いたるところが痛むところを我慢する彼をここまで運んだ。

そこからは、ボーイスカウトで習った眼鏡のレンズを使って光を集めて火をおこす方法を実践して焚火をおこして、濡れた彼の服を脱がせて洗濯物を干す要領で木に引っ掛けた。

その後、意識の戻った和希が自分の置かれている状況を理解するまでが大変だったんだ。なんたって、服を全部脱がされた挙句、大きめの葉っぱをかぶせられている状況を理解しろと言っても俺だって難しいに決まっていた。

セオリーでいけば生存者を探すべきなんだろうけど、あいにく僕にも彼にもそんな体力は残っていなかった。

「和希くん」

「はい」

僕は意を決して彼に話しかける。

「きみ、十一歳でいいんだよね」

「はい」

「飛行機には一人で乗っていたの」

「はい」

バカバカ、僕の質問が下手なせいで会話が続かない。

「あの…」

和希が小さく声を出す。

「えっ、なに?」

僕はその声にすかさずしがみつく。

壮児そうじくんは何年生なんですか?」

「あ、僕ね、僕は高校三年生。十七歳だよ。和希くんの六つ上になるね」

「そっか。その・・・」

「ん?」

その時だった、

ゴゴゴゴゴゴゴ

「ひっ」

和希が思わず、僕に近づく。地震みたいな地鳴りだ。

「大丈夫、すぐに済むと思うよ」

僕にひっついたまま、和希は何か言いたそうにするも、俺と目は合わせてくれない。

「あの・・・助けてくれてありがとうございます」

目をそらして炎を見ながらやっとのことでそのことを言うと、彼はまた静かになった。

なんだ、可愛いところもあるじゃん。

「どういたしまして。明るくなったら、他にも君みたいにこの島にたどり着いた人がいないか探してみよっか」

こくん、と和希が頷く。

「とりあえず、炎は僕が見ておくから寝ちゃっていいよ。休まないともたないから少しでも横になりな」

「壮児くんは・・・」

「いいの、俺はこういうの慣れてるから。きっと、もう捜索隊だって出てるはずだから明日には何とかなるよ。だから、ね」

「うん」

パチパチと炎が爆ぜる音の中、和希は地面いっぱいに敷き詰めた葉っぱの上に横たわって丸くなると、あっという間にすやすやと寝息を立て始めた。

いくら背が大きくて大人っぽい彼でも、この姿を見るとやっぱり小学六年生なんだなって思う。

「明日こそ、きっと助かるよね」

島での一日目が静かに、静かに終わっていこうとしていた。

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