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第五話 秀路、鉄道を見せつける

 お久しぶりです。暁海洋介です。台風でやることがなくなってしまったので執筆に充てる時間ができたので次話を仕上げることができました。この次の話以降のストックがまだできていないのでまたしばらく間が空くと思いますが、今後ともよろしくお願いします。

「はい。オスカーさん、どうぞ」

「かたじけない」

 声をかけてきたおっさんを案内し、お茶を渡す。オスカー・シュミットという名前で対岸の少し離れたところにあるハンヴェルクという町で魔導工芸士をやっているそうだ。よく分からんが、工芸士と名乗るのだからまあ何かの職人なのだろう。たまたま素材を取りに来てみたら橋のようなものがかかっていてびっくりしたのだそうだ。ついでにレールの事も根掘り葉掘り聞かれて、今は機関車の実演準備のため火入れして圧力が上がるのを待っている状態だ。

「しかし、こんなにたくさんのオークを従えているだけじゃなくて、鉄の馬を作っているとは。蒸気で動くと言われても正直、ぴんとこないのだがね」

「先ほども説明しましたけど、お湯を沸かすと出る煙がありますよね。あれが蒸気です。あれをつかってピストンに前後動を起こして車輪を動かして走るのです。もう少しすれば圧力が上がって走れるようになるので待っててください。ちゃんと動きますから」

 やがて、準備ができ、運転台に彼を乗せて庭の周回線を走らせる。動き出してからずっと驚きっぱなしで正直うるさいが、まあ仕方ない。よくよく思い出してみれば小さい頃の俺だってそうだった。

「本当に動いている。すごいぞ。魔力いらずで燃料さえあれば馬の何倍も仕事をしてくれる。これは世界が変わるぞ」

「ははは。すっかり鉄道の魅力に取りつかれましたね」

「ああ。これはいい。ぜひともルドルフ様に見てもらわねば」

「ルドルフ?」

「知らないのか? このあたり一帯を治めている領主で、伯爵様だぞ」

「はあ。あいにく森を出た事がないのでその辺りは疎いのですよ」

 すまなさそうに頭を掻きながら話すとオスカー氏は苦笑いしながら、こんなところに住むものなんてエルフぐらいのものだし、それも仕方ないかとルドルフ伯爵が治めているハンヴェルカー領について教えてもらった。もちろん通貨単位やハンヴェルカー領の所属するガルドヴァルト王国についても説明してもらうのを忘れない。

「ほんとに何にも知らんのだなあ。まあ、この森で生まれた時から生活しているのなら仕方あるまいが」

 まあ、ハーフとはいえエルフだから仕方ないかとでもいいそうな顔をするオスカー氏。しかし、困ったものだ。聞けばあの川の出口にある大河の対岸まで行かねば人の集落がない以上、この機関車の本領を発揮するのは困難だろう。そこまで鉄道を敷くのは無理だし、こっちで作るにも車両を運ぶにはそれなり以上の大きさの船がないと無理。

いっそ新しい工房をそっちに造ってもらう以外に他ないがどうしたもんかねえ。つてに関しては無いし、大河守とでも言うべき役職にある貴族が機関車を運べるような船を通させてくれるとは思えないし。鉄道を広める前から難しい問題がいきなり来るとは。

「どうかしたのかね」

「あ、いえ。ルドルフ様にお見せするにはこの重たい機関車を対岸に運ばねばならないですし、今後もしご領地で鉄道を広げることになったら今より大きくて力のある機関車を作ることとなります。ここでも可能ですけど対岸に運ぶ術がないです」

「確かになあ。まあ、まだ何にも始まっておらんし、早まらなくていい。とりあえず、今日はここで失礼するよ。君の存在とこの発明についてルドルフ様にご報告申し上げてから考えてもらうよ。それじゃ」

「わかりました。お待ちしてますね」

 オスカー氏を先ほどの川べりへ送り届けた後、この後、どうするか。それをまた考えることとした。

「もし、対岸に拠点を作ることになってもいいように準備だけはしておくか」

 向こう岸へ持ち出しする機材を決めてリスト化したり、機関車を新たに造るべく、図面を引いたり、対岸への輸送に備えて船の準備を考えたほか、向こうでの試運転用の線路と枕木、砂利を用意した。最後に簡易的ではあるがジャッキを作ることにした。



――二カ月後――

「ここにシュウジなる者はおるか」

冬が近づいてすっかり寒くなった頃、線路をたどって見慣れない集団がやってきた。服装からして兵士であることは間違いないと思われる。

「私にご用でしょうか」

「オスカー様と閣下がこちらに来られるのだが、問題ないか?」

 思ったより早かった。ご招待の条件として見せるよう頼まれていた機関車の準備のために時間がかかると答えたところ、「わかった。その旨、閣下にお伝えする」

「とりあえず、馬車代わりですがさっそくオークたちに車両を用意しておかせたのでそれにお乗せしてください」

「わかった。しかし、聞いてはいたがオークを管理するとはすごいな」

「いえ。力がありますし、助かってますよ。悪臭の問題については風呂を作ったので解消できましたし」

「そうか。では、遠慮なく使わせてもらおう」

「頼んだよ。失礼のないようによろしくな」

 出迎え役のトロッコをひくオークが頷いて兵士の後について行った。

 機関車の準備を済ませ、待っている間にお茶を用意する。しばらくしてトロッコに乗ったオスカーと初老の紳士がやってきた。

「すまんな。待たせて。多忙な閣下にお時間を作ってもらったら冬に入る前になってしまった」

「大丈夫ですよ。おかげでいろいろ準備もできましたし」

 トロッコを下りてそりゃ、よかったとオスカー氏が小さく笑う。オークたちが並んで一礼する姿に兵士たちが感心していた。黒光りする蒸気機関車をトロッコに連結する作業を見ていた初老の紳士が近づいてきた

「これが機関車か。細かい部品が多いのう」

 煙を上げて待機する機関車を興味深そうに眺めるこの紳士こそがオスカーの上司であるハンヴェルカ―領主、ルドルフ・ハンヴェルクだった。自身も魔導工芸士なる職を極めてきただけあって、蒸気機関車というものが気になるようだ。

「おお。こりゃ、失礼。わしがルドルフ・ハンヴェルクだ」

「千道秀路です。閣下においでいただき、光栄です。閣下に蒸気機関車というものをご紹介して御領の発展に寄与させていただければと思います」

「ふむ。そう硬くならんでよい。して、これはどういった力を発揮するのだね」

 ずいっと身を乗り出して聞いてくるルドルフ氏にちょっと引きそうになったが耐えてしっかり説明する。

「はい。これは蒸気機関車と言いまして燃料を燃やしてお湯を沸かすことで発生する空気の力を利用してピストンを動かして車輪を回すことにより、走る鉄の馬と言ったところでしょうか」

「ほう。たしかにお湯を沸かすと鍋のふたが飛ぶことがあるな。あの湯気が一定量集まることで押し上げる原理を応用したものということか」

「その通りです」

 理解の早さに舌を巻く。さすがにものづくりをしているだけあって理屈がすぐわかるのはありがたい。

「して、どの程度の力があるのかね」

「正確なところはまだ試験できておりませんから分かりませんが設計上では閣下がお乗りになられた車両をだいたい十両程度は牽けるように造ってあります」

「なるほど。かなり力があるな。速度の方はどうかな」

「それはこれからお乗りになって退官していただいた方が早いかと」

「うむ。わかった」

 ルドルフ氏が兵士とともにトロッコに乗ったのを確認すると走らせる。機関車が小さいし、レール幅も小さいこの鉄道では馬車の平均的な速度ぐらいしか出せないが、何周か回って停まった時に彼はどうやら満足したようだ。

「馬車と同じくらいか。しかし、この発明の真に驚くべきは馬を御するよりもはるかに簡単にものを運べることか。素晴らしいではないか」

「その通りです。生き物である馬と違って適切な量の蒸気を送ってやれば走りだしますし、このようにブレーキ弁を扱えば簡単に止まることもできます」

 すぐに理解してくれるルドルフ氏に俺はうれしくなってどんどん話してしまう。しまにはルドルフ氏に運転させてしまい、兵士に怒られたが運転した当の本人は楽しくて仕方がなかった様子で軽いお説教で済んだ。

「これを導入すれば一人の承認が馬車一台で運んでいたものが領営で領内各地の産物を領都へ大量に運べるようになります」

「確かにな。だが、一両だけではまだその真価は発揮できまい?」

「そうです。馬と同じく何両か揃えねばなりませんし、馬車と違って二本の鉄でできた

道の上しか走れませんから狭い道を通るがごとく行き違いや、間隔を調整するための設備を造る必要があります」

「すでにそのための仕組みも準備しておるか。わかった。我が領に鉄道とやらを導入しようと思う。秀路にはそれを造ってもらいたい」

 ルドルフ氏の依頼に即座に俺は受けることを決める。

「分かりました。さっそくですが、まずは鉱山の麓と領都の最寄りに駅を造りましょう」

「ほう、これほど良いものにもかかわらずどうしてすぐに両方とも蒸気にしないのだ?」

 伯爵ともなれば知っているであろうに。わざと聞いてきた。その証拠に笑みを浮かべている。

「閣下。いきなりこれを投入しては安全かどうかの疑いもありますし、既存の馬車業者に喧嘩を売ることになってしまいます。それでは利権を守るために危険なものと一方的に決めつけて排除にかかってくるでしょう。まずは彼らに食いぶちを残させるためにも人に影響しない荷物の輸送に専念することで信頼を勝ち取ります」

対策として先に物資輸送に使用することを説明すると同時に蒸気の威力を知らしめるために鉱山の主要坑にロープを通し、鉱物を積んだ車両にくくりつけて巻きあげることで運搬人員を減らし、浮いた分を採掘人員に回させてみてはいかがかと提案する。

「ふむ。対抗者を減らすだけでなく、威力を広く知らしめるためのすべも考えておるか。では、旅客はどうするのかね」

「馬車業者に対し、荷馬車の仕事をもらう代わりに鉄道馬車の権利を渡してやらせようと思います。それによって鉄道の仕組みを学んでもらい、将来的に抱き込んでしまおうと考えています。レールの上を走るのであれば馬に従来より少ない力で仕事をさせることができますからその分、走ることができる距離や速度も上がりますし、文句は言わないと思いますよ」

「なるほど。将来的に同業者というか仲間としてしまうための布石をつくるか」

 この問答にワクワクしてどんどんアイデアが浮かんでくる。前世で中学生、高校生の頃にさんざん鉄道模型をいじくりまわしていたのを思い出す。まるで水が温められてお湯が沸くかのように身体が熱くなる感覚に俺は酔っていた。

「そうして理解が進んできた頃に旅客鉄道へも蒸気機関車を投入し、馬車業者には馬に代わって人工の、鉄の馬を御する仕事に参入してもらうか、街道を通る仕事ではなく、街中という鉄道では入れない場所を担当する役割分担に納得してもらうことで解決してもらおうと思います」

「うむ。決まったな。秀路と言ったな。これからよろしく頼む」

 ルドルフ氏に握手を求められ、応じる。

「それと今日からは君の身元を保証するため、オスカーの養子とするぞ」

「家名はシュミットとなるが、名前は変えるか?」

 養子入りで人のいる地に行けるのはありがたい。ハーフエルフの容姿で日本人名というのも変だし、人生のやり直しをせっかくさせてもらっているのだから決意を込めて変えることにするか。

「ええ。名前は変えます。新しい自分になるのですからその決意を込めて。良ければ新しいお名前をください」

「そうか。では、ルドルフ様、この者に新しい名前をつけて差し上げてください」

「うむ。アンドレイと名付けさせてもらう。私の偉大なる祖父の名前だ。これからは閣下と呼ばずに気軽にルドルフと呼んでくれ。同じものづくりをする同志としてな」

「わかりました。とはいえ、伯爵であらせられますからルドルフ様と呼ばせて頂きます。オスカーさん、いえ、お義父様とうさま、よろしくお願いします」

「うむ。アンドレイ。よろしくな」

 

 こうして、秀路はようやくこの世界に本格的に腰を落ち着けることが決まった。鉄道開発に向けてルドルフの領地内に新たな実験場を作ることが決まり、ガルドヴァルト史に残る産業革命の発端を作った伝説の発明家としての人生がいよいよ始まろうとしていた。


さて、転生後もしばらく元の名前を使っていた秀路くん。ついに異世界の名前を手に入れ、身元が保証されました。ようやく鉄道開業に向けて本格的に動く予定です。あと現在、この小説をつくるにあたって参考としている資料について掲載をどこにするか悩んでいましたがとりあえず本作の後ろにページをつくりまして、置かせていただくこととしようと思います。なにぶん図書館で借りていた資料が多いので借り直すなどして奥付けの確認作業などに時間がかかるので掲載まで少々お時間ください。

それでは、また次話でお会いしましょう。

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