第三話 秀路、森をゆく
お久しぶりです。暁海洋介です。コミケ参加のため投稿が遅れましたことをお詫び申し上げます。なお、冬コミへの参加を予定しております。
近況報告はさておき。それでは本編をどうぞ。
「痺れやがれ! 迅雷!」
森に入って少ししてから数羽の鳥型モンスターを撃墜している。今しがたまた一羽確保した。まあ、鳥の肉が好きだからなのだけど。なお、生物図鑑によるとこの世界の鳥もたいして前の世界と変わらないものが多いが、固有種も存在するらしい。鶏サイズのの鳥で時計の代わりに村や町で一羽は飼われているクロック・バード、クレーン代わりに使われる鷲によく似た大型の鳥であるデリック・バードは代表的なのだそうだ。だから、デリック・バードの方は俺も従属魔法を使って配下に加えようと思っているけど……。
「けっ。またかよ。加減が難しすぎてもう飽きてきたぞ」
全然うまくいかない。弱らせてから魔法を行使すると成功率が上がるらしいがそもそもこの辺の森に居る個体は気が強いくせに体力がなくて弱らせ加減が難しいので従属魔法が成功する前に死んでしまうことが多くて使い物にならない。愛玩動物扱いのクロック・バードの方は元の性格がおとなしいせいか攻撃しなくても従属魔法が効くのですんなりいっただけにちょっと悔しい。おかげで先ほどからデリック・バードの活き造りばかり量産されていて辟易している。あとでおいしく頂くけどさ。あいにく回復魔法は使えても蘇生魔法は簡単には取得できない上位スキルなもんで取得出来ちゃあいない。だから、家の食糧庫にこのあと入るであろう大量の鳥肉をどうしようかと今からすごく悩まされている。
「なんか臭いな。もしや?」
突如として鼻をつく独特の悪臭。中年オヤジの体臭よりもよっぽど酷い臭いがする。こんな臭いをさせるのは十中八九、奴らしかいない。こういうファンタジー世界の定番モンスター。臭いに従って探してみればいやがった。
ぐおおっという咆哮とムキムキマッチョな体格。オークである。どうやら集団でどこかへ向かおうとしているようだ。けっこうな数いるせいで悪臭が寄り集まり過ぎて正直、吐きそうなほど臭いが酷い。
でも、図鑑を見てみると意外にもこいつ。使える家畜扱いらしい。図鑑によれば悪臭の原因は野良生活のせいらしく、人間と同じ生活環境下にあれば臭いはしないそうである。
なお、人間が管理すれば悪臭がしなくなるのはオークになる前の種族であるゴブリンも同じらしい。ゴブリンとオークの違いは見た目と、オークが人間の言葉を理解できるほど知能が高くて力も成人男性の倍以上あって優秀な家畜であるのに対してゴブリンは繁殖力が強いくらいしか取り柄がないために使い物にならないことである。
一応、ゴブリンからオークに進化できるらしい。条件がめんどくさいうえに繁殖力が無駄に高いので進化する前に育てる側の方がさじを投げてしまうケースが後を絶たないために今のところ野生のオークを従属させることしか知られていないようだ。
そんな情報を図鑑から読み取っていると、ある項目を見つけた。それを見た結果、俺はデリック・バードをあきらめてもいいんじゃないかと思いはじめた。なぜなら、図鑑の該当箇所の後ろ側に「従属魔法が非常に効きやすい」とあったからだ。
当面の狩りやいずれ進める小麦の栽培(こちらの世界では主食がパンであるため)、鉄道技術の開発を行う上で力仕事を任せられる仲間は必要だからだ。高いところの重いものを持ち上げるのは何もデリック・バードを使わなくても方法はある。そのために力持ちがいれば何とかなるだろう。
そう考えるとさっそく集団に近づいて「迅雷!」を放つ。彼らは俺に気付いたが魔法の影響を受けて動けない。とはいえ、オークは割と硬いらしいので多少威力が強くてもデリック・バードと違ってひるむだけである。動けるようになる前に終わらせねばならない。オークたちの意識がすべてこっちに向いたのを確認してすぐに従属魔法を仕掛ける。
なお、従属魔法は依頼型と強制型がある。詠唱難易度は依頼型の方が難しい。強制型は簡単だが込める魔力量が弱いとすぐに外れやすい。祈るような思いで依頼型の方を詠唱する。自分のやりたいこと、オークたちにやってもらいたいこと、どんな見返りを用意するか等々頭の中で思い描いて魔力に乗せてオークに飛ばす。
「よし。成功っと。よろしくな」
「ぐぉぉ」
しばらくして、オークたちが従属する意志を伝えてくる。言葉は話せないが何とか意志疎通ができる。まあ、まず連れ帰ったら風呂ぐらいは入れてやらんと。これだけの集団がいるのだ。悪臭で余計なものがたくさん入ってきて衛生環境が悪化するのだけは避けたい。
工房までいったん帰った後、先に寝床となる小屋を作ってから風呂作りに取り掛かる。まず風呂本体を作るために先に土魔法で穴を掘る。そこにさっそくオークに頼んで倉庫から本来は路盤の強化や枕木の代わりに使うのであろう重い石材を持ってきて、適当なサイズに砕いてもらう。それをちょうど温泉旅館の露天ぶろのように敷きつめて土魔法で仕上げをする。次に池から水を流し込むためのポンプを作って、その水路の途中にお湯を沸かす装置を用意してから風呂に注ぐようにしてやる。最後に排水はろ過と冷却とを兼ねる装置を作って水をきれいにしてから元に戻せるようにしてやれば完成。出来上がった頃にはすっかり日が暮れていた。完成してすぐにオークたちと風呂に入った。久しぶりに本格的な物づくりをした後だったのでとても気持ちが良かった。夕食も一緒に作った。まあ、焼き鳥ばっかりだから彼ら自身にやらせても問題ないからだけど。
ちなみにオークたち用に作ったものとは別にそれまで使っていた風呂が工房の二階にある。自分にはサイズ的にちょうど良かったが、今後は誰かと一緒に入ることの気持ち良さに外の風呂の方ばかり使ってほとんど放置気味にならないか心配である。風呂から上がった後は工房に戻って書斎で再び勉強だ。オークたちは小屋で眠ってしまっている。今回はデリック・バードを従えるのに失敗したので、再チャレンジするためにももっと魔力効率を高める方法を探す必要があると感じたからだ。
しばらく経ってクロック・バードが寝てしまったのでそろそろ寝る。図鑑によれば(読み終えてから知ったが隠しページが奥付のところにあって、そこにモンスター図鑑などこちらの世界に関することの本は神様がいろいろ補足をつけているらしい。親切で助かる)クロック・バードは零時から六時までのだいたい六時間程度寝るらしい。ちなみにこの世界も一日は二十四時間だという。クロックバードが寝ている時間と起きている時間を調べて足したらそうなるということが発見されたのでそう認知されているらしい。
そうそう。モンスター図鑑の通り、風呂に入る習慣が付き始めて少し経ったら本当にあの悪臭が嘘のように取れた。しかもどこで見つけてきたのか石鹸の代わりになるものを用意してくれてもいる。良く出来た従魔だと思う。
しかも工房の工具に興味を持ってくれる個体もいる。物の持ち運びとか組み立ての類を手伝わせられれば十分だと思っていたのにこれにはさすがに驚いた。いくつか簡単な工作の仕方を教えさせると武器を自前で作って俺の見ていない時にいつの間にか狩りに行くようになって負担が大幅に減ったので地味にありがたかった。こいつらだけは何があっても絶対に守ろう。そう心に決めるくらいね。
そうして最初の森の探索を終え、オークとの生活にすっかり慣れた俺はいよいよ工房を使って本格的に物を作り始めることになる。その頃にはこの世界に来てからちょうど二週間が経っていた。
いかがでしたでしょうか。ご意見・ご感想をお待ちしております。なお、次話はこれまで通り週末に投稿いたします。
それでは、また次話でお会いしましょう。