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殺人世界  作者: 一ノ瀬樹一
紫闇の魔人 編
19/62

百獣の皇女セシリア

 セシリアを警戒しつつ、ナーサに駆け寄るダスラと僕。

 槍を抜き、ダスラは着ていたスカートの裾を破り止血する。

 痛みに耐えるナーサであったが、止血の為布を縛った際に激しく顔を歪めた。


 「大丈夫かナーサ!!!」

 

 ナーサを抱き、ダスラは声をかける。

 おそらくは大丈夫なはずはないが、ダスラを心配させない為にナーサは大丈夫――と笑顔で応えた。

 その間、僕は何をしていたのかと言えば、剣を抜きセシリアを警戒していた。

 

 「にはははは。ボクが『百獣の皇女』セシリア・ゴルセイル第六皇女様だ!頭が高いぞ人間!!」

 

 ネコ科の獣人族セリアンスロープなのだろう、猫耳とたてがみを思わせる髪型が如何にも百獣の王を思わせた。

 頭に小さな王冠を被り、堂々とした高圧的な態度が皇女であることを物語っていた。

 そのセシリアの影に隠れるように、肘から下を失ったガルが姿を現した。


 「こいつだセシリア!こいつが俺の右腕を奪った男だ!!!」

 「ほう……こいつがねぇ」


 全身を舐めるように、セシリアの視線が僕の向けられる。

 まるで、蛇に睨まれた蛙のように体が硬直し、動かなくなってしまった。

 早く仇を討てとばかりに、ガルが騒ぎ立てる。

 

 「セシリア!!早くこいつらを殺してくれ!!!」

 「……ああ、解かってるよガル。でも、それはちょっと難しい話だぞガル」

 「な、なんでだよ!!!」

 「まあ、人間共は大したことないが、あの女は人間じゃない。あれは『紅焔の魔剣』ミネバだな」

 「こ、紅焔の魔剣!?あの伝説の兵器か!?」


 ミネバは僕が思っていた以上に有名だったらしく、ガルの表情が一転して恐怖を感じている。

 これなら、やり過ごせるかもしれない。

 僕は腰に手を当て堂々と言った。


 「ああ、そうだ。このミネバはあの伝説の兵器『紅焔の魔剣』だ。僕達を見逃してくれるなら、手荒な真似はしない。どうする?」

 

 これは、一か八かの賭けだった。

 さて、この皇女は決断するのだそうか……。


 「…………………………………」


 「……………………………にっ」

 

 「にっはははははははははははああぁぁぁぁ!!!!」


 セシリアは突如高笑いを浮かべた。

 僕の心の中をあざ笑うかのように、その笑い声が森中に響き渡る。


 「面白いことを言うな人間、名前を聞いてやろう?」

 「…そ、空だ!」

 「空か。では空、ボクがそんなことで怖気づくと思ったのか!!ボクは相手が強いほど燃えるタイプだよ。それに、魔剣の女は本調子ではない。今のそいつに、ボクを倒すことは出来ない」

 「………え!?」

 「ご主人様。確かにあのネコの言う通りです。今の私には勝てません」

 

 賭けは、僕の負けが勝敗がついた。

 戦いを回避することは出来ないらしく、僕は覚悟を決め、剣を再び握り締めた。

 僕の考えを読み取ったのか、セシリアは背負っていた大型の斧を手に持ち構えた。

 

 「にはははは。空、その潔さをボクは嫌いではないぞ、さあ始めようか殺人ゲームを!!」

 「ああ、ただし、死ぬのはあんただけどな!!!!」


 精一杯の見栄を張り、僕はセシリアに向かって走った。


 「うおおおぉぉ!!!!!!」

 「ダメだ空、屈め!!!!」

 「え!?」


 ブゥゥゥオン!!!!!


 セシリアの斧が、横一線に空を切り裂いた。

 僕は、間一髪ダスラの声に身を屈めた為難を逃れたが、後方の木は音を立てて切り倒された。

 セシリアの戦闘力を思い知った。

 

 「ぼーっとするな、左に跳べ!二撃目が来るぞ!!!」


 ブゥゥゥオン!!!!!

 ドッガーーン!!!!!!!!


 セシリアは、全体重をかけ斧を縦に振りおろした。

 ダスラの声で、これも躱すことが出来たが、地面爆破したような破裂音が辺りに響いた。

 破裂した地面を見て、斧による攻撃とは思えない威力に僕は戦慄した。

 

 それにしても、ダスラにはセシリアの攻撃が予測出来るのだろうか?

 一度ならず二度までも、セシリアの攻撃から身を守ることが出来た。

 偶然とは考えられない……。


 「お前えぇ……『悪魔の力』に目醒めているな!!!」

 「……良く解かったな……私の二つ名を知らないのか『真眼の魔女』ダスラだ!!!」

 「そうか!お前が『真眼の魔女』だったのか!それなら、お前から殺す!!!!!!」


 セシリアは標的を、僕からダスラに代え襲い掛かった。

 ナーサを抱いているダスラは動くことが出来ず、このままではセシリアの攻撃を避けることは出来ない。

 絶対絶命のピンチに、僕は目を伏せてしまった。


 ドッゴーーン!!!!


 鈍い音が響い渡り、僕は恐る恐る目を開けた。

 そこにはグチャグチャに飛び散ったダスラの姿ではなく、ミネバが立っていた。

 セシリアはダスラに気を取られて、ミネバの存在を忘れていたらしくその隙を突かれたようだ。

 少し離れたところで、セシリアは腹を抑え横たわっていた。


 「くそ……ボクとしたことが、魔剣の存在を忘れていた……」

 「良くやった!!ミネバ!!!!!」

 「やりました、ご主人様」


 ミネバは無表情な顔で、僕にVサインを送った。

 後で、こういった場合は笑顔でするのだと教えることを心に誓った。

 それは置いておいて、ミネバの活躍でセシリアの相当なダメージを与えることが出来た。

 しかし、セシリアの取った行動に、僕は度胆を抜かれた。

 

 ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!

 ガン!ガン!ガン!ガン!

 ガっーーーーン!!!!!!


 地面に何度も頭を打ち付けて、額から血を流していた。

 なぜこんなことをしたのか、僕には解からなかった。

 

 「……よーーーっし、続きをしようか皆の衆!!!!!!」

 

 先程までの悲痛の表情は消え、セシリアの顔に笑顔が戻った。

 セシリアの一連の行動は『スイッチング・ウィンバック』と呼ばれる精神回復法だった。

 失敗や絶対絶命のピンチの陥った時、気持ちを切り替える為に行う一連の行動を指す。

 この大陸の覇者は、誰もが獣人族セリアンスロープと口にする。

 それは、単に戦闘力を指しているのではなく、この高い精神面と戦闘センスを持つ為だ。

 

 「空、この場は一旦引くぞ!!」

 「解かってる!!けど、どうするんだ!?」

 「耳を塞げ!!!」


 ギュイーーーーン!!!!

 

 ダスラに言われるがまま、僕は耳を塞いだ。

 すると、高音の金属がぶつかる音が響き渡った。


 「ぐわっあああああああ!!!!!」


 苦しみ体を丸める、セシリアとガル。

 その隙を突いて、僕達は逃げることに成功した。

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