全ての真相
やっとの思いでゾイニの街に着いた僕とミネバ。
帰りの道中に、ミネバの好奇心に振り回せれて、正直疲労困憊だった。
ミネバは過去の記憶の一切を忘れてしまって、見える物すべてが新鮮らしい。
僕もこの異世界に来た時は、川の綺麗さに目を奪われたりもしたが、今となっては気にも留めなくなっていた。
順応性が高いと言うか、慣れとは恐ろしいとつくづく思う。
空には太陽が昇り、時刻は午前十時くらいだろうか、それにしても疲れた、早く宿屋に行って休もう。
街の大通りを宿屋に向けて足を進めると、宿屋の前で立ている一人の女性が目に入った。
次第に近づき顔を確認して驚いた。
宿屋の前に立っていたのはエリーだった。
正直エリーには会いたくなかったが、彼女もこちらを向いているところから、僕に気付いているようだ。
ここで引き返す訳にもいかず、僕はエリーに声をかけた。
「や、やあ…エリー。……こんなところで会うなんて奇遇だね……どうしたの?」
「空君、ちょっと付き合って」
もちろん恋人としてではなく、話があると言う意味であった。
エリーに連れられ酒場に着き席に座る。
こんな時間から酒場が開いているが客は一人もいない。
まあ、こんな時間から酒を飲んでいる者がいるとも思えないが…。
エリーが場所まで変えたのには、誰にも聞かれたくない話だろうから、このシチュエーションを想定していたのだろう。
食欲もなかったので注文する気はなかったが、エリーが適当に飲み物を頼んだ。
店員が飲み物を運び終わったところで、エリーが口を開いた。
「サーベイトを殺したそうだね……その子が炎を纏う武器だったのかい。まさか、女の子だったとはね」
エリーは、僕の横に座るミネバに視線を送った。
ミネバはピクリともせず、無表情でエリーと目線を合わせる。
「そ、そ、それよりエリー、話があるんじゃないのか?」
エリーがいつになくシリアスな感じだったので、緊張のあまり声が裏返ってしまった。
誰もそのことにツッコまないので、自爆した形になってしまった。
……はぁ、息苦しい……。
「…空君、サーベイトがあの火山に来た理由を君は知っているの?」
「いや、僕は知らないけど……エリーは、知っているんだよな」
そう僕の推理ではサーベイトが火山にいた理由も、大島津がいたのも全てエリーが知っている。
もしかしたら、知っているだけではなく関与しているかも知れない。
エリーの答えが気になった。
「ええ、私は知っている。……でもまさか、あなたがサーベイトを殺すなんて思っていなかったわ」
「それは――」
僕の言葉を遮るように、エリーは人差し指を僕の唇に当てた。
エリーの指の感触に、思わずドキっとしてしまった。
「マスター鼓動が早くなっています。何かの攻撃を受けたのでしょうか?」
「な、な、な……なってないから!!!!」
「それは嘘です。心拍数と発汗、それと言語からマスターが嘘を付いていることを証明します」
おいおい、こいつは嘘発見器か?
『空気を読める機能』とかはないのか!!
取扱い説明書が一緒に埋っていれば良かったのにと、心から思った。
エリーはコップをいじり、僕とミネバのやり取りが終わるのを待っていた。
「…終わったようね。それじゃあ、私の話を聞いて」
コップから手を離して、姿勢を正した。
「先ずは謝らせて頂戴。…サーベイトが火山にいたのは私のせいなの……。大島津は強く、私では復讐をすることは出来なかった。そこで、偶然知り合ったサーベイトを騙して大島津を殺させた。
あのトカゲは左手を奪った男を探していた、あいつには人間の区別があまりつかなかった。だから私はサーベイトに嘘を付いた。あなたの探している男は大島津だと……」
エリーの嘘を信じたサーベイトは、ゾロリア火山で炎を纏う武器――つまり、ミネバを探している大島津に復讐を果たした。
ところがサーベイトは気付いた、殺した相手が復讐の男ではないことを……。
相当に頭に血が上ったことだろう、サーベイトはたまたま出会った僕に怒りをぶつけることにしたらしい。
つまり八つ当たりによって、僕は殺されかけた。
そしてサーベイトと殺し合いをしている間に、エリーは悠々と火山を後にしたらしい。
相変らず強かな女だ。ここまでくると、むりしろ褒めたくなる。
「それにしても、サーベイトは人間の区別もつかないくらいバカなのか?でも、外国人からすると日本人もみんな同じ顔に見えると言うし、その類なのかな?」
僕の素朴な疑問に、ただのバカよ――と、エリーは喰い気味に答えた。
「そんなことより空君、これから大変ね」
「え?何がだ?」
「これまで以上に命を狙われるから……」
どういうことだ?エリーはその言葉の意味を口にした。
「サーベイトは何人かのパーティーを組んでいたわ。仲間意識が強い連中だから、これまで以上に命を狙われることになってしまうってことよ」
おいおい、殺人ゲームは個人戦じゃないのか?
でも確かにパーティーを組んでいる連中もいると聞いたことがある。
上位ランクの連中の強さに対応する為だったかな。
そんな連中を相手しなければならないのか…。
全部、エリーのせいじゃないか!!!!
一言文句を言ってやろうと思ったが、先程座っていた席にエリーの姿はなかった。
辺りを見回すと、すでに酒場の入り口に立っていた。
「じゃあね空君。また会いましょう」
背中を向け酒場を後にするエリーに、今度は声に出して叫んだ。
「ただし、死ぬのはあんただけどな!!!!!!」
―― 阿千ヶ崎空、殺人ランク一五三二位 ――。