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殺人世界  作者: 一ノ瀬樹一
紫闇の魔人 編
1/62

終焉の日

 その日は生憎の雨で、人生最後の日に見た空が鉄格子から見る雨模様だなんて、泣いてくれる人もいない僕にとっては、空が泣いてくれているようで少し嬉しかったのを覚えている。

 

 はじめまして、さようなら――

 僕は今日、死刑を執行される死刑囚です。

 世間を騒がせた、未成年による大量殺人者の少年Aです。

 戦後最大級と言われる僕の罪ですが、犯した罪に対して何の罪悪感も感じていません。

 だってそうでしょう。

 僕が耐えてきた心と体の傷に比べれば、彼ら十一人の死は当たり前の償いなのですから。

 

 そう、僕はいじめの復讐の為、十一人を殺した大量殺人者です。

 

 始まりは、高校一年生の転校の時でした。

 

 僕の両親は転勤族で、それまでも全国を転々としてきました。

 この街に来る前、一人暮らしも考えていたのですが、両親の家族は一緒にいるものという家訓に従い、高校二年生の二学期に転校することになりました。

 不安と期待で胸いっぱいの初登校日、しかし、それが僕の地獄は始まりました。

 二学期の中途半端な時期の転校。

 この時点で、ピンとくる方もいるかもしれませんが、お察しの通りすでに教室内は仲の良い幾つかのグループに分かれていて、僕の入る余地はありませんでした。

 

 普通、転校生とは興味の対象であり、イベント的な要素も持ち合わせて人が集まるものですが、この学校は違っていました。

 休憩時間になっても昼休みになっても、誰も話かけては来ません。

 まるで、僕がいないかのようなクラスメイトの振る舞いに、戸惑うばかりでした。

 

 そしてその日の放課後、決定的な事件が起こりました。

 昼休みも終わりになろうとした時、一人の女子生徒が話かけてきました。

 名前は、園村そのむらという、とてもかわいい女子生徒で、初めて話かけてくれたことに、この時は嬉しさでいっぱいでした。

 

 「確か転校生の阿千ヶ崎君だよね。クラスのみんなとは仲良くなった?」

 「いや……みんな仲が良過ぎて、いまいち馴染めないんだ……」

 「そうか。まあ、みんなこの辺に昔から住んでいる顔なじみだから、仲間意識が強い所があるからね。よそ者を受け入れないところがあるからね……」

 

 僕が転校した先は、お世辞にも近代的とは言えない田舎で、それなりに発展はしているが、地域特有の仲間意識が強い所だった。

 その為、園村の言う僕のような転校生はよそ者とされ、受け入れにくい環境にあるのだと言う。

 転校初日から、気の重くなるような話を聞いてしまった。

 

 「そう気を落さないでよ………そうだ!!良かったら放課後、この辺りを私が案内しましょうか?」

 

 暗い表情の僕に同情したのか、園村は嬉しい提案をしてくれました。

 もちろん僕は、二つ返事で答えた。


 そして放課後、園村との待ち合わせ場所の校門に向かおうとしていた時、同じクラスの剛田ごうだ達に呼び止められた。

 待合せの時間が迫っていたので、急いる僕だったが、剛田達に腕を掴まれ校門とは正反対の体育館裏へと連れてかれた。

 なぜこんなことをするのかと思ったが、剛田の一言で意味が解かった。

 

 「転校生、お前は随分と園村と親しくしているな――生意気なんだよ!!」

 

 そう言って剛田は、僕の腹に思いっきり拳を当てる。

 鈍く重い衝撃が僕の胃を押し潰し、僕は地面に膝をついて吐いてしまった。

 後で知ったのだが、剛田は空手道場に通っていて、すでに黒帯の有段者だったらしく、県大会にも出場する程の腕前だった。

 膝をつく僕に、剛田は容赦することなく、腹や足など目に付きにくい箇所ばかりを攻撃してくる。

 なぜ、僕がこんな目に合わなければならないのかと思ってはいたが、すでに、僕は戦意を喪失していて抵抗する意思はなく、必死に耐えることしか出来なかった。

 やがて、剛田の攻撃の手が止まった頃には、僕は激しい痛みで気を失いかけていた。

 

 「解かったか転校生!!お前は教室の隅で大人しくしていろ!!」

 

 その言葉にはこれ以上、園村に関わるなと言う意味も込められてた。

 僕にとって、初めての友達になってくれるかもしれない園村のことを、諦めろと言われているみたいで、悲しみが込み上げていた。

 だからと言って、僕のような一般男子生徒とって、これ以上の暴力に耐えれる程の強さは持ち合させていない。

 それ程までに、剛田の暴力は諦めさせるには十分な驚異であった。

 園村と友達になることを諦めて、僕は剛田の言うことを聞くことにした。


 

 さて、どうやらこんな思い出に浸っているうちに、時間が来てしまったようだ。

 僕の独房に、数名の刑務官が迎えに来た。

 以前は、前日に死刑執行を言い渡されたようだが、その日の夜に自殺する者が出る為、実際には何も告げられるに死刑を執行するらしい。

 ただ、いつもとは違い、数名の刑務官の足音が聞こえるので、死刑囚にとってこの足音が聞こえた時、誰かが死ぬことが解かるのだと言う。

 僕は何の抵抗もせず、言われるがまま独房を後にした。

 

 おそらく処刑室に向かっているのだろう。

 その途中、一人の刑務官が僕に話かけてきた。

 本来、私語は禁止されているが、僕はある意味有名な犯罪者なので興味があったのだろう、前を向いたままでその刑務官が僕にこう言った。

 

 「自分は、死刑制度に対して反対な姿勢を取っているが、君に対しては賛成せざるおえない――と思っている。それ程までに、子を持つ親である自分には、貴様を許すことの出来ない。……罪もない人間を殺した貴様には、死刑以外の罰は考えられないからだ!!!」

 「………………………………………」

 

 感情が入ってしまったのか、最後の方では声を荒げていたが、他の刑務官も制止することはしなかった。

 おそらくは、この刑務官と同意見なのだろう。

 僕は口を閉じたまま、反論もしなかったが、心の中でこう叫んだ――

 

 『刑務官さん、一つだけ間違っていますよ。僕が殺した人間も十分な罪を犯したの犯罪者ですよ』


 世間では、僕を異常犯罪者のように取り上げているが、実際は殺されたあいつらは、僕に対していじめを行っていた。

 しかし、その事実はなぜか取り上げられることなく、僕の罪だけに関心が向いている。

 本来僕は十七歳なので、少年法の適応により死刑は求刑されることはない。

 しかし、殺害人数の多さと、計画性、残忍性から世論も死刑求刑の意思を高めた。

 僕も、復讐が出来ればそれで良かったので、死刑でも構わなかったので、その結果、こうしている訳なのだから、静かに死なせて欲しいものだ。

 

 黙っている僕に対して、刑務官は苛立ちを隠せないようで、さっきよりも強い口調でこう言った。

 

 「殺した者達に対して、懺悔するつもりはないのか!!!!」

 

 僕の胸ぐらを掴み壁に押し付ける刑務官。

 さすがに行き過ぎた行為と、他の刑務官が慌てて止めに入る。

 解放された僕は、またしても心の中でこう答えた。

 

 『刑務官さん、僕は懺悔するつもりはありませんよ。奴らは殺されても仕方のない人間ですから』


 

 剛田に殴られた次の日、僕は学校を休むことはしなかった。

 転校して次の日に休むとなると、家族に心配かけてしまうからだ。

 もちろん僕の本音を言えば、今日と言わず一生行きたくはないのだが、そんなわがままは許されないので、今日も嫌々ながら学校へ向かった。

 

 園村はすでに登校してきていたが、友達数人といて僕の方を見向きもしなかった。

 昨日、約束をすっぽかしたことを怒っているだろう、それならそれで仕方がない。

 どうせ、剛田に話している所を見られたら、何をされるか解かったものじゃないし……。

 諦めがついたと思い、席に着く。

 すると、剛田が僕の所にやって着て、昼休みに屋上に来るように言った。

 当然、行きたくないが、逆らうとまた殴られると思い、昼休みに屋上へ向かった。

 

 屋上に行くと、剛田と昨日いた連中、それと女子が数名いた。

 何の用で呼び出したのかと剛田に聞くと、笑いながらロープを手渡された。

 

 「何してんだよ!!早くこいつを足に巻けよ!!これは、地域に伝わる有名な儀式で、足にロープを巻き付けて屋上から飛び降りるんだよ。お前もこの街に来たなら、儀式を済ませろよ!!!」

 「そ、そんなことをしたら、死んじゃうかもしれないじゃないか!!」

 「大丈夫だよ、死にはしないよ。精々骨折ぐらいだろう」

 

 殺される――僕は、正直にそう思った。

 周りの連中の薄ら笑いを見れば、これが儀式でないことはすぐに察しがついた。

 しかし、この場から逃げられないように、数人の男子が僕を囲む。

 僕は必死に逃げようとしたが、抵抗も空しく殴られるばかりだった。

 ロープを一向に結ばないので、業を煮やした剛田の指示により男子が僕の足にロープを結び付ける。

 屋上は高いフェンスによって囲まれていて、屋上から飛び降りれないようになっていたが、一ヶ所だけフェンスが破れていてそこから向こう側へ行くことが出来る。

 剛田に掴まれ、無理やり僕をフェンスの向こうへと追いやられた。

 

 屋上の淵から下を覗くと、コンクリートの地面がとても近く感じた。

 人は恐怖に陥ると、パニックを起こしてしまい、まともな判断が出来なくなると聞く。

 火災現場で、マンションから人が飛び降りてしまうのも、このパニックが原因だとされ、飛び降りれば助かると錯覚してしまう。

 その時の僕はまさにその状態で、フェンスの向こう側で煽る剛田達が、火災のように僕の恐怖対象であり、その恐怖から逃れられるのならと、僕は屋上から飛び降りてしまった。


 「………………………………」

 

 あまりの死の恐怖に、僕は一切言葉を発することなく落下した。

 ロープはギリギリのところで、地面に届かないように設定されていて、僕は宙吊り状態で吊らされることになった。

 屋上からは、僕を見て笑う剛田達の声が聞こえる。

 まるで悪魔の笑い声のように・・・。

 

 その後、教師に発見されて職員室に連れて行かれたが、僕が一人でやったこととして処理され、その日は親を呼ばれて、こっぴどく怒られた。

 僕は最後まで剛田達のことは言わなかった。

 もしも、言ってしまったら僕は殺されると思ったからだ。

 奴らは人間じゃない!

 僕は悔しさと恐怖のあまり、初めて枕を抱いて泣いた。


 その後も、僕に対するいじめはエスカレートしていき、僕は彼らを殺すことを決意した。

 だから刑務官さん、それでも彼らに罪がないと言えますか?

 僕は、再び鎮まり返る廊下を歩かされた。

 

 しばらくして、扉の前で立たされた。

 おそらくは、ここが執行場なのだろう。

 刑務官によって扉が開かれた。

 部屋に入ると香が焚かれていて、仏間のある部屋だった。

 当然、教誨師もいて、お経を上げられた。


 その後、刑務官から遺書を書くかと聞かれたが、僕は断りを入れた。

 僕が逮捕されてから、家族はバラバラになってしまった。

 父は、会社にいられなくなり、酒浸りの生活の末、失踪してしまい、母はもともと、心が強い方ではなかったので、罪の意識から自殺してしまった。

 そして妹は、陰湿なイジメに合って学校を辞めたと聞いた。

 しかし、妹の不幸はそれで終わらなかった。

 学校を辞めた後、風俗店で生計を立てていたが、そこで薬に手を出してしまい、今は更正施設で廃人のように収容されている。

 将来を期待されていた、優秀な妹は、僕のせいで人生を棒に振ったのだった。

 そんな僕が、遺書を書いたところで受け取る人間がいない。

 その為、遺書は辞退したのだった。


 全てが終わると、僕は白い衣装に着替えさせられた。

 所謂、白装束なのだろう。

 これから死ぬ人間にとっては、これ以上の衣装はない。

 僕が着替え終わると、次に大きな袋を頭に被された。

 

 いよいよ、死刑が執行されるのだろう。

 刑務官よって、隣の部屋へと連れていかれた。

 しかし、ここで思わぬことが起こる。

 

 チック。

 

 部屋に連れていかれてすぐに、首筋に痛みを感じた。

 痛みの感じから、注射器によるものだとすぐに解かったが、なぜこんなことをするのか、疑問に思った。

 日本の死刑は絞首刑なので、薬物を投与する必要は全くなかった。

 しかし、明らかに僕は何かを投与されていた。


 次第に視界が暗くなり、その場に倒れ、僕は意識を失った。

 その時、頭に被させられて袋が取れて、僕の目には刑務官達のニヤけ顔が焼き付いていたのだった………。

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