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特別番外アフターエピソード

こちらは読者の方から頂いたリクエストを元に作った、一話完結のアフターストーリーです。

 小学校の卒業が間近まで迫っていた2月。私は学校が終わるのと同時に教室を飛び出し、急いで自宅へと走っていた。

 外では朝から降っていた雪が街を白く染め上げていて、時々どこからか小さな子供の楽しげに遊んでいる声が聞こえてくる。本当なら私も積もった雪で遊んだりしたいところだけど、さすがに12歳にもなって小さな子供のようにはしゃぐのは恥ずかしい。


「あっ……」


 そんなことを思いながらも、私は自宅近くの公園に雪が積もっているのを見て足を止めた。

 公園に白い雪が大量に積もっているのを目の当りにした私は、ついつい積もった雪に釣られるようにして中へと入ってしまう。

 そして私は琴美お姉ちゃんからプレゼントしてもらった猫柄の手袋を両方とも外し、降り積もった白い雪に両手を伸ばした。


「つめたーい!」


 雪を触った両手から、一瞬で冷たい感覚が全身に伝わって来る。その冷たさに身体を震わせながら、私は雪を掴んで雪玉を作り始めた。


「――よしっ!」


 夢中になっていくつかの雪玉を作ったあと、私は雪玉の一つを掴んでから公園にある壁に向かってそれを投げた。


「ストライ――――クッ!」


 投げ放った雪玉は真っ直ぐに壁へと向かい、その壁に描かれていた三重丸の真ん中に見事に当たって砕けた。

 それに気をよくした私は作った雪玉を次々と手に取っては壁の的に投げて楽しむ。


「――あっ、いけないっ!」


 雪玉を全部壁の的へと投げ終えたあと、私は急いで家に帰っていたことを思い出した。

 私は雪玉作りの最中に作った小さな雪だるまを両手で持ち、急いで自宅へと走る。


「あう~、冷たいよ~」


 両手で持った小さな雪だるまが私の体温で少しずつ溶けて水になり、指の隙間からしずくとなって落ちていく。琴美お姉ちゃんから貰った手袋を使いたくなるところだけど、手袋が水でグショグショになってしまうからそれはしたくない。

 私は両手に感じる鋭い冷たさに耐えながら、視界に入ってきた自宅へと急ぐ。


「あっ、どうしよう……」


 ようやく自宅の玄関前へ着いたけれど、私は両手が塞がっていて自宅の鍵を取り出せないことに気づいた。どうしようかと迷っている内にも、両手に持っている雪だるまは容赦なく溶けて水になっていく。

 このままではどうしょうもないと思った私はちょっとバランスの悪い雪だるまを左手だけで持ち、空いた右手で素早くインターフォンを押してから素早く雪だるまを両手で持ち直した。


「はーい、どちらさまですか?」


 ピンポーンというありふれたチャイム音が鳴り響いてから数秒後、インターフォンからいつもの聞きなれた綺麗な優しい声が聞こえてきた。


「お姉ちゃん、私、明日香だよ。ちょっと玄関を開けてもらっていいかな? あと、小さなお皿を持ってきて欲しいの」

「お皿? うん、分かった。ちょっと待っててね」


 琴美お姉ちゃんがそう言い終わると、インターフォンをガチャッと切る音が聞こえた。

 そして玄関の扉の奥から、スタスタとスリッパで廊下を歩いて来る音が聞こえてくる。


「お待たせ、明日香ちゃん。はい、お皿」

「ごめんね、お姉ちゃん。ありがとう」


 私は琴美お姉ちゃんから小さなお皿を受け取り、そこに持って来た雪だるまを乗せてから台所の冷凍庫に急いで向かった。


「これでよし」

「随分慌ててたみたいだけど、その雪だるまを早く保存したかったのね」


 冷凍庫に雪だるまを入れたあと、琴美お姉ちゃんがにこやかな笑顔で台所に入って来た。


「うん! お姉ちゃんとお兄ちゃんに見せたくて。あっ、お姉ちゃん、安静にしてないといけないのにごめんね」

「気にしなくていいのよ。安定期はとっくに過ぎてるし、病院の先生からは無理しない程度に動いた方がいいって言われてるから」


 そう言いながら琴美お姉ちゃんは大きくなったお腹をいとおしそうに撫でる。


「うん。でも無理しないでね」

「ありがとう、明日香ちゃん。さあ、おやつにクッキーを作ってるから一緒に食べましょう」

「うん!」


 私はにこやかに微笑む琴美お姉ちゃんと一緒にリビングへと移動する。

 優しい琴美お姉ちゃんとお兄ちゃんが25歳の時に結婚してからもう6年が経つ。

 お兄ちゃんと琴美お姉ちゃんが結婚する時、私は小学校入学前だったんだけど、あの時私は『お兄ちゃんと結婚するのは私なのー!』と言ってお兄ちゃんと琴美お姉ちゃんをずいぶん困らせていたのを覚えている。今考えると恥ずかしくて仕方がない思い出。

 お兄ちゃんと琴美お姉ちゃんは幼稚園からの幼馴染だったと聞いてるけど、幼馴染でお互いに初恋の相手同士。しかも結婚した今でもとっても仲良し。

 私も大きくなったらこんな2人のように幸せな家庭を持ちたいと思うほどの理想の2人。


「――ねえお姉ちゃん、赤ちゃんが生まれてくるのはいつ頃になるの?」

「予定日は明日香ちゃんの中学校入学日の近くかな」

「そっか……じゃあ私の入学式には来れないね」


 赤ちゃんが生まれてくるのは楽しみだけど、ちょっと残念。


「大丈夫よ。明日香ちゃんの卒業式も中学校の入学式も、私はちゃんと見届けるから」

「でも、無理してお腹の赤ちゃんやお姉ちゃんになにかあったら……」

「本当に大丈夫よ。それに明日香ちゃんは私の大切な義妹いもうとでもあるんだから」


 琴美お姉ちゃんはトレーに乗せて持って来たティーカップとクッキーが入ったお皿をテーブルの上に置くと、不安がる私の頭を優しく撫でながらそう言ってくれる。

 私がこんなにも不安がるのにはもちろん理由がある。実は琴美お姉ちゃんは体質的に赤ちゃんができにくい身体らしくて、これまでずっと不妊治療を続けていた。

 琴美お姉ちゃんはお兄ちゃんや他のみんなが気にしないようにいつも明るく振舞っていたけど、本当は誰よりも子供ができないことを気にしていたのを私は知っている。だからこそ琴美お姉ちゃんに赤ちゃんができたと知った時、私は本当に嬉しかった。

 そしてあの日、仕事から帰って来たお兄ちゃんに琴美お姉ちゃんが妊娠したことを告げた時、お兄ちゃんが琴美お姉ちゃんを抱き締めて大喜びしていたのを覚えている。

 そんな2人の本当に幸せそうで嬉しそうな表情を見ていたからこそ、琴美お姉ちゃんには無理をしてほしくないと思ってしまう。

 だってお腹の中の赤ちゃんになにかあれば、間違いなく2人の表情は暗く悲しく沈んでしまうんだから。そんな2人の表情を私は見たくない。


「ありがとう、お姉ちゃん。でも今は自分の身体と赤ちゃんのことを一番に考えてほしいの」

「うん、分かった。明日香ちゃんの言うように無理はしないから安心して」

「うん!」


 その言葉を聞いて安心した私は、テーブルの上に置かれた皿の上にあるクッキーに手を伸ばす。


「おいしい!」

「良かった。たくさん作ったからどんどん食べてね」


 私は琴美お姉ちゃんが勧めるままにクッキーを食べながら、楽しい午後の一時を過ごした――。




「ただいまー」


 琴美お姉ちゃんとテレビを見ながら過ごして19時を迎えた頃、玄関からお兄ちゃんの声が聞こえてきた。

 その声を聞いた私と琴美お姉ちゃんはソファーから立ち上がって玄関の方へと向かった。


「お帰りお兄ちゃん」

「お帰りなさい、涼くん」

「ただいま明日香、ただいま琴美」


 お兄ちゃんは廊下まで出迎えに来た私たちを見てにこっと微笑むと、そのまま自室へと着替えに向かった。


「さあ、料理を温めなおさないとね」

「あっ、それは私がやるから、お姉ちゃんはリビングで待ってて」

「えっ? でも……」

「いいからいいから。お姉ちゃんは今大事な時なんだから、ここは私に任せて」

「ありがとう、明日香ちゃん。じゃあお願いするわね」

「うん、任せておいて!」


 琴美お姉ちゃんがリビングへと戻るのを見届けたあと、私は台所へ行ってからお姉ちゃんと一緒に作った晩御飯のシチューを温め始めた。


「「「――いただきます」」」


 着替えを終えたお兄ちゃんがリビングに来て椅子に座ると、いよいよ私たちの晩御飯の始まり。


「琴美、体調はどうだ? なにか不自由してることはないか?」

「もう、涼くんは赤ちゃんができてから毎日同じことを聞いてくるんだから。大丈夫よ、明日香ちゃんもたくさんお手伝いしてくれてるし、なにも不自由なんてしてないから」

「そ、そっか」

「お兄ちゃんは心配性過ぎるよ。私も居るんだから、もう少し信用してよね」

「そうだな、明日香も色々協力してくれてるしな」

「うんうん。そうだよお兄ちゃん」

「琴美のこと、よろしくな」

「うん!」

「あー、それじゃあまるで私だけじゃ心配――って言ってるみたい」

「あ、いや、そういう意味じゃないけどさ……」

「もうっ、私は大人なんだからね?」

「悪い悪い」

「じゃあ今度、明日香ちゃんと一緒にケーキバイキングに連れて行ってくれたら許してあげる」


 琴美お姉ちゃんはちょっとだけ意地悪な笑みを浮かべてお兄ちゃんにそう言うと、横目でチラッと私を見てからウインクしてきた。


「分かったよ、今度の休みに連れて行くから」

「「やった!」」


 お兄ちゃんがしょうがないなと言った感じの苦笑いを浮かべてそう言うと、私と琴美お姉ちゃんの喜びの声がほぼ同時に出た。


「でも琴美は妊娠中なんだから、食べ過ぎないようにしろよ?」

「大丈夫大丈夫、甘い物は別腹だから。ねー、明日香ちゃん」

「うん!」

「おいおい、明日香まで」

「大丈夫だよ、お兄ちゃん。お嫁さんをちゃんと信用しなきゃ」

「やれやれ」


 私と琴美お姉ちゃんが組めば、お兄ちゃんは絶対に敵わない。

 お兄ちゃんの優しげな苦笑いを見つつ、私はいつもの幸せな時間を過ごした。


× × × ×


 月日が経つのは早く、3月に入ってすぐに小学校の卒業式を迎えてから2週間ほどが経った。


「小雪、また来るからね」

「にゃ~ん」


 近所に住んでいるおじいちゃんとおばあちゃんの家に預けている小雪に手を振りながら、私はエコバッグを持って目的のスーパーへと向かった。

 小雪は真っ白で触り心地抜群の私たちの飼い猫で、とっても賢くて人懐っこい。

 私が生まれる3年くらい前からお兄ちゃんが飼っていたらしいんだけど、なんだか小雪のことはずっと昔から知ってたような気がするから不思議。

 今は琴美お姉ちゃんのことを気遣ってるお兄ちゃんの意向でおじいちゃんの家に預けられているけど、小雪も大事な家族だし、早く我が家に戻してあげたいと思う。

 エコバッグを持って近所のスーパーへと向かった私は晩御飯の材料を手早く買い物カゴに入れてから会計を済ませ、自宅で待っている琴美お姉ちゃんのもとへと急いで帰った――。




 自宅へと戻って台所へと向かう途中、リビングと廊下を繋ぐ出入口の横を通りかかった時、リビングから苦しそうにうめくような声が聞こえてきた。

 それが気になった私は持っていた荷物を廊下の床に置いてからリビングへと入った。


「お、お姉ちゃん!? 大丈夫!?」


 中へ入って声がする方に歩み寄ると、ソファーの横でうな垂れるようにして苦しんでいる琴美お姉ちゃんの姿が目に入り、私は急いでしゃがんでから琴美お姉ちゃんに声をかけた。


「明日香ちゃん……大丈夫、大丈夫よ……」


 苦しげな表情を浮かべながらも私に心配をかけないようにとそんなことを言う琴美お姉ちゃん。

 よく見ると琴美お姉ちゃんがへたり込んで居る辺りが水の様な液体でビショビショになっている。

 琴美お姉ちゃんが不妊治療を始めて間もなくから、私は妊娠などに関する本を読んでいた。なのでその状況を見た私は琴美お姉ちゃんが破水したんだと瞬時に思った。


「お姉ちゃんちょっと待ってて。すぐに救急車を呼ぶから!」


 私はお兄ちゃんに預けられていた携帯電話をポケットから取り出してから119番に電話をし、急いで救急車に来てもらうように連絡を入れた。

 初めての119番への電話は緊張したし上手く話せるか不安だったけど、それよりも早く琴美お姉ちゃんと赤ちゃんを助けたいという気持ちの方が強かったおかげか、それなりに状況の説明をすることはできたと思う。


「お姉ちゃん、すぐに救急車が来るから頑張って!」


 私はお風呂場にある綺麗なタオルをありったけ用意し、リビングの床にタオルを敷いてから琴美お姉ちゃんをそこに横たわらせた。

 そして琴美お姉ちゃんを横たわらせたあと、腰辺りを中心にタオルで身体を包み込みながら救急車が一刻も早く来るのを待った。


× × × ×


「明日香!」

「あっ、お兄ちゃん」

「琴美は!? 琴美は大丈夫なのか!?」


 お昼過ぎの病院。それなりに人も多い病院内にお兄ちゃんの焦ったような声が響く。


「お兄ちゃん落ち着いて、お姉ちゃんは分娩室ぶんべんしつに入ってるから」

「そ、そうか……」


 私の言葉に少し冷静になったのか、お兄ちゃんは周りに居た人たちに向かって頭を下げて謝っていた。


「明日香が救急車を呼んでくれたんだろ? ありがとな」

「ううん、そんなこと気にしなくていいよ」

「ありがとう」


 お兄ちゃんからのお礼の言葉を聞いた時、私は妊娠に関する本をいくつか読んでおいて本当に良かったと心から感じた。

 そして落ち着きを取り戻したお兄ちゃんはそれからお母さんやおじいちゃん、琴美お姉ちゃんのお母さんの琴音さんに連絡を入れたあと、看護師さんに言われて分娩室の中へと入って行った――。




 お兄ちゃんが分娩室へと呼ばれて入ってから、最初にやって来たおじいちゃんおばあちゃんと一緒に分娩室の前で待つこと2時間。

 琴美お姉ちゃんと赤ちゃんの無事を祈りながら長い時間を待っていたその時、分娩室の中から赤ちゃんの大きな産声うぶごえが聞こえてきた。


「生まれたんだ!」


 私は分娩室の前にある長椅子から立ち上がり、琴美お姉ちゃんたちが出て来るのを待った。

 そして赤ちゃんの産声が聞こえてから数分後、分娩室からお兄ちゃんが出て来た。


「あっ、お兄ちゃん、お姉ちゃんと赤ちゃんはどうなの? 大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫だ。琴美も赤ちゃんも大丈夫だ!」


 お兄ちゃんは瞳に涙を浮かべながら嬉しそうに表情をほころばせてそう言った。

 私と同じように長椅子から立ち上がっていたおじいちゃんとおばあちゃんはその言葉を聞いて安堵の溜息を吐き出し、力が抜けたようにして再び長椅子へと腰を落とした。


「良かった……」


 そして私も安心したからか、おじいちゃんたちと同じように長椅子に腰を下ろした。

 とりあえずお姉ちゃんも赤ちゃんも無事で良かったけど、念のためにということで琴美お姉ちゃんはしばらくの間赤ちゃんと一緒に入院することになった。


× × × ×


 赤ちゃんが生まれてから6日後。

 私は自宅でソワソワしながらお兄ちゃんたちの帰りを待っていた。


「ただいま、明日香」

「明日香ちゃん、ただいま」

「お帰り!」


 朝から落ち着きなくお兄ちゃんと琴美お姉ちゃんの帰りを待ちわびていたお昼過ぎ、ようやく2人が――ううん、3人が我が家へと帰って来た。


「わー、可愛い~」


 挨拶も早々に私は琴美お姉ちゃんが抱きかかえている赤ちゃんの顔を覗き見た。


「初めまして、私は明日香お姉ちゃんだよ~」


 私と赤ちゃんはこれが初対面。まだ閉じたままの瞳がいつ開くのかは分からないけど、私は赤ちゃんの頭を優しく撫でながら自己紹介をした。


「ねえお姉ちゃん、抱いてもいい?」

「うん、いいわよ」


 琴美お姉ちゃんはそう言うと、抱き方を教えながらそっと私に赤ちゃんを抱かせてくれた。


「じゃあ俺は荷物を片づけてくるから」

「うん。ありがとう、パパ」


 琴美お姉ちゃんがそう言うと、お兄ちゃんは照れくさそうにしながら荷物を持って奥の部屋へと向かった。


「温かいなあ」


 包まれた布越しに赤ちゃんの体温がじわりと伝わってくる。


「ふふっ」


 そんな私と赤ちゃんの様子を見ていた琴美お姉ちゃんが、急に小さな声を出して微笑みだした。


「どうしたの?」

「うん、なんだか明日香ちゃんが生まれた時のことを思い出しちゃって」

「私が生まれた時のこと?」

「実は明日香ちゃんが生まれた時にね、涼くんが不思議なことを言ったのよ」

「えっ? どんなこと?」

「涼くんね、こうやって明日香ちゃんを初めて抱き上げた時に、『お帰り、明日香』――って言ったのよ」

「お帰り?」


 私はその言葉を聞いて首を傾げた。どう考えても初めて赤ちゃんと対面した人の言う言葉ではないから。


「うん。それでね、私が『なんでお帰りなの?』って聞いたら、涼くんはこう答えたの。『約束だから』――って」

「約束……」


 それを聞いた私はなんだか不思議な気持ちになった。まるで遠い昔、お兄ちゃんとそんな約束をしたような気がしたから。


「でもね、そのあとに『やっぱり変だよな』って言って苦笑いしてたけどね」

「そっか、そうだったんだ……。お姉ちゃん、赤ちゃん抱かせてくれてありがとう」


 私はそうお礼を言ってから赤ちゃんをそっと琴美お姉ちゃんに抱きかかえてもらった。


「ところで、赤ちゃんの名前はどうなったの?」

「あっ、それだけどね。色々と検討した結果、明日香ちゃんが考えた名前をつけることにしたの」

「えっ、本当?」

「うん、とってもいい名前だったから」

「そっか、ありがとう」

「こちらこそ、素敵な名前を考えてくれてありがとう。明日香ちゃん」


 私はもう一度琴美お姉ちゃんが抱いている赤ちゃんの顔を覗きこむ。


「これからよろしくね、さくらちゃん」


 私がそう言うと、眠っている赤ちゃんが笑顔になったように見えた。

 それから4月になって中学校の入学式を迎えた頃、私は1人増えた家族とお兄ちゃんたちに新たな門出を祝福された。

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