妹とデートをしました。
サクラが我が家へ戻って来てから3日後、俺は明日香と一緒にデパートへショッピングに来ていた。特になにか買う物があるわけではないけど、今日は明日香の要望でこうして出かけているわけだ。
「さて、まずはどこから見て回ろうか?」
「とりあえず一番上まで行ってからゆっくり見て回ろうよ」
「そうだな」
明日香はデパートに来ると、必ず一番上の階から見て回る。そのパターンは今日もぶれることがない。
前に一度その理由を聞いてみたことがあるけど、『高い場所から徐々に下りて行くのが好きだから』と言っていた。
人の趣味趣向は他人には理解し難いものもあるけど、まあ明日香の言っている感覚は分からなくもない。
楽しそうに顔を綻ばせている明日香と一緒にエスカレーターへ向かい、ゆっくりと上の階へ上って行く。上の階から回るなら、エレベーターで一気に最上階に行った方がいいとは思うのだけど、明日香的にそれは面白くないのでNGらしい。誰にでも妙な拘りというものはあるもんだ。
「――おっ、今日は屋上の展望フロアが解放されてるみたいだぞ」
「あっ、本当だ。ねえお兄ちゃん、行ってみようよ」
言うが早いか、明日香は俺の手を握って展望フロアへと引っ張って行く。
どうも一緒に遊園地で観覧車に乗って以降、明日香は高い場所から景色を見るのがお気に入りになったようで、こうして高い場所からの景色を見れる機会があると必ずそこに立ち寄るようになっていた。
「わあー、いい眺め」
屋上の展望フロアへと来た明日香は、俺の手を握ったまま転落防止用の柵がある場所へと向かい、そこから広がる風景を見て楽しそうな声を上げる。
まだ開店して間もない時間とは言え、屋上は既に太陽によって熱されていてかなり暑い。
床に敷かれている石畳からは既に陽炎のように揺らめく熱気が見え、時折吹いてくる強い風にあおられてその熱気がサッと散っていく様が見える。
「まあ景色はいいけど暑いな」
「そうだね、屋根があれば全然違うんだろうけど」
まだ展望フロアに来て5分と経っていないのに、額には既に汗が浮かんで流れ落ちようとしていた。
「やっぱり外は暑くて駄目だな。明日香、中に戻ってアイスでも食べないか?」
「うん! 私ストロベリーアイスがいいな」
「りょーかい」
アイスクリームを食べられるのがよほど嬉しいのか、明日香は握っていた手をギュッと強く握ってから屋内へと向かって行く。
明日香に手を引かれながら中にあるアイスクリーム屋さんまで向かった俺たちは、それぞれに好みのアイスクリームをチョイスしてから店内にあるベンチに座り、冷たいアイスをペロペロと舐めながら熱くなった身体を冷ましていた。
「ん~、美味しー!」
ご所望だったストロベリーアイスを舐めながら、幸せそうな表情を浮かべる明日香。本当に甘いものには目がないようだ。
幸せそうな明日香を見たあとで他の場所に視線を移すと、やはり夏休みだからかカップルの姿があちらこちらに見える。
そんなカップルの姿を見ていると、俺も琴美とあんな風にしたいな――などと思ってしまう。まあ実際はそんなことをしようと思っても、恥ずかしくてできないだろうけど。
「どうかしたの? お兄ちゃん」
幸せそうなカップルの様子を見て羨ましいなと思っていた時、明日香が心配そうな表情を浮かべて顔を覗き込んできた。
「ああいや、なんでもないんだよ」
『涼太くんはね、琴美ちゃんと周りに居るカップルみたいにイチャイチャしたいんだよ』
「はあっ!?」
突然聞こえてきたその声は、的確に俺の思っていたことを言っていた。
その声にビックリして声が聞こえた方向を見ると、そこにはニヤリと怪しげな笑みを浮かべたサクラが飛んでいて、ゆっくりとこちらに近寄って来る。
『サクラかよ、突然話しかけたらビックリするじゃないか』
『ごめんね、2人が楽しそうにしてたから声をかけ辛くて』
『ねえサクラ、お兄ちゃんが琴美お姉ちゃんとイチャイチャしたいってどういうこと?』
『それはね、周りで仲良くしているカップルみたいなことをしながら琴美ちゃんとデートをしたいと思ってるってことよ』
「そうなの? お兄ちゃん」
「サクラの言うことを真に受けちゃいけません」
『もー、そんなに照れなくてもいいのに。ちょっとは素直になれよ~』
そう言いながら何度も俺の頬を肘で突くサクラ。この鬱陶しさ、なんだか久しぶりな感じがする。
『明日香に妙なことを吹き込むんじゃないよ。ところで、どうしたんだ?』
『ああそうだった。また少しの間留守にするから、今度はちゃんと言いに来たの。また2人に心配させたら心苦しいからね』
『そっか、まあこっちのことは心配しないで頑張ってこいよ』
『了解! 明日香もしっかりと涼太くんに遊んでもらうんだよ?』
『うん、分かった』
明日香の元気な返事に満足したような表情を見せると、サクラは『またねー』とのんきな声を上げてどこかへと向かって行った――。
「さて、そろそろ移動するか」
サクラを見送ってからアイスを食べ終わったあと、俺はそう言いながら明日香の方を振り向く。
「うん」
明日香の短い返事を聞いてベンチから立ち上がると、2人で店の出入口に向かって歩き始めた。
「えいっ!」
そして歩き出してから数歩ほど進んだ時、突然俺の左腕を温かく柔らかな感触が包み込んだ。
少しビックリしながら左側を向くと、にこっと笑みを浮かべた明日香が両手で俺の左腕を抱き包んでいた。
「急にどうしたんだ?」
「えへへっ、今日はこのままお兄ちゃんとデートだよ!」
さっきのサクラの言葉を真に受けたのかは分からないけど、明日香は楽しそうに声を弾ませながらそんなことを言う。
本来ならサクラの言うことを真に受けなくていいんだぞ――とでも言うべきだろうけど、明日香が楽しそうにしているのを見ていると、そんなことを言うのは無粋なように思えてなにも言えなくなった。
「……よし、じゃあ今日は明日香とのデートを楽しむとしようかな」
照れくさく思いながらも、俺は笑顔でそう答えた。
「うん、じゃあ行こう!」
元気良くそう返事をする明日香と一緒に店を出て、妹とのデートを楽しむことにした。
ゲームでは幾度となく体験している妹とのデートなのだが、やはり現実でそれをするとなると勝手が違う。まあ実際は妹とデートなんてありえない話だろうけどな。
このあと俺たちはウインドウショッピングをしたりゲームセンターで遊びに興じたり、ファミレスで美味しい物を食べたりして存分にデートを楽しんだ。
明日香と一緒に過ごす2回目の夏休み。こうしてまた一つ、新たな思い出ができた。この先どれだけの思い出を残せるかは分からないけど、明日香と一緒に過ごす一つ一つの日々と時間を大切にしていきたい。




