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新たな希望を見出しました。

 夏休みを迎えてから早くも1週間が経った。あれから明日香も少しずつ由梨ちゃんが居なくなった現実を受け入れ始めたようで、生活も普段の様相を取り戻そうとしていた。

 だがそれでも、ふとした瞬間に見せる寂しそうな表情には心が痛くなる。

 しかし明日香も頑張って普段どおりの日常を送ろうとしているのは分かるので、ここで俺が明日香を心配させるような態度を見せるわけにはいかない。


「どうだ明日香、ハンバーグ美味しいか?」

「うん、凄く美味しい」


 にこやかな笑顔を見せながらハンバーグを頬張る明日香。食欲も戻ってきたようだし、2人で会話をする時間も徐々にだが元に戻ってきていた。


「おかわりはたくさんあるから、遠慮なく言っていいぞ」

「うん。ところでお兄ちゃん、あれからサクラには会った?」


 頬張っていたハンバーグを飲み込んだあと、明日香は心配そうな表情でそんなことを聞いてきた。


「いや、俺も最近はサクラの姿を見てないな」

「どうしちゃったのかな……サクラ」


 数日姿を見せないことは今までにもあったけど、こんなに長く姿を見せないのは初めてだ。その理由については色々と想像できるけど、明日香もこうして心配してるんだし、少しくらいは顔を見せてもいいとは思うんだがな。


「――ああー、疲れたあ~」


 明日香と一緒にサクラについての話をしていた矢先、話題にのぼっていた張本人がなんの緊張も感じさせない口調でフラリと姿を現した。


「サクラ!?」

「あっ、涼太くんに明日香、ただいま~」


 サクラはそう言うとフラフラしながらこちらへ飛んで来て、そのまま俺の隣の席にパタリと横たわった。


「今まで姿も見せずにどうしてたんだよ」

「そうだよ、心配してたんだからね」

「あっ、ごめんね。しばらく留守にするって言って行ければ良かったんだけど、時間的な余裕がなかったから」

「いったい今までなにをしてたんだ?」


 率直にそう尋ねると、サクラはソファーに横たえていた身体の上半身を起こしてから俺と明日香を交互に見据えてきた。


「ふうっ……もう2人とも知ってるだろうから言っちゃうけど、由梨ちゃんのことで色々とやることがあったから天界に行ってたの。プリムラは優秀な子だけど、幽天子の見守り任務は今回が初めてだからね」

「そうだったんだ……ねえサクラ、由梨ちゃんはどうなったの?」


 明日香が不安そうな表情で静かにそう問いかけると、サクラはそんな明日香の心中を察したかのような優しげな微笑を浮かべて口を開いた。


「心配しなくても大丈夫よ。由梨ちゃんは無事に転生条件を満たして転生準備に入ってるから」

「そっか……由梨ちゃんはこの世界に生まれ変わって来るんだね……」


 それを聞いた明日香は、安心したような笑みを浮かべながらそう言った。


「あっ、由梨ちゃんから明日香に伝言があったから、忘れないうちに伝えておくね」

「由梨ちゃんからの伝言?」


 明日香はその言葉にいささか緊張気味の表情を浮かべると、真剣な顔でサクラの言葉に耳を傾けていた。


「由梨ちゃんからの伝言は、『ちゃんとした形でお別れを言えなくてごめんなさい。明日香ちゃんは優しいから心配なところもあるけど、私が消えたからって落ち込んだりしないで、涼太お兄さんと仲良く過ごしてね。そしてあの時言ったように、いつかまた会うことができたら、一緒に仲良く遊ぼうね。いつまでも大好きだよ、明日香ちゃん』――だってさ」

「…………」


 由梨ちゃんからの伝言を聞いた明日香は瞳を閉じたままなにも言葉を出さず、身体を小さく震わせていた。きっと由梨ちゃんからの言葉一つ一つを心の中にみ込ませているのだろう。


「――由梨ちゃん、ありがとう……」


 閉じた瞳から一筋の涙が流れたかと思うと、明日香は静かに由梨ちゃんへの感謝の言葉を口にした。その様子を見た俺は、もう明日香は大丈夫だと思った。

 きっと明日香は親友から送られたその言葉と想いを最後まで大切にするだろう。


「サクラ、ありがとな」

「お礼なんていいよ、私は自分の仕事をしただけだから」

「それでもありがとう」

「うん」


 その言葉を聞いてにこやかな笑顔でサクラは頷いてくれた。

 由梨ちゃんとはお別れしてしまったけど、これが一生の別れになるわけじゃない。だって彼女は、新たな命を宿してこの世界に帰って来るのだから。

 もちろん由梨ちゃんがこの世界に転生したからと言って、必ずまた出会えるわけではないだろうし、おそらく出会ったとしてもその子が由梨ちゃんだとは気づかないだろう。でも、それでいいと思えた。

 生まれ変わった由梨ちゃんは、幽天子としての由梨ちゃんとは違う。新たな人生を生きる別の由梨ちゃんなのだから。

 だからもしも俺が生きている間に再会できたら、新たな関係を築けばいいだけのことだ。

 そしてそれは、明日香に対しても同じことが言える。

 おそらく俺も幽天子である明日香とお別れをしたら、その存在を忘れてしまうだろう。色々と忘れないための策を立ててはいるけど、それが果たして効果があるかは分からない。

 だけど明日香と約束をした以上、できるだけのことはやっておきたいと思う。

 そんなことを思いつつ、今日は久しぶりにサクラを交えての夕食を楽しんだ。

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