みんなが我が家にお泊りしました。
楽しいクリスマスパーティーも終わり、みんなで片づけをしたあとでそれぞれお風呂に入ってから就寝の時間を迎えていた。
俺は自室に布団を一組持ち込み、床に拓海さん用の布団を敷く。
今日はせっかくだからということで、みんな我が家にお泊りすることになっていた。
先にお風呂へと入った明日香と由梨ちゃんと小雪ちゃんは既にお風呂から上がっており、明日香の部屋できゃいきゃいと騒いでいる声が聞こえる。
そして明日香たちがお風呂から上がったあと、琴美は1人でお風呂へと入るつもりでいたらしいが、それを見たサクラが強引に琴美とプリムラちゃんをお風呂へと連れて行った。
おそらく現在のお風呂場は、サクラの独壇場と化していると思われる。ちょっとどんな様子なのか見てみたいところではあるが、さすがにそれはマズイので止めておこう。
「お疲れ様、涼太くん」
ちょうど布団を敷き終わった頃、部屋の扉をトントンと叩いてから拓海さんが中へと入って来た。
「あっ、お疲れ様です。拓海さん、お風呂上りはこの布団を使って下さい」
「ありがとう、涼太くん。今日は楽しかったよ、由梨も凄く喜んでたしね」
空いている床の一角に座り、拓海さんは丁寧にお礼を言う。その表情は本当に嬉しそうで、由梨ちゃんをとても大切にしているのがひしひしと伝わってくる。
そんな拓海さんの様子を見ただけでも、クリスマスパーティーを開いて良かったと思う。
「明日香も今日のパーティーはとても楽しんでました。それも拓海さんたちが来てくれたおかげです。ありがとうございます」
「お互いに可愛い妹を持つと大変だね」
「そうかもしれませんね」
そう言って拓海さんと一緒に小さく笑いあう。
お互いにほんの少し前までは、妹という存在が居なかった者同士。そんな俺と拓海さんがひょんなことから妹ができ、その妹との同居生活を始めた。
思い返してみれば明日香と暮らし始めてから色々なことがあった。最初はまともなコミュニケーションすらとれず、ただ戸惑うばかりの日々。それでも少しずつ時間をかけて問題を解消して今へと至ったわけだが、当時は本当に大変だった。
そんな昔の思い出に耽りながら、サクラたちが風呂から上がってくるまでの間、拓海さんと妹ができてからの話に華を咲かせていた――。
「じゃあ、お先にお風呂に行かせてもらうね」
「はい、ごゆっくりどうぞ」
拓海さんが部屋から出て行ったあと、俺は別の倉庫部屋に置いてあるお客用布団を抱えてリビングへと下りて行く。
リビングにはサクラのたってのお願いで、琴美、プリムラちゃん、サクラの3人が寝ることになっていた。
当初の予定としては琴美には明日香の部屋で寝てもらう予定だったんだけど、サクラが連れて来た小雪ちゃんのこともあり、急遽その構想は変更を余儀なくされたわけだ。
まあ琴美は別にそのことを気にしてはいないようだが、“サクラと一緒”――というただ一点だけが俺の一番の不安要素である。
琴美になにか余計なことを話さなければいいが、とりあえず安全のためにあとでサクラには釘を刺しておくことにしよう。
「――よいしょっと」
一組ずつ持って下りた布団をリビングの一角に置いていた俺は、最後に運んで来た布団をさっきまでパーティーが行われていたリビングの床に敷いていく。
楽しいパーティーが行われていたリビングに残っているのは、煌びやかな光を放つクリスマスツリーだけ。
「あっ、涼くん。私も手伝うね」
サクラたちと共にお風呂に入っていた琴美がリビングへと戻って来た。
そして俺が布団を敷く姿を見て素早く手伝いを始めてくれる。
「琴美、今日は色々とありがとう。おかげで凄く楽しいパーティーになったよ」
「ううん、気にしないでいいよ」
「そっか。でも、琴美が居てくれて良かったよ」
「う、うん……私も涼くんが居たから楽しかった」
「えっ!?」
その言葉に思わずドキッとして横で布団を敷いている琴美へと視線を向けると、ちょうど琴美もこちらを見ていたらしく、お互いの視線が真正面からぶつかった。
「「あっ……」」
視線が合わさった瞬間、琴美の顔が一瞬にして紅く染まるのが見えた。
それを見た俺は凄まじい恥ずかしさを感じて視線を逸らしてしまう。
顔がとてつもなく熱くなる。もしかしたら俺は、さっき見た琴美のように顔が真っ赤に染まっているのかもしれない。
「いやー、若いっていいねえ~」
「た、隊長! 声が出てますよ!」
「「えっ!?」」
リビングから廊下へと続く出入口の方からした声に、俺と琴美はほぼ同時に振り返った。
「「あっ!」」
俺たちが視線を向けたことに気づいたからか、サクラとプリムラちゃんの動きが一瞬止まった。
そしてこちらの声に気づいて動きを止めていたサクラとプリムラちゃんが再び動きだすと、『隊長のせいで見つかった』だの、『プリムラが大きな声を出すから』だのと言い合いを始めた。
「おふたりさーん? なにを揉めてるのかな~?」
「あっ、いや、その……」
「もー、涼太くんのえっち~」
俺の問いかけに対してプリムラちゃんは慌てたように視線を逸らし、サクラは意味不明な言葉を発した。
「あ、あの、布団の準備できましたよ。サクラさん、プリムラちゃん」
「あっ、ホントだー! プリムラ行くよー!」
「ちょ、ちょっと! 手を引っ張らないで下さい!」
これ幸いにと言わんばかりに、プリムラちゃんを引っ張って敷かれた布団へと向かうサクラ。
「涼太く~ん、私たちと一緒に寝る~?」
「なにを馬鹿なことを言ってるんだ」
サクラからのアホな発言を一刀両断にしてやったわけだが、そのアホな発言をした相手はなおもニヤニヤしながら口を開く。
「えー? 涼太くんは琴美ちゃんと一緒に寝たくないの~?」
「えっ!?」
その言葉に声を上げたのは琴美だった。
いやまあ、突然そんなことを言われれば声の一つも上げるよな。
「ば、馬鹿なことを言ってじゃないよ!」
「ええー、私そんなに変な質問した~? 涼太くんは琴美ちゃんと一緒に寝たくないの~?」
くだらない小理屈を言いながら詰め寄ってくるサクラ。
サクラに釘を刺す前に起こってしまったこの事態。いつもながら回避し辛い話題を振りやがって。
「だ、誰もそんなこと言ってないだろ……」
「じゃあ一緒に寝たいんだね? 琴美ちゃんと」
サクラはニヤニヤしながら更に問い詰めてくる。
「いや、そりゃまあ……どちらかと言われたら一緒に寝たいけど――」
「えっ? 涼くん、私と一緒に寝たいの?」
視線を琴美に向けると凄まじいほどに顔を紅くしていた。
琴美は布団の上で女の子座りをしたまま、両手の人差し指の先をツンツンと当てながら上目遣いでこちらを見ている。
「えっ!? い、いやあの、その……」
い、いかん、これはどう答えるのが正解なんだろうか。
ここは正直に『一緒に寝たい』と言うべきなのか……それとも冗談めかして、『なに言ってんだよ、子供じゃあるまいし』――みたいな誤魔化し方をするべきなのか。くそー、リアル人生でもクイックセーブができたらどれだけいいか。
「あ~、えっと……」
「あっ、涼太くんここに居たんだね。お風呂空いたよ」
お風呂に行っていた拓海さんが髪の毛をタオルで拭きながらリビングに顔を出した。
なんという神タイミングだろう。この場から退散するなら今をおいて他にない。
「じゃ、じゃあ俺はお風呂に入ってくるから!」
「あ――っ! 逃げた――――!」
背後から聞こえるサクラの声を無視し、風呂場へとダッシュする。
やれやれ……これはもう、今日はリビングに近寄れないな。
そういえばパーティーの前も気になっていたが、今日は猫の小雪の姿を見ていない。用意していた餌はさっき確認した時には手をつけられた様子はなかった。
餌も食べずに寝ているのかは分からないけど、前に病気を患ったことを考えると心配にもなる。
「お風呂上がりに捜してみるか」
そしてササッとお風呂に入ったあと、俺はみんなに気取られないようにしながら猫の小雪捜索を始めた。




