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妹たちに再びおちょくられました。

 ある程度鍋をつついたあと、ようやくクリスマスのお楽しみとも言うべきケーキの登場となる。

 しかし残念ながら、サクラに取りに行ってもらったケーキは持って帰る途中のハプニングで見るも無残な姿になってしまっていた。その無残な姿となったケーキを見た一同が苦笑いを浮かべる中、そのケーキの末路を一番悲しんでいたのはプリムラちゃんだった。


「ケーキが……甘くて美味しいケーキが……隊長のせいでこんな姿に…………」

「だ、だからさっきから悪かったって言ってるでしょう」


 甘いもの好きのプリムラちゃんは特にケーキが好きなようで、その無残な姿に悲しみの涙を流しながらサクラをずっと責め続けている。

 そしてこんな感じのやりとりが、先ほどからほぼエンドレスに近い状態で続いているわけだ。


「ほ、ほらプリムラちゃん、私の作ったケーキもあるから」


 そう言って琴美は昨日から一生懸命に作っていたイチゴのムースケーキとチョコレートケーキ、そして定番の生クリームたっぷりのホワイトケーキをテーブルの上に出してきた。


「わあー! ケーキがたくさん!」


 目の前に並べられたケーキを見た途端、その瞳を輝かせながら満面の笑みと共に恍惚の表情になるプリムラちゃん。


「助かったよー、琴美ちゃ~ん」

「い、いえ」


 プリムラちゃんからの責め苦を受けていたサクラが、そこから解放してくれた琴美に抱きついてお礼を言っていた。

 琴美は少し困ったような苦笑いを浮かべながら、サクラの抱擁ほうようを受けている。まあなんにせよ、これで一つの騒動が収まったんだから良しとしよう――。




「じゃあ、切り分けますね」


 サクラの抱擁から解放されたあと、琴美は台所から一つの道具を持って来た。


「琴美お姉ちゃん、これなーに?」


 明日香が興味津々に琴美が持って来た道具への興味を示した。見た限りだとケーキを切り分ける道具のようだが。


「これはね、トルテカッターって言うの。これをこうして――」


 俺たちは物珍しそうにして琴美の行動を見守る。どうやら8等分のショートケーキが綺麗にできるようにするための道具らしい。

 琴美はトルテカッターでホールケーキの上面に筋をつけると、ケーキの直径よりやや長めのナイフを持って来た。

 そして更にお湯の入った容器とペーパータオルを持って来てからケーキを切り始める。


「へえー、随分綺麗に切れるもんだな」

「でしょ?」


 琴美はケーキを切り分けながら笑顔でそう言う。俺がケーキを切ると必ず切った断面が粗くなって見栄えが悪くなるんだが、琴美が切ったケーキの切り口は非常に滑らかで綺麗だ。


「なんでこんなに綺麗に切れるんですか?」


 由梨ちゃんの質問に全員がその答えを欲するようにして琴美へと注目した。


「まずはね、ケーキをしっかりと冷蔵庫で冷やしておくことが大事なの。そうすることでクリームがしっかりと固まって、ナイフにべたつかないから」


 そう言ってから1回ケーキを切ったナイフをペーパータオルで拭いて再びお湯に浸ける。


「お湯にナイフを浸けるのは、切り口のクリームが溶けて滑らかになるからよ。こうしてナイフについたお湯を拭いてから、刃を真っ直ぐにあてがって切っていく。これを一度切る度に繰り返すの。ちなみにナイフの刃は薄い方がいいからね?」


 琴美はそうやって非常に丁寧に説明してくれる。きっとケーキ屋さんもこんな風に手間をかけて綺麗に切っているんだろう。


「琴美お姉ちゃん、私もやってみていい?」

「うん、いいよ」


 そう言って明日香も琴美がしていたようにしてケーキを切り分け始める。


「――どうかな?」

「上手上手! 綺麗に切れてるよ」


 琴美が手の平をパチパチと叩いて褒める。それを見た明日香は喜びながら俺の方を見てVサインを送ってきた。

 その姿に俺は右手の親指をグッと立ててから前に突き出す。


「あ、あの、私もやってみていいですか?」


 その様子を見ていた由梨ちゃんが、恐る恐る琴美にそう言ってきた。

 最初は引っ込み思案に感じていた由梨ちゃんだったが、それは俺の思い込みでしかなかったようだ。由梨ちゃんもこれでかなり色々なことに興味を持つ方らしく、色々なことに挑戦しようという気概きがいが見てとれる。

 琴美にもう一度やり方を聞きながらカッティングに挑戦している由梨ちゃんを、拓海さんは微笑ましそうにしながら見ていた。


「――んんー、美味しいー! 幸せです~」


 全部のケーキを切り終えたあと、待ちきれないと言わんばかりにプリムラちゃんがケーキをパクッと食べて幸せそうな声を漏らす。いつもの物静かで冷静な感じのキャラは見る影もない。


「本当に美味しい。さすがは琴美お姉ちゃんだよね」

「ありがとう、明日香ちゃん」


 そんな絶賛の言葉に、にこにことしながら御礼を言う琴美。みんながケーキを食べる時の笑顔を見ていれば、それだけでその美味しさが伝わってくるってもんだ。


「ホントに美味しいよ、琴美ちゃん。将来結婚する旦那さんが羨ましいよ。そう思わないかい? 涼太くん」

「えっ!? ええ、そうですね」

「涼くんはケーキ好き?」

「う、うん、好きだよ」

「じゃあもっとレパートリーを増やさないとね」


 琴美は顔を紅くしながら小さな声でそう呟いた。

 それってつまり、俺のためにケーキを作ってくれるってことなんだろうか……。


「ヒューヒュー! お熱いねっ! ご両人!」


 それを見聞きしていたサクラが、ここぞとばかりに俺と琴美をはやし立ててくる。


「ちょっ!? 止めろよなサクラ!」


 少し大きな声でそう抗議するが、サクラはそんな俺を見てますます調子づいてくる。


「もー、そんなに顔を紅くしながら抵抗しても説得力がないぞ~」

「ぐっ……」


 サクラはニヤニヤしながら俺の頬をツンツンと突いてくる。

 そしてそんな風にいじられている俺を、プリムラちゃんと小雪ちゃん以外が同じくニヤニヤしながら見ていた。


「涼太くんは幸せ者だね、いや~羨ましいよ。なっ、由梨」

「本当ですね」


 今度は拓海さんと由梨ちゃんの兄妹コンビが攻め込んできた。


「あ、明日香からもなんとか言ってやってくれよ」


 俺は情けなくも妹に助けを求める。なんとか早くこの状況を打破したかったからだ。


「私もお兄ちゃんが琴美お姉ちゃんをどう思っているのか知りたいかな~」


 期待空振り、我が妹まで敵となってしまった。


「どどどどう思っているって、どどどどういうことさ!?」


 明日香のそんな問いかけに対し、俺は完全に冷静さを失っていた。


「それは決まってるじゃないか、涼太くんが琴美ちゃんのことを好きか――」

「だあ――――っ! それ以上は言わないで下さいっ!」


 拓海さんが言おうとしていた言葉を全力で遮る。


「あはは、ごめんごめん。でもほら、あっちは涼太くんの返答を期待しているみたいだよ?」


 そう言って親指をクイクイッとある方向に向ける拓海さん。その方向へ視線を向けると、そこには顔を紅くしながら俺を見つめる琴美の姿。


「か、勘弁してくれ――――!」


 せっかくのクリスマスイヴだと言うのに、みんなに囲まれてもてあそばれる。そんな悲しき定めの俺の叫びが、明るい雰囲気の部屋の中に響き渡っていた。

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