妹とソワソワしながら待っていました。
買い物から帰った俺たちは、荷物をリビングに置いてから隣の家へと向かった。今日のパーティーで出す料理を作っている琴美の手伝いをするためだ。
しかし琴美は前々から仕込みなどを念入りにしていたらしく、俺と明日香が料理に関して手伝いをする必要はほとんどなかった。その代わりに料理を俺の家へと運ぶ役割があったのだから、手伝いに行ったこと自体は無駄ではなかったけどな。
「サクラのやつ、ちゃんと取りに行ってるんだろうな……」
買い物から帰って来た時、家にはまだサクラの姿はなかった。
実は明日香と買い物へ行く前、サクラには今日のパーティーで食べるために予約をしていたケーキを取りに行く役割を任せていた。
正確に言うと任せたと言うよりは、サクラが『私が取りに行ってくる』と申し出たからそうしてもらったわけだが……それにしても帰りが遅すぎる。
予約を入れていたケーキ屋さんまでは、家から歩いても片道20分ほど。サクラは俺たちよりも先に家を出ていたので、さすがに帰って来ていないとおかしい。
でもまあ、サクラに任せたからには仕方がないから、とりあえず待つしかないだろう。
そういえばサクラがまだ帰って来ていないのも気にかかるが、さっきから小雪の姿が見えないのも気にかかる。
まあ小雪が自分で家の鍵を開けて外に出るなんてことはないし、おそらくどこかで寝ているんだと思う。ともあれ、パーティーが始まって騒がしくなればその内に姿を現すだろう。
× × × ×
陽が傾き夕陽に変わって沈みつつある午後4時過ぎ。
出来上がった料理を俺の家へと運んでテーブルに並べる作業も終わり、いよいよみんなが来るのを待つだけとなっていた。
「みんな早く来ないかな~」
明日香は先ほどから落ち着きなくリビングをウロウロしている。よほど楽しみでしょうがないのだろう。かく言う俺も、明日香のことをどうこう言えないくらいにさっきからソワソワしているけどな。
「涼くんも明日香ちゃんも、パーティーがよっぽど楽しみなんだね」
「あっ、いやー、まあそれなりにね」
琴美の言葉に苦笑いを浮かべつつそう答える。
いやほら、俺もこういったことは初めてだし、みんなでパーティーとかちょっとテンション上がるじゃないか。
「ただいま~」
そんなやり取りを交わしていると、玄関からサクラの声が聞こえてきた。
「おっ、サクラが帰って来たみたいだな」
「サクラさんて、前にハンバーガーショップで会った人だよね?」
「そうそう、騒がしい親戚のお姉さんだよ」
一応琴美には親戚だと言っている手前、それを忘れないようにしないといけない。
琴美にそう言ったあと、俺は急いで玄関へと向かった。
「遅かったなー、サクラ」
「あっ……ご、ごめんね、涼太くん」
俺を目の前にしたサクラはどこか慌てたようにそう答えた。そんな不自然な態度を見ていると、なんだか激しく嫌な予感がしてくる。
そういえばサクラは手ぶらだが、ケーキはどうしたんだろうか。
「ところでサクラ、頼んでおいたケーキはどうしたんだ?」
「えっ!? そ、それは……」
その言葉を聞いて更に慌てふためきだすサクラ。ますますもって怪しい。
「サクラ、なにを隠してるんだ?」
「な、なにも隠してなんかいないよ!?」
ろくに吹けもしない口笛を吹こうとしながら、白々しくそっぽを向くサクラ。
こうなってくると、なにかを隠しているのは疑いようもなくなってくる。そういえばさっきから自分の背後をやたらと気にしているようだが……。
そんな挙動を怪しく感じた俺は、サクラへと近づいてその背後を覗こうとした。
「あっ!? ちょ、ちょっと待って!」
そんなサクラの静止を無視し、後ろを素早く覗き込む。
「へっ?」
覗き込んだサクラの背後には、銀髪のショートボブのハーフっぽい可愛らしい女の子が居た。見た目で年齢を推測するなら、7歳から9歳くらいと言ったところだろうか。
「サクラ、この子は?」
「えっと、それはその……」
視線を宙へと泳がせながら、歯切れ悪く『あの、その……』と繰り返すサクラ。
まさか可愛いからって誘拐してきたんじゃ……いや、さすがにそれはないよな。
などと思いつつも、プリムラちゃんに対する態度などを知っている俺はその可能性を完全に否定できないでいた。
「……サクラ、一応言っておくけど、誘拐は犯罪だからな?」
「し、知ってるわよ! そんなことするわけないでしょっ!」
その言葉を即座に否定するサクラ。どうやら本当に誘拐して来たわけではなさそうだ。
そう思いながらサクラの後ろに居る女の子を見ると、きょとんとした表情でこちらをじっと見ていた。
随分と大人しい子だけど、明日香のお友達なのだろうか。
「お兄ちゃ~ん。どうかしたの? あっ! 可愛い子だね! サクラのお友達?」
廊下に出て来た明日香はその女の子を見るなりトテトテと小走りでこちらへと向かって来た。
「可愛い~、お名前はなんて言うの?」
女の子は頭を撫でられながら明日香をじっと見つめると、やがてにっこりと笑顔を見せてこう言った。
「私は冬白小雪」
「へえ~、小雪ちゃんかあ。可愛い名前だね」
「うん! 私もこの名前好き!」
にこやかにそう答える小雪ちゃん。妙に明日香に対して懐っこい感じを受ける。
「ところでサクラ、小雪ちゃんはお前の知り合いなのか?」
「うーん、まあね」
なにやら訳有りと言った感じでそう答えるサクラ。よく分からない状況ではあるけど、今は詳しく聞かないでおいてやろう。
「そっか、サクラの友達ってことだな。小雪ちゃん、これからクリスマスパーティーをするんだけど、一緒にやるかい?」
「うん! 小雪、お兄ちゃんたちと一緒にパーティーする!」
元気良くそう答える小雪ちゃん。その笑顔はとても可愛らしく、俺もお兄ちゃんと呼ばれたことで明日香以外に妹がもう1人増えたような錯覚さえ覚える。
「よし。じゃあ明日香、小雪ちゃんをリビングに案内してあげてくれ」
「うん。小雪ちゃん、一緒に行こう」
そう言って明日香が右手を差し出すと、小雪ちゃんは嬉しそうにその手を握ってから一緒にリビングへと向かって行った。
「可愛いもんだな」
「ごめんね、涼太くん」
「いいさ、人数は多い方が楽しいだろうし。でも、あとでちゃんと説明はしてくれよ?」
「うん、分かった」
そう言いながらほっとした表情を浮かべるサクラ。
しかしほっとしているところを悪いが、俺にはもう一つ重大なことをサクラに問わなければならない。
「ところでサクラ。小雪ちゃんの件はあとでいいとして、ケーキはどうしたんだケーキは?」
「えっ!? え、えっとね、実は……」
サクラは気まずそうな表情をしてから玄関の扉を開き、俺を手招きする。どうやら外に出て来いということらしい。
「なんだよいったい」
「あの……アレ……」
とりあえずサクラに招かれるままに外へと出る。
そして少し怪訝にそう聞いた俺を見ながら、サクラは玄関先に止めてある自転車の方を指差す。そこには自転車のカゴに乗っかっているケーキの箱があった。
「なんだ、ちゃんと取って来てるじゃないか」
そう言いながらケーキの箱の取っ手部分を掴んで持ち上げると、妙な違和感があった。その違和感とは、ちゃんと真っ直ぐ持っているはずの箱が妙に傾いているということだ。
なんだろうと思いつつ、再び箱を自転車のカゴの上へと乗せてから箱の中身を覗き見る。
「なっ、なんじゃこりゃ――――!?」
箱の中を見て驚愕する俺の叫びが、茜色に染まりつつある住宅街に響き渡った。




