妹と買い物に行きました。
文化祭も無事に終わって12月に入り、あとはいつものように年が明けるのを待つだけ――えっ? クリスマスはどうしたのかって? 俺にとってのクリスマスってのは、お家でのんびりとゲームの美少女たちと過ごす日なんだ。
べ、別に寂しくなんてないぞ? たくさんの女の子とイチャラブできるんだから、楽しいことこの上ないじゃないか。
「お兄ちゃん、飾りつけは終わった?」
「おう、もう少しで終わるぞ」
冬にしては珍しく、太陽の光が眩しくも暖かく感じる午前9時頃。リビングの壁にクリスマス特有の飾りつけを施していた俺は、明日香の問いかけにノリノリでそう答えた。
作業の手を止めていた明日香はそんな俺を見てにっこり微笑んだあと、再び飾りつけを再開する。
ん? クリスマスは1人で美少女ゲーをする日じゃないのかって? 確かに去年までの俺なら迷うことなくそれを実行していただろう。
じゃあなんで今年はそんなに浮かれてクリスマスの準備をしているのかと言えば――それはほら、去年までは1人だったからそれができたけど、妹が居るのに部屋に引き篭もって美少女ゲーとかしてたら明日香に悪いだろ。
それに明日香にとっては初めてのクリスマスだし、楽しませてあげたいと思うのが兄心ってもんだ。それに今回、俺にはどうしても一つやりたいことがあった。
頭の中に居る108人の脳内友達とそんなくだらない会話を交わしながら、俺は飾りつけを続行する。
今日は12月24日、クリスマスイヴ。人によっては強く記憶に残るであろう特別な日。去年までの俺なら、クリスマスなど普通の日となんら変わらないものだった。
しかし明日香と出会ったことで俺の日常は劇的に変化した。
「みんなとクリスマスなんてわくわくするなあ。ねえ、お兄ちゃん」
「そうだな、楽しいクリスマスにしような」
「うん!」
満面の笑顔を浮かべて元気に返事をする明日香を見ながら、更に気合を入れて飾りつけをしていく。俺がここまで気合を入れている理由、それは明日香の生前に関係している。
俺は以前、サクラの力によって明日香の生前を目の当りにしてきた。そのほんの一部を見て来ただけとは言え、その人生はお世辞にも幸せだったとは思えない。
生前の明日香はクリスマスイヴの夜、寒空の下の公園でその生涯を閉じた。言ってみれば今日は生前の明日香の命日のようなもの。
だけど明日香はそれを知らない、むしろそれを知られてはいけない。今の明日香が今の明日香であるために。
まあ結局のところ、俺は明日香にクリスマスパーティーを思いっきり楽しんでほしいだけだ。
それにこのクリスマスパーティーでは、ささやかながら生前の明日香の望みを叶えてあげたいと思っている。
「――おっし! できた!」
「私も終わったよ!」
ご近所に住んでいる老夫婦から頂いた、高さ180センチほどのクリスマスツリー。
そのツリーを飾りつけするため、椅子に乗って楽しそうに飾りつけをしていた明日香が満足そうに頷く。
「おー、凄いじゃないか! 綺麗に飾りつけできてるな」
「えへへっ」
その言葉に明日香は嬉しそうにしつつも、少し照れたような表情を浮かべる。
「よし、じゃあツリーにも電飾を飾っていくか」
俺はリビングの床に置いていたツリーの飾りつけ用電飾を、渦巻状にしてツリーへ取りつけていく。
「――う~ん……こんなんでいいのかな?」
ツリーに取りつけた電飾を見ながら腕組をする。なんとなくだが、自分のイメージした感じと違ったからだ。
「お兄ちゃん、電気を入れてみたらいいんじゃないかな?」
「言われてみればそうだな。よし、そうするか」
電飾のプラグを近くのコンセントに差し込み、ツリーから延びる電飾のスイッチを入れた。
「わあー、きれーい!」
「おお、こうして見ると結構雰囲気良いな」
クリスマスツリーに飾った電飾は、赤・青・緑・黄色と様々に色を変えながら点滅し、その光はラメ入りの飾りに当たってキラキラと反射している。
スイッチを入れるまではイメージと違う気がしたけど、こうして見ると違和感はない。明日香の言うとおりライトアップしてみて正解だった。
「バッチリだね! お兄ちゃん」
クリスマスツリーを遠目に眺めていた俺に向かい、明日香は右手を真っ直ぐ前に突き出してから親指を立てる。
「そうだろ?」
それを見た俺はちょっとしたドヤ顔を浮かべながら同じように右手を前へと突き出して親指を立てた。その姿を見てどちらからともなく笑い始める。
そんな和やかで楽しい雰囲気の中で作業は進み、なんとかお昼までには飾りつけを終えることができた。
× × × ×
軽く昼食を済ませたあと、俺たちは今日のプレゼント交換会に出す品物を買うために一駅離れたデパートへと向かった。
「プレゼントかあ、なににすればいいのかな……」
クリスマスパーティーをやると決めてから今日までの間、明日香はずっとプレゼントのことで悩んでいた。本当ならパーティの前にプレゼントなどは揃えておくべきだろうけど、考えが纏まらない明日香のため、ギリギリまで買いに行くのを待っていたのだ。
パーティの開催を決めてから2週間。それでも明日香の考えは纏まらなかったらしく、電車に揺られているこの瞬間も、こうして口癖のようにそう呟いている。
俺もこうしたパーティーをするのは初めての経験だから偉そうなことを言えたもんじゃないけど、明日香には自分がこれを貰ったら嬉しいと思うものでいいんじゃないか――ということだけは伝えておいた。
しかしその発言が更に明日香を迷わせることになったらしく、今日までプレゼントを用意できなかった原因の一つとなったのは間違いないだろう。
まあせっかくのパーティーなのだから、悩めるだけ悩んでみるってのも悪くはないと思う。なぜならこうして悩んでいる時間でさえ、あとになれば楽しかったと思えるだろうから。
「――じゃあ、ここからは別行動だね」
デパートへと着いた俺たちは、さっそく目的のプレゼントを買うための行動を起こそうとしていた。
「そうだな、とりあえず1時間後には決まらなくてもここに集合だぞ?」
「うん、じゃあ色々と見て来るね」
そう言って手を軽く振りながら、明日香はエントランスホールを離れてエスカレーターの方へと向かって行った。
何度か明日香とこうしてデパートへ買い物に来たことはあったけど、こうした高層の建物で買い物をする際には、必ず一番上の階まで行ってから順に下の階へ店を見て行くのが我が妹の恒例買い物パターンとなっている。
ちなみに俺は見て回る順番などに特別なこだわりはない。
「さて、俺も行くか」
小さくそう呟いたあと、俺はエントランスホールにあるお店の位置を示した案内板を見に歩いた。
地下一階から八階まであるこのデパート。集合時間を1時間後と定めてはいるけど、正直、じっくり見て回ろうと思うなら1時間程度では足りない。
でも明日香はそのあたりもちゃんと考えているだろうから、俺もそこそこに見当をつけて店を回る必要がある。
案内板を見ながらいくつか見て回る候補の店を選び、そのまま明日香と同じようにエスカレーターへと乗って候補の店へと向かう。
地下一階と一階は食料品関係のフロアになっているので最初っから除外、俺は雑貨店などが集中している四階部分を中心に見て回ることにした――。
「こんなものかな」
いくつか候補の店を回ったあとで最終的に決めた品を買った俺は、エントランスホールへと戻りながらプレゼント用に包んでもらった品を見て満足していた。
「――あっ、お兄ちゃん」
「おっ、待たせちゃったか?」
「ううん、私もついさっき戻ったところだから」
「そっか。で、プレゼントはなにを買ったんだ?」
「ん? えっとね、あっ!? 中身はパーティーまで内緒だもん」
ついつい中身をばらしてしまいそうになったことに気づき、明日香は慌てて持っていた箱を抱き包むようにしてから口を噤む。そんな仕草がなんとも可愛らしい。
「そっかそっか。じゃあ帰ったら、琴美の手伝に行こうか」
「うん!」
2人でプレゼントを抱えてデパートを出る。そのまま今日開催するパーティーの話をあれやこれやとしながら、楽しく自宅へと戻るのだった。




