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小さな妖精に出会いました。

 怪しげな行動を見せるサクラに気づかれないようにあとをつけていた俺たち4人は、つけた先でサクラが入った出店に気づかれないように入店。

 サクラの視線に入らない位置の席に陣取り、メニュー表で顔を隠しながら様子を見ていた。


「ねえ、お兄ちゃん。サクラはなにしてるのかな?」

「さあ? でも、誰かのあとをつけているように見えたけどな」


 室内に長机を並べたこの店は俺のクラスと同じく喫茶店をやっているらしく、お昼時を過ぎたのにまだまだ多くのお客さんで賑わっていた。

 少し縦長の教室に並べられた長机は、教壇きょうだんがある方から縦方向に4列、横に6列配置されていて、ちょうどペアだと向き合って喋れるような感じになっている。

 俺たちは一番廊下側の最後方でサクラに背を向ける形で座ってから適当に飲み物を注文し、時折メニュー表で顔を隠しながらそっとサクラが居る方を覗き見ていた。

 サクラは校庭側から数えて3列目の真ん中辺りの席に廊下側を向いて座っており、そこで俺たちと同じようにメニューで顔を覆うようにしながら廊下側の席を見ているようだった。


「なにを見てるんだろう? サクラのやつ」

「あそこに座っている子を見ている感じがするけどね」


 同じようにメニュー表で顔を隠しながら様子を見ていた拓海さんが、俺の呟きに対してある方を小さく指差しながらそう言ってきた。

 その指差された方を見ると、ゲームなんかに出てくる魔法使いが被っているような、黒のとんがり帽子に黒のローブといった格好をしている人物の姿があった。その人物は廊下側から数えて2列目の一番先頭の席に座っている。

 机の上に置かれている可愛らしい猫マークがついた入れ物を見る限り、女の子だろうと思う。

 それにしても、遠目で見ても分かるほどに背が低い。座っている椅子から覗く足はプラプラと前後に揺れていて、まったく地に着いていない。


「随分と幼い子に見えますね」

「そうだね……見た目で言えば小学校1年生か2年生くらいってところかな?」


 俺の言葉に拓海さんがそう答える。上背を見れば拓海さんの予測は非常に正確なものだと言えるだろう。

 それにしても、時折見えるサクラの表情はどこかニヤニヤしていて不気味だ。

 しかしあとをつけていたのがあの子だとして、サクラがあんな小さな子をつけ回す理由はなんだろうか。

 ま、まさかアイツ、実はロリコンなのだろうか……だから好みの幼女を見つけてあとをつけ回しているとか? ああいや……いくらなんでもそれは考え過ぎだろう。そうだよな、いくらサクラが変なやつだとは言っても、そんなことはないよな。ハハハッ……。

 そんなことを思いつつも、その考えのすべてを否定できない自分が居た。


「あっ、お兄ちゃん、サクラが移動するみたいだよ」

「よし、俺たちも行くか」

「ここの支払いはしておくから、涼太くんたちはサクラさんの方を頼むよ」

「了解しました」


 みんな探偵の真似事のようなことをしているせいか、妙な連帯感でサクラの追跡を続行する。

 それにしても、あの拓海さんまでもがこの追跡を楽しんでいるように見えるが、案外拓海さんもこういったノリには乗っかる方なのかもしれない。

 ちょっと意外な感じはするけど、俺もこの雰囲気に飲まれてわくわくしているんだから人のことは言えないけどな。

 それから約30分ほどサクラの追跡を続けた結果、やはり例の黒とんがり帽子の女の子を追いかけているのは間違いないという結論に俺たちは至った。


「――そろそろサクラさんに声をかけてもいいんじゃないかな?」

「そうですね、これ以上観察をしてもなにも分かりそうにないですし」


 拓海さんの言葉を聞き、俺はそう言ってから席を立った。

 なぜか喫茶店ばかりに入ることになって3件目、やはり黒とんがり帽子の女の子を見ているだけのサクラに対し、俺はいよいよ接触をしてみることにした。


「サクラ」

「ひゃうっ!?」


 近づいて声をかけると、サクラは目的の相手に集中していたからか、ビクッと身体を跳ねさせて驚いた。


「な、な~んだ……涼太くんか。ビックリしたなあ」


 サクラは小声でそう言いながら、右手を胸の位置に持ってきてふうっ――と溜息を漏らす。


「なにやってんだ? こんな所で」

「ああー、それはね……」


 サクラは視線をあちこちに泳がせながら、言葉を選んでいるように見えた。

 その様子から俺が感じたことを素直に言うとしたら、“どう誤魔化そうかを考えている”――と言ったところだろうか。


「どうしたんだよ」

「ちょ、ちょっと待ってよ、涼太くん。今考えをまとめてるんだから」


 考えをまとめてるって……それってもう、ほとんど誤魔化そうとしているってことを暴露してるようなもんじゃないだろうか。


「――た、隊長!? こんな所でなにしてるんですか!?」


 慌てふためくサクラに対していぶかしげな視線を送っていると、少し離れた場所から高く可愛らしい声が聞こえてきた。


「あっ! しまった!」


 その声に気づいたサクラがパッと片手で口を塞ぎ、もう片方の手でメニュー表を掴んでから顔を隠す。

 俺が声がした方を見ると、例の黒とんがり帽子の女の子が驚いた表情をしてこちらを見ていた。


「なあサクラ、あの子は知り合いなのか?」

「ワ、ワタシハ、サクラデハアリマセン……」


 急に機械音声のような発音で話し出すサクラ。

 いったいなにをやってるんだコイツは……。

 その様を見たあとで俺が再び女の子の方を振り向くと、黒とんがり帽子の女の子は少し怖い顔をしながらこちらへと歩いて来ていた。


「隊長ですよね?」


 顔を隠すサクラの前へとやって来たその女の子は、少し威圧感のある声でそう尋ねてきた。


「ワ、ワタシハサクラデハア~リマセ~ン」

「なんだそのエセ外人のような喋り方は」


 思わずサクラに対してそう言うと、こちらに顔を向けて口元に人差し指を当て、シーッと言ってくる。

 どうやらこの女の子と遭遇するのがマズイようだが、既に目の前まで来ている以上、誤魔化すのは不可能だろう。


「もうっ! いい加減にして下さい!」

「あっ!?」


 そう言ってメニュー表で顔を隠しているサクラからメニュー表を取り上げる女の子。


「やっぱりサクラ隊長じゃないですか……」

「えへへっ」


 わざとらしいサクラのにこやかな笑顔、それに対し更に表情を曇らせる女の子。


「なにしてるんですか? こんな所で」

「えーっと……それはね~」

「確か今日は天界で大事な報告会があるって言ってたじゃないですか」

「そ、それはそうなんだけどね」

「サクラ、この子は知り合いなのか?」

「あっ、涼太くんは会うの初めてなんだっけ? この子はね、私の妹みたいな子で、私の部下なの。名前は――」

「あれ? やっぱりプリムラちゃんだ」


 サクラが名前を言おうとした瞬間、後ろから由梨ちゃんの声が聞こえてきた。


「なんだか揉めてるように見えたから来てみたんだけど、本当にプリムラちゃんだったんだ」

「あっ、由梨さんに拓海さん……」


 2人にプリムラと言われた女の子は、少し恥ずかしそうにして顔を俯かせた。

 なるほど、この子が明日香が言っていた由梨ちゃんたち側の天生神か。話に聞いていたとおりに可愛らしい子だな。


「誘った時は来ないって言ってたのに、どうしたの? プリムラちゃん」

「そ、それはその……」

「プリムラは甘いものには目がないから、おおかた文化祭のパンフレットでも見て喫茶店に出るケーキに興味でも湧いたんでしょ~」

「ううっ……」


 サクラの言葉はどうやら図星だったらしく、プリムラちゃんは顔を真っ赤にして更に顔を俯かせた。その様はなんとも可愛らしく、思わず撫でたくなる。


「そうだったんだ。それならそうと言ってくれたら良かったのに」

「だ、誰もそんなこと言ってないです! 勘違いしないで下さい!」


 拓海さんが微笑みながらそう言うと、プリムラちゃんは慌てた様子でそう否定してきた。


「た、隊長も隊長です! 私が甘いものが好きだなんて嘘をつかないで下さい!」

「ええー! だってプリムラ、天界ではよくケーキの食べ歩きしてたじゃない」

「そ、それは昔の話じゃないですか!」

「も~、そんなに隠すことじゃないじゃない。でもそんなところも可愛いんだけどねえ」

「ちょ、ちょっと隊長!? や、止めて下さい!」


 サクラはプリムラちゃんを抱きしめ、身体のあちこちをヨシヨシと撫で始めた。


「やっ、そんなところを撫でないで下さい……」

「プリムラは本当に反応がいいな~。つい苛めたくなっちゃう。ホレホレ、ここがええのんか~?」

「きゃっ!」


 俺たち4人が見ている前でプリムラちゃんを抱き締めながらセクハラ行為を繰り返すサクラ。その表情はどこまでも恍惚こうこつを浮かべていて、もはや止めようがない。

 そんなサクラのセクハラを受けながら、プリムラちゃんは顔を紅くして悶えていた。


「ここはど~お~?」

「い、いやっ、た、助けて……」


 そんな2人のやり取りを苦笑いで見つめる拓海さんと由梨ちゃん。明日香はそれを微笑ましそうに見ている。

 俺はこの状況にどのタイミングで介入すればいいのか分からず、サクラのセクハラが終わるまでの間、その様子をじっと見ているしかなかった。

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