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妹たちとケーキを食べました。

 お昼時の学園内は、文化祭において一番来客数が増える時間帯だ。現に俺たちのクラスが出店している喫茶店も中は満席状態で、廊下で順番待ちをしているお客さんもたくさん居る。

 そんなお客さんの列に明日香たちと一緒に並び、順番が来るのを待つ。


「あっ、琴美お姉ちゃんが居た!」

「琴美さん、可愛いですよね。ねっ、兄さん」

「どれどれ――おっ、確かに良く似合ってるね。そう思わないかい? 涼太くん」

「そ、そうですね、可愛いと思います……」


 廊下側の透明な窓ガラス越しに見える教室内、そこに居る琴美を見て3人は口々にそう言葉を発する。

 しかし拓海さんの物言いは少し意地悪なもので、微笑みながら俺を横目で見ていた。おそらく俺からどんな返答がくるのかを楽しんでいるのだと思う。

 それが証拠に拓海さんは、俺の返答を聞いて『そうだよね』と言って満足げにしていたからだ。

 どうも最近、琴美をネタにいじられることが多くなった。なぜだろう……俺ってそんなに分かりやすく琴美への好意を見せてるんだろうか。

 自分の表情を常日頃から見るなんて不可能だから分からないけど、おそらく他人には分かりやすいくらいに琴美への好意を示しているんだろう。少し気を引き締めないとな。


「――次のお客様、店内へどうぞ」


 そんなことを考えている内に並んでいる列は相当に動いたらしく、いつの間にやら俺たちが先頭まで来ていた。

 教室の入口で入場するお客さんの数を調整しているクラスメイトが、にこやかな笑顔を浮かべて明日香たちに声をかけ、右手を空いてる席の方へと向けて移動を促す。

 そして4人で空いている椅子に座り、それぞれが注文する品を決めるためにメニュー表を見る。俺もじっくりとメニューの内容を見たことはなかったけど、こうして改めて見ると案外種類が豊富にあるもんだ。


「お兄ちゃん、どれにするか決めた?」


 右斜め前の椅子に座っている明日香はもう注文する品を決めたらしく、メニュー表をテーブルの上に置いてみんなが注文する品を決めるのを待っている。


「そうだな、俺はケーキセットAにしようかな」

「じゃあ、僕も涼太くんと同じものにしようかな。由梨は決まったかい?」

「う~ん……明日香ちゃんはどれにしたの?」


 どれにしようか随分と悩んでいるらしい由梨ちゃんは、メニュー表を片手に隣の席の明日香にそう尋ねた。


「私はね、このティラミスとアップルティーのセットにするよ」

「あっ、それも美味しそう……私もそれにしようかな」

「きっと美味しいと思うよ」

「うん、じゃあ明日香ちゃんと同じ物にするね」


 明日香の一押しを聞いてにこやかに頷く由梨ちゃん。

 全員の注文する品が決まったところで、俺はウエイトレスのクラスメイトを呼ぶために声を上げた。


「すいませーん」


 身体をウエイトレスをしているクラスメイトの居る方へと向け、右手を上げて注文をとってもらうために声をかける。

 そしてちょうどその時、琴美が他のお客さんのもとへ注文された品を持って行こうとするのが見えた。それを見た俺は、なんとなく残念なような良かったようなという、複雑な心境になってしまった。


「琴美ー!」


 その時だった。近くに居たクラスメイトの女子の1人が、こちらに来るわけでもなく琴美を呼び止めた。


「なあに?」


 注文品が乗ったトレイを持った琴美がその足を止め、呼び止めたクラスメイトの方へと振り返る。


「ふふふ、ほーら、あっちで琴美をご指名の人が居るから行っておいで」

「えっ? あっ……」


 あからさまにこちらへ聞こえるように、ニヤついた表情でそんなことを言うクラスメイト。琴美はその視線の先に俺たちが居るのを見て驚いた表情を見せたあと、少し紅くなった顔を俯かせた。


「ほーら! 早く行ってきなって!」


 そう言ってクラスメイトの女子は琴美が持っていたトレイを奪い取るようにして取り上げ、その品を注文をしたお客さんのもとへと向かって行った。

 そして琴美は戸惑いのような表情を見せながらも、ゆっくりとこちらへ近づいて来る。


「い、いらっしゃいませ」


 明日香たちにウエイトレス姿を見られるのが恥ずかしいのか、琴美は少しモジモジとしていた。


「琴美お姉ちゃん可愛い~」

「本当に可愛いです」

「本当だね、良く似合ってるよ。ねっ、涼太くん」

「は、はい……凄く似合ってると思います」


 一度は琴美に聞かせたその言葉を再び口にするのが恥ずかしく、周りに居る人たちには聞こえない程度の声量でそう答える。


「あ、ありがとう、涼くん」

「う、うん……」


 琴美からそんなお礼の言葉が聞こえると、なんとも言えないふわふわとした感覚が身体の中を巡った。それは心地良くもキュッと心臓が締まって苦しいような、そんな矛盾を幾重にも含む感覚。


「さあ、あとのお客さんも居ることだし、注文しようか」

「あっ、はい。ご注文をどうぞ」


 拓海さんの言葉に腰の両サイドにあるポケットの左側から注文表を取り出すと、左の胸元にあるポケットに挿してあるペンを右手に持つ琴美。

 そして俺たちの注文をサラサラと注文表に書き込むと、琴美はペコリとお辞儀をしてからケーキなどを保存している場所へと向かう。

 それから琴美が運んで来た注文品を食べ終わるまでの間、俺はなぜか近くを通るクラスメイトの女子たちの、妙にニヤついた視線を浴びせられることになった。

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