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妹と妖精が言い合いをしていました。

 飼い猫である小雪を動物病院に連れて行ってから、今日で3日目。

 俺は今日も学園から帰って来てから、小雪を連れて近場の動物病院へと向かっている。

 救急動物病院で聞いた話では、やはり小雪は猫風邪をひいていたらしく、最初の4日から5日は動物病院へと通院しながら様子を見るように――と、獣医さんから言われた。猫風邪ってのは相当しつこいらしく、症状の強さによっては完治まで2ヶ月以上かかる場合もあるらしい。

 とりあえず小雪が完治するまでにどれくらいかかるかは分からないけど、一刻も早く治るようにしてあげたいと思う。そうじゃないと、明日香も心配でしょうがないみたいだからな。


「頑張って早く治そうな、小雪」


 手に持っている猫カゴの出入口部分を自分の方へ向け、目線の位置まで持ち上げてから中に居る小雪に話しかける。


「にゃう~ん」


 うん、いつもながらいい返事だ。俺は小雪の返事に満足しながら腕を下ろす。

 やはり動物病院に早く連れて行ったのが良かったらしく、通院を始めてから2日目くらいには、いつもと変わらないくらいに元気な感じにはなっていた。

 しかし猫風邪のしつこさを考えると油断は禁物。

 それはさながら水虫の治療をするかのごとく、時間をかけて治療に挑まなければならない。ちなみに言っておくが、俺は水虫ではない。

 そして辿り着いた動物病院で小雪と一緒に診察の順番を大人しく待ちながら、俺は明日香のことを考えていた。

 小雪が病気になってからというもの、明日香はいつも以上に献身的けんしんてきな世話をしている。病気になる前もしっかりと世話をしていたけど、今は家にいる時はほぼつきっきりに近い状態だ。

 別にそれが悪いとは言わない。

 けれど少し度が過ぎるという感じはする。それが明日香なりの優しさであることは分かるが、俺としては心配だ。

 順番待ちをすること約10分。診察室へと呼ばれた俺は、小雪を連れて診察室へと入った。そこでいつもの注射をしてもらい、経過を診てもらう。

 そして獣医さんに小雪を見てもらったあと、前に貰っていた薬を1週間分貰ってから病院をあとにし、そのまま急いで家へと帰った。


× × × ×


「ただい――」

「そんなの嫌だよっ!」


 家へ帰ってから玄関を開けて中へと入り、ただいまと言おうとした瞬間、リビングの方から明日香の大きな声が聞こえてきた。

 何事かと思った俺は脱ぎかけの靴を雑に脱いでから急いで上がり、そのまま小雪が入ったカゴを抱えてリビングへと走る。


「お願い明日香、私の言うことを聞いて」


 リビングに近づいて行くと、そこからはサクラの声も聞こえてきた。その声音はサクラには珍しく緊迫したものだ。


「どうしたんだ?」


 リビングに入ってそう言うと、明日香とサクラが一斉にこっちに注目する。

 明日香は涙目でこちらを見つめ、サクラは少しだけ動揺しているかのような表情で視線をらした。


「な、なんでもないよ……」

「あっ、おいっ! サクラ!」


 2人に近づいて行こうとすると、サクラはそう言って壁を抜けて外へと出て行った。

 とりあえずなにがあったのか事情を聞こうとした俺は、まず小雪をカゴから出して薬を与え、寝床に座らせてからソファーに座って待っている明日香のもとへと向かう。


「――さっきはなにがあったんだ?」


 向かい側のソファーに座る明日香にホットココアが入ったカップを差し出しながらそう聞くと、明日香はそれを『ありがとう』と言って受け取った。

 そして一口、二口とカップに口をつけてココアを飲んだあと、静かに目前の木製テーブルにカップを置いて話を始めた。


「あのね、『小雪を他の誰かに飼ってもらえ』って言われたの」

「サクラにか?」


 その言葉に小さく頭を縦に振って応える。

 それを聞いた俺は、その話にかなりの違和感を覚えた。サクラは基本的に俺たちがやる行動に関しては、ほぼ不干渉という立場に徹しているからだ。

 アドバイス的なものや、個人の能力では限界がある物事で明日香のためになることなら手を貸してくれるが、やはり前提としてサクラが自分で言っていたとおり、基本的に見守りという立場を崩さない。

 そんなサクラが“猫を飼う”という、至って一般的にありふれている事柄についてわざわざ口出しをしてくるというのが、相当に違和感だった。


「他になにか言われたか?」

「うん、『明日香は小雪を飼ったらいけない』って言われたの」


 小雪を飼ったらいけない……か。

 以前に明日香が小雪の名前をつけた時にサクラが妙な反応をしていたことがあったけど、もしかしたらそれが関係しているんだろうか……。

 それにサクラの言葉を聞く限り、猫を飼うこと自体を反対しているのではなく、あくまでも“小雪を飼うことを良しとしていない”――という感じに聞こえる。


「分かった。あとでちょっとサクラと話してみるよ」

「うん……」


 俺としてもサクラの行動は非常に気にかかる。前に拓海さんからもたらされた話といい、今回のことといい、俺の知らない所でなにかが始まっている気がしてならない。

 そしてその日の夜。俺はいつものようにパソコンをつけてギャルゲーをしながら、サクラが戻って来るのを待った。

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