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妹と映画を楽しみました。

 ファミレスを出て映画館に戻った時には、上映開始時刻の15分前だった。

 俺は明日香がトイレへ行っている間にポップコーンと飲み物をあらかじめ買っておこうと売店の列に並んでいる。

 映画を見る時に食べる物と言えば、おそらくポテチ派かポップコーン派で分かれるのではないだろうか。ちなみに俺はポップコーン派だ。でも、別にポテチが嫌いなわけじゃない。

 ただポテチって、映画を見ている時に食べる物としては不向きだと思うんだ。袋に手を入れるとガサガサと音が出るし、食べるとバリバリ音が出るからな。

 映画の最中はスピーカーから館内に大きな音が出ているというのに、あれって近くでやられると凄く音が気になるんだ。

 そんなことを考えているうちに、俺の注文する番が目前へと迫っていた。掲示板に張りつけられているメニュー表を見ながら、あらかじめ注文する内容を決めていく。

 最近のポップコーンってのは味の種類が豊富で、はっきり言ってかなり迷うほどだ。

 だけど俺の頼む味は既に決まっている。ポップコーンはオーソドックスに塩味が一番。これだけは譲れない。

 問題は明日香の分だが、トイレが混んでいるのかまだ戻って来ない。こうなってくると、明日香の分をどうしようかと悩んでしまう。さすがに明日香の分まで俺の好みにつき合わせるのは可哀想だもんな。


「――うーん、仕方ないか」


 結局、俺の買う順番までに明日香が戻って来なかったので、仕方なくイチゴミルク味を選択した。おそらくここにあるメニューの中では、一番明日香が好みそうな感じがするからだ。


「あっ、飲み物はフルーツミックスを二つお願いします」


 食べ物同様、飲み物についても俺なりのこだわりがある。

 館内に持ち込む飲み物として、まず炭酸ジュースはお勧めしない。なぜなら炭酸はお腹を刺激し、トイレが近くなるからだ。それにゲップも出やすくなるしな。

 トイレが近くなると言う理由では、コーヒーや紅茶のたぐいもお勧めしない。

 そういった理由もあり、俺は映画を見る時にはフルーツミックス系などをチョイスしている。


「――お兄ちゃん、お待たせ」


 ポップコーンとドリンクを買い終わったちょうどその時、タイミング良く明日香が戻って来た。


「ちょうど良かった。はい、これ」


 俺の両手にはジュースの入ったふたつき紙コップと、持てずに腕で抱え込んでいるポップコーンが入った円柱状の容器がある。

 近づいて来た明日香の前で目線が合う位置までしゃがみ、持っていたジュースを先に差し出すと、明日香は興味津々にそれを受け取った。

 そして俺は空いた手でポップコーンの入った容器を掴み、それを明日香の空いている方の手へと差し出す。


「これ、持って入っていいの?」

「ああ、映画を見ながら食べような」

「うん!」


 気がつくと映画上映開始の2分前になっていて、明日香と慌てて指定席へと向かう。

 映画館は人によって落ち着いて見れるポジションがあると思うんだが、もちろん俺にもある。スクリーンを正面にした中央列、その中央よりやや後ろの席が望ましい。今回は運良くその周辺のチケットが取れたから良かった。

 中では本編開始前に流れる宣伝がスクリーンに映し出されている。こうなると、階段などにあるオレンジ色の小さな誘導灯だけが頼りだ。


足下あしもとに気をつけるんだぞ? 明日香」

「うん」


 後ろからついて来る明日香の方を向き、小声で話しかけた。

 明日香も俺と同じように小声で返事をする。

 俺も明日香も両手が塞がっているんだから、ここでつまずいて転んだりしたら大惨事になるからな。

 足下に細心の注意を払いながら明日香を誘導し、指定席へと辿り着く。

 それと同時に上映開始のブザーが鳴り始め、館内は本格的に暗くなった。


「やべっ、忘れてた」


 慌ててポケットの携帯を取り出して電源を切る。映画などを見る時の最低限のマナーだ。


「楽しみだね、お兄ちゃん」


 スクリーンから放たれる光で見える明日香は、期待と好奇心に満ち溢れた感じの表情をしている。

 ほどなくして映画が始まると、懐かしい登場人物たちがスクリーンの中に登場し始め、それを見た俺は、小さな頃に夢中になって見ていた時のことを思い出し、少しずつテンションが上がってきていた。

 俺は興奮と共に塩味のポップコーンを口の中へと放り込みながら、スクリーンに映る登場人物の動きを目で追っていく。


「――ああ、そっちに行っちゃダメ…………」


 映画も中盤へとさしかかった頃、チラリと横目で明日香を見ると、主人公たちのピンチを小声で必死に伝えようとしていた。これはこれで、見ていて微笑ましい。

 明日香も映画を楽しんでいることが分かるし、その世界観へと惹きこまれているのも分かる――。




「お兄ちゃん。私、この歌を聴いたことがある気がする」


 約2時間ほどに及ぶ映画も終わり、エンディングの美しい曲が流れていたその時、小さく服の袖を引っ張りながら明日香が小声でそう言ってきた。

 しかし俺は、その言葉を聞いても別に不思議とは思わなかった。なぜならこの作品のエンディング曲は長い年月が経った今でさえ人気があり、思ったより耳にする機会が多い。

 だから多分、明日香もどこかでこの曲を耳にしたのを覚えていて、それでそう言っているんだろうと思ったからだ。


「昔から人気がある歌だし、耳に残る曲だからな。街中で聴いたとか、そんなところじゃないか?」

「うーん、そうなのかなあ……」


 そう言って珍しく熟考じゅっこうしている様子の明日香。

 明日香が言うように、いわゆる既視感デジャヴのようなものは誰にでもあると思う。俺だって、ここに来たことがあるような――とか、この状況を知っているような――とか、そんなことは今まで何度も感じたことがある。

 オカルト的に言えば“前世の記憶”とか言うのかもしれないけど、いくら考えたところで答えは出ない。つまり、悩むだけ無駄なんだ。

 そしてエンディング曲を聴き終えた俺たちは映画館をあとにし、兄妹で初めての映画を堪能した感想を言い合いながら、楽しく帰路を歩いて自宅へと帰った。

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