表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【嵯峨 卯近/2001年~2018年】執筆した過去小説

もののけもよう 其の一――雪ん子――

作者: 嵯峨 卯近

投稿用小説の世界観をリンクさせ、

短編として書いてみました。


  もののけもよう 其の一――雪ん子――

                               筆名・峨嵯がさ 後走ごそう




 ありとあらゆる命にあふれた、この世界。

 されども、あなた方の知る世界とは少し異なります。

 まず、似通ってる所と云えば、極東の――とある島国、その長い歴史の中で『平安』と呼ばれる時代の文化でしょうか。建築様式から風俗まで、人間どもは幽玄の美と言ってますけどね。そして、そんな世界を『宸世しんぜ』とたたえ、誇っています。そもそも、皇を取って民とし民を皇となさん、との讃岐院が――まぁ、成り立ちを語れば長くなるので、このくらいに致しましょうか。

 では、大きく違う所と云えば――そう、私のような命無きモノどもも、多くんでおります。

 怪物、妖怪、化け物、様々なくくられ方がありますが、この世界では総じて[もののけ]と呼ばれ、恐れられています。時には奉られ――、時には狩られ――、私達と人間どもの関係は、悠久の時の流れによって激しく揺れ動きました。

 しかし、最近は良好になって来ている――と、言えるでしょう。


 さて――と、此度こたびは、人間どもの生活に欠かせない必需品となっている、[もののけ]の小娘こむすめの話をしますか。




「ユカちゃん、今日もお勤め、ご苦労さんだねぇ」

 木戸を開閉して入ってきたのは、薄着した中年のおばちゃん。たぶん、生まれて二十五年は経ってるんじゃないかな。漁師の女房をしているらしいよ。漁師の女房って何かも分からないし、名前も覚えてないけどね。

 言っとくけど――あたしは別に、馬鹿じゃないよ。物を知らないだけ。教えてもらえないだけ。でも、さすがに自分の名前は知ってる。ユキカって言うの。みんな言いにくいから、ユカって呼ぶんだけどね。

「はい、これ。お願いねぇ」

 あたしの前に差し出された、ふたの開いた木箱。中にはたいという赤いお魚が三匹、ぴくりとも動かず、横たわっている。漁師の女房って、お魚を持ってくるお仕事なのかなと、思う。

「………………はい」

 木箱を両手で持ったあたしは、それに向かって強く息を吐いた。そして、吐き終えるとき込む。いつも通りに――。

「いつもありがとねぇ」

 カチコチに凍った中身を見て満足そうにうなずいたおばちゃんは、同じような木箱が積み上げられた場所まで持って行き、一番上に置いた。もちろんふたは閉まっている。

「じゃあ、がんばってねぇ」

 そう言ったおばちゃんは、ぶるっと身体を震わせながら、再び木戸を開閉して立ち去る。

「………………けほ」

 物を凍らせる時だけ、ちょっとき込んでしまう。ずっと前に一度だけ来た、なんたら陰陽博士って偉そうな人間が言うには、せきをするのはあたしだけ――んで、くせのような物なので心配無いらしい。

「………………はぁ」

 だいぶ、呼吸が落ち着いてきたので、溜め息をついて仰向けに寝っ転がると、ちゃりっと右足の鎖が鳴った。あたしが逃げないように、人間が取り付けた物――。なので、あたしはここから一歩も出れない。出ようとも思わないけどね。今は暑いようだし。

 天井の茅葺かやぶきをじっと見る。ここは、地面に掘った穴の上に立てられた小屋。村のエラい人が言うには、地下水の気化熱によって外気より冷涼である為、食べ物の保存には最適である――らしい。

 あたしは、雪ん子って種類の[もののけ]だから、この建物の中を冷やすのがお仕事。人間達はここの事を『氷室ひむろ』とか『冷蔵庫れいぞうこ』って呼んでるね。




 食べ物の保存は、人間どもにとって永遠の主題【テーマ】でもあるようです。

 冷凍保存は、非常に高い技術が必要とされますし、平安時代の文明程度しかない『宸世しんぜ』の人間どもにはとてもとても、実現する事はかないません。

 だからこそ、私達のような[もののけ]に利用価値を見出したのでしょうか。

 ただ――、この雪ん子の小娘こむすめは微妙な立場のようです。もうすぐ反抗期でも迎えるような年頃だと思うんですがねぇ――雪ん子、雪女の力は、結構強いですから――さてはて、どうなる事やら。


 では、此度こたびはこれで失礼したく存じます。


何年ぶりかになるかは分かりませんが、執筆活動復活に向けたリハビリのつもりで、3時間で書き上げました。

短編のアイデアが浮かび、最後まで書く事を目標に、一気にやってみました。

と言うのも、以前、アイデアが浮かんだものの、執筆を途中で切り上げ、一ヵ月後に再開しようとしたら、全く書けなかったという経験があったからです。

「鉄は熱い内に打て」とあるのは、本当だったんだなと実感しました。

あと、自分は三人称が得意なのですが、一人称にあえて挑戦してみました。

ひょんな事から、アイデアが浮かんだら、また今回のように書きたいですね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 独特の世界観ですね。 人間達が文明発展のために努力するのではなく (あるいは発展を待たず)、 もののけの特殊な能力を利用して、生活を豊かにしている… ということでしょうか。 宸世の人間…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ