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彼女はつれない女王様!  作者: 桐一葉
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「おい、なんで春がふて腐れてんだよ」



「どうかしたんですか?」



ふてぶてしく横柄な態度を取り、黒髪オールバックが似合い過ぎる為に高校生には見えない。


生徒会書記、向島飛龍むこうじまひりゅう


家は極道の流れを組んでいて、すでに足は洗って会社経営に携わってはいるが。


やはりまだ、独特の雰囲気というものは払拭されきれていない。


目つきの鋭さと、荒々しい口調は知らない人から見れば充分に恐いものだった。



「新入生代表の方をお連れしましたよ」



「お疲れ様です。……春、俺の腕にしがみつくのは止めてくださいよ」



「真緒も俺に冷たい!慰めてくれたっていいだろー!?」



「俺の腕にしがみつくことが、慰めになるとも思えませんけど?みんな準備が忙しいんですから、早く彼女を紹介してください」



生徒会会計、雪島真緒ゆきじままお


冷静沈着、頭脳明晰と謳われた生徒会の手綱役。


ボケまくる生徒会の面々に、鋭く冷静なツッコミを入れ秩序を保つ救世主。


秀暁と組んでは生徒会の仕事に励み、飛龍と組んでは風紀の仕事を両立させる、縁の下の力持ち的存在なのだ。


神秘的な青い瞳が、ユリの視線と交われば少なからず心臓が大きく高鳴る。


ドキドキした。



「こちらが、今年の新入生代表の挨拶をする花宮ユリさんです。彼女には我々の後に、挨拶をしていただきます」



「あれ?俺たちが最後じゃないのか?」



「それが仕事の都合上、俺と飛龍が途中で抜けなければならなくなったんです。ですから今年は、生徒会の挨拶を先に済ませておいて、その後に花宮さんの挨拶で締めようと思って」



この二人が抜けるとなると、風紀の仕事か何かだろう。


短時間ではあるが、ユリはなんとなく予想がついた。



「何か、質問はありますか?今のうちに聞いておいてくださいね、後からわからないと言われても答えませんから」



「いいえ、大丈夫です」



この陰険眼鏡にこれ以上、手間を取らせた場合が怖いのでユリは一度で覚えた。


他のメンバーも、二度手間は嫌うタイプだろうと考えられた為、絶対に失敗は出来ない。


そう思った。



――――――時間は過ぎて、何をどうするでもなく入学式は始まった。


父とばあやも、保護者席に座りユリの出番を今か今かと待ちわびている。


ばあやの手にはビデオカメラ、父の手にはインスタントカメラが握られている。


……父は極度の機械オンチなのだ。


だから、使い捨てカメラでもなければ持たせられない。


それでも父は嬉々として、娘の晴れ舞台を撮影しまくるのであった。



「ユリ〜!!」



「旦那様、そのようにお名前を叫ばれましたら、お嬢様が恥ずかしい思いをなされますよ……」



「頑張れ〜!!!」



「……聞いておられませんね」



「ばあや!ユリの晴れ姿、しっかり撮っておいておくれよ?今夜上映会を開催するからね!」



「旦那様……」



親バカ炸裂。


つける薬はないと、早々に諦めたばあやはビデオカメラに専念する。


そつなく生徒会の挨拶が済み、いよいよユリの出番だからだ。



『次は、新入生代表の挨拶です』



アナウンスが流れる。


ユリは若干、緊張した面持ちで壇上へと上がった。



――――――所変わって、新入生の面々の中に毛色の変わった奴らがいた。


女子生徒たちが、生徒会メンバーにキャイキャイと騒ぎ立てすでにユリの出番など待たず話が盛り上がっていた中、それらを横目にめんどくさそうにアクビする男子生徒が二人。


一人は携帯をずっといじり、片方の耳を塞いで女子生徒のデカイ声を半減させようとしていた。


気分によって髪型を変えるのだが、今日は渋い茶髪に黒のフレームの眼鏡をかけている。


一年Sクラス、学年成績第3位の絢峰灰斗あやみねかいと


パソコン関係の情報戦に強い上に、一癖も二癖もある性格の悪い奴だ。


ゆえに、弱みを握られたらその後の人生即破滅。


……と、もっぱらの噂だ。



「あいつらうるさい。顔のいい奴らの話題で盛り上がって騒いで、周りの迷惑ってものを考えられないほど馬鹿の集まりなのかよ」



「しゃーないやん?女っちゅーんは、騒ぎ立てることで自分の存在をアピールする生き物なんやし。俺らがどうこう言うても、収まるもんでもないしな」



「お前、諦め早すぎ!」



「だって、眠い!俺は寝たい!!夜型人間にとってここは試練の場やぞ?!」



騒ぐ女子生徒たち、自分たちを見張っている保護者。


今日もサボりたかったのに、初日からサボってどうする!


……と言われて睨まれて、逃げられなかったのだ。


それを無視して逃げてもよかったが、後が怖いのでとりあえず入学式だけでも真面目に出ているわけなのである。



「はぁ〜!早よう終わってくれー!!」



同じく一年Sクラス、学年成績第2位、桐谷亮きりやあきら


灰斗とは腐れ縁の友人関係。


こちらもパソコンが得意で、それが元で灰斗と知り合ったのだ。


亮の父親が大阪の人間で、周りにいた人たちにも関西弁を使う者が多かった為に、ずっとこの話し方だ。


ここでは少し目立つ話し方だが、本人は特に気にしていない。


伸ばしっぱなしで、肩にかかるほどの黒髪に銀のアクセサリーを付けていて、ブンブンと頭を振るたびにそれが揺れていた。



「……灰斗や俺を抜いて、代表に選ばれたっちゅーんはどんな奴や?」



『新入生代表、花宮ユリ』



「特待生だってさ。近年稀にみる秀才で、かなり可愛い子らしい。周りの奴らが騒いでた」



「……ユリ?」



遠い昔に、その名前を聞いたことがある。


子犬を抱いて、泣きそうになっていた可愛い女の子。


俺の初恋だ。


亮は壇上に上がったユリを見ると、目を見開いて大げさに驚いた。


そして、隣で未だに携帯をいじっている灰斗に詰め寄り胸ぐらを掴んだ。



「灰斗!灰斗!!あの子のデータあるんやろ?俺にくれ!!」



「はぁ?」



自分でも調べることは出来たが、間の悪いことに携帯を充電中だったので今ユリの情報を引き出すことは出来ない。


本来はパソコンで調べるのだが、この二人は携帯からデータをリンクさせて、情報を引き出すことができる。


灰斗がずっと携帯をいじっていたのは、ちょうど情報整理をしていたからだった。



「……あの花宮ユリって、亮のなんなわけ?」



「俺に関係あるか知る為にっ、情報が欲しいっちゅーとるんや!いいから寄越さんかい!!」



「ふーん。……ま、見せてもいいけど……後で詳しく聞かせろよ?噂の特待生についての情報なら、いくら知ってても損じゃないからなー」



自分にも見に覚えのあることなので、深く突っ込めないのだが……灰斗はとても、えげつない。


人の嫌がることや、知られては困る情報をいち速く察知する能力に優れている。


それを共有してきた自分にとって、頼もしいことこの上ないことではあるのだが――――。



「頼むから、敵にだけはなってくれるなよ……?」



「それは、亮次第だなーっと。……あった!ほら、手早く済ませろよ?」



個人情報閲覧、ハッキング。


業者でも入れない、入らないようなところにもこの二人は平気で入っていく。


この学園の生徒も教師も、情報の海に潜れるところまで潜り探って手に入れる。


時には、とんでもない個人情報まで手に入れてくるので……中学時代も、周りから恐れられていた。



「『花宮ユリ、涼宮学園を首席で卒業。その後は成績トップで、皇麟学園に合格する。一般教養は師範並み、武術も得意とする。小・中・共に、周囲からは“大和撫子”と噂されるほどの器量良しで、男女両方問わずに大層モテた。性格も悪くない……と、思われる。洋菓子店アリスと和菓子店、藍月堂にバイトとして雇われている。家族構成は父と、昔から仕えているばあや。母親については不明』……この母親言うんは?」



「それが、いくら探ってもなーんにも出てこない。深入りしてもいいけど、怪我だけじゃすみそうにないから諦めた」



引き際は肝心だ。


いくら面白い内容でも、さすがにこれはマズイと早々に判断した上でもこれだけの情報を引き出せたのだから凄い。


得意気に、ユリの他の情報も見るかと聞いてきたが……(中学時代の写真データも有り)それは自分でも手に入れようと思えば手に入れられるので。


とりあえず、わかったことは。



「やっぱ、俺が探しとった奴かもしれん」



「え?なんかあの子に借りでもあんの?」



「むしろ、向こうが俺に借りがある!……覚えとったらの話やけどな」



「ふーん……」



灰斗は興味なさげに、携帯を取り戻して再び情報整理に戻る。


亮は壇上の上に立つユリを見つめ、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。



「花宮、ユリ。やっと見つけた……!」



その呟かれた声は、ユリに聞こえるはずもなく――――隣にいた灰斗だけが、ぼんやりと聞いていただけだった。



『以上をもちまして、入学式を終わらせていただきます』



ユリは、舞台袖で安堵の息をはき出しそれを秀暁に鼻で笑われた。


この程度のことで緊張する、繊細な神経を持ち合わせていたのかと。


この休みの間、ずっとケンカし続けてきた二人だ。


口に出さずとも、漂う雰囲気でなんとなく気づいてしまう。


ケンカを売っているのか、そうでないのか。


……むろん、ユリも負けてはいない。


どこかでゴングの鐘が鳴った。



「あら、極悪副会長様。よくも心なく、人のことを笑えるものですこと。女性がこのように大勢の人がいる中で、少しでも緊張しない人がいるとでも思っているのですか?……まぁ?無神経そうなあなたなら、そんなことも可能なんでしょうけれど?」



ユリは優雅そのものの微笑みで、副会長に猛毒の雨を浴びせた。


間に挟まれている春は、お菓子を食べている最中なので何も聞いていない。


ずっと幸せそうな、ニコニコ顔のままだ。


そんな春の隣で、表情の見えない秀暁は眩しいぐらいの笑顔でユリに応えた。










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