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ひとびと  作者: はちみつ
はちみつ日記
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68/100

地引網

 打ち合わせをした場所にて……の話。

「明後日十三時に、○×会館でお会いしましょう」と打ち合わせの約束をした。

「○×会館」とは、初めて行く場所である。当然土地勘はない。だが、カーナビを使えば近くまではたどり着けるし、目的地付近で迷っても少し早めに行けば問題ないだろう。

 当日、私はカーナビの音声案内の通りに走行し、○×会館の付近に到着した。大きな建物だったのですぐに目に付き、迷うことはなかった。車を駐車場に停めて、会館の待ち合わせしたフロアーに入った。

 打ち合わせを済ませ、先方と次の約束をして笑顔で帰りの挨拶を交わした。このまま帰ろうと思ったが、何かわからぬが私はこの○×会館に付近の景色に見覚えがあることに気が付いた。いつ頃、どういった経緯で見たかが思い出せない。なんだか、心がモヤモヤしているので、自販機でミネラルウォーターを買って、飲みながら思い出すことにした。

 ロビーの椅子に座り、自分の記憶を地引網で引き上げる様に大急ぎで手繰り寄せたが、思い出せない。しばらく、記憶の地引網を手繰り寄せる作業を続けた。

 そして、ふとロビーの窓から会館の裏側にあるホテルを見た。このとき、ホテルに見覚えがある事を思い出した。

 このホテルは、遠い昔私が恋愛に浮かれ楽しんでいた時期に、当時の彼と一緒に食事に行ったホテルであった。

 しかし、私は当時の彼とホテルでのランチを楽しみ、いよいよデザートと言うときに、彼と大喧嘩をした。原因は彼の浮気であったと思う。ランチの会話中に私に浮気がばれたのだ。元々浮気性な男であったのだが、私は激怒した。しかし当時の彼の顔は今となってはよく覚えていない。今、すれ違っても彼だと気が付かない可能性が大きい。別れてしまえば、元彼なんてそんなもんだ。どこで生きようが、死のうが、幸せか不幸かなんて私の知った事ではない。興味がないのだ。

 だが、大喧嘩したことと、デザートを食べずに帰る羽目になったことは思い出せた。

 しかし、私はなぜこのホテルの隣の○×会館を調べた時に、このホテルの事を思い出せなかったのだろうか?

 たぶん、ホテルに来たときには彼が予約をしてくれたし、彼の運転する車に乗って行ったので、場所など覚えていなかったのだろう。さらに、ホテルは○×会館の裏手なので駐車場からは全く見えないので、私は○×会館に無事たどりつけることだけを考えており、隣のホテルのことなど興味がなかったのだ。

 記憶の地引網を一生懸命たぐり寄せたかいあって思い出せた。すこしすっきりしたが、苦い思い出である。深いため息が出た。

彼の顔が思い出せなくても、ランチのデザートが何だったかはとても気になる。今度の約束の前に、ランチに行ってデザートを味わって来ようかな……。

 だが、昔の彼と大喧嘩したホテルで一人ランチを楽しむ気にはなれない……。しかもここは結婚式もできるホテルだから、一人でランチはさすがにちょっと恥ずかしい気がする。ホテルのスタッフさんたちは、大喧嘩した

カップルの私の顔を未だに覚えているだろうか……だとしたら、さらに恥ずかしい。

 ○×会館での打ち合わせはしばらく続きそうなので、行くたびにホテルを見て、デザートが食べられなかった、大喧嘩の思い出を思い出すことになりそうだ。

 少し気が重くなった。大喧嘩なんてするもんじゃないですね。女性は良い男性を選んでお付き合いせねばいけませんな。

 上手い具合に、○×会館での打ち合わせが早く終了しますように。

○×会館に行かずに済むようになったら、おひとり様でも行けるホテルのランチを頂きに行って、素敵なホテルランチの思い出を作り、苦い思い出を封印してしまおうと思う。

 だが、少なくともあと数回は○×会館に通わねばならぬ……。

早く、おひとり様ホテルランチに行きたいな。


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