【三題噺】誰かが言った。
似ている。
と言われたことがある。
誰に言われたかは、もう覚えていないけれど。
「火野ー」
「うるさい。黙れ。そのまま窒息しろ」
補習のプリントから顔を上げずに、火野がいつもの毒舌で言い放つ。
今は放課後。
小テストをサボった火野と、小テストに不合格だった俺の補習中。
「てか、火野もこりないよねー」
火野は不良だ。
授業はサボるわ、喧嘩はするわ。
校則違反なんて数え出したらキリがない。
小テストをサボるのも、こうして俺と補習をするのも、もうお約束。
そのくせ頭はいいから嫌になる。
「お前もよくこりないな。今回も不合格はお前だけだろ」
「あと5点足りなかっただけだって」
「10点満点、7点合格のテストに何言ってやがる。馬鹿か、お前」
そんなやり取りの間でさえ、火野は手を休めずにプリントを解答で埋めていく。
その癖のあるかくばった字に目を落として、知らず知らずに呟く。
「なぁ、俺らって似てる?」
「はぁ?」
不意な発言に驚いたのか、火野が手を止め顔を上げる。
茶色の瞳に戸惑いが浮かぶ。
「いきなり何だよ」
「誰かに言われた気するんだよね」
へらりと笑って見せれば、火野は目を細めた。
思わず息を呑むような、冷めた色が過ぎる。
でも、それは一瞬で火野はまたプリントに目を戻す。
「俺は不良でお前はクラスの中心人物だろ。全然、似てねぇよ」
「ま、そだね。俺は馬鹿で火野は頭よいし」
「まったく誰だよ。似てるって言った奴。こんな奴と似てるとか勘弁してほしい」
火野がらしくない笑い方で言う。
自嘲にも嘲笑にもとれるそれに、何故か淋しさが見えた気がして。
気づけば手を伸ばしていた。
「何だよ?」
怪訝な表情をされてはっとする。
そのまま手を引っ込めることもできず、火野の頬を引っ張ってみる。
「痛っ。何すんのだ、てめぇ」
「水谷」
「は?」
「俺、水谷だから」
お前じゃないから――――そう手を離す。
火野は何かを言いかけて止め、代わりに大きく息を吐いた。
その反応に満足して、俺はプリントを火野の目の前に掲げる。
「ね、火野。帰りにアイス奢るから、俺のプリントの白紙どうにかして」
「……馬鹿以外の何者でもねぇな」
水谷は――――呆れたような声音に、俺がけらけら笑って、火野もつられて少しだけ口元を緩めた。
その後、コンビニにて。
「ほら、火野ー。この3つから好きなの選んでいいよ」
「全然、ガリガリ君じゃねぇか」
「だって、安……うまいから」
「そうか。安いからか」
「俺、ソーダにしよ」
「いや、俺ソーダにするから、お前は別のにしろよ」
「えー。やだ」
「あのさ。お前、誰がプリントやったと思ってんの?」
結局、二人してソーダにした。
「こーゆうとこ似てんのかな?」
「なんか言ったか?」
「いや、べっつにー」
三題噺として書きました。
アイス、不良、馬鹿。