魔王様と勇者な私
私の名前はリシュル・ビジュー。魔王を倒しに来た勇者だ………なのに何で私はここに閉じ込められているんだろう?仲間は消えた。一瞬で。消されたのか飛ばされたのかも分からない。
私を殺しもせずに片手でここに閉じ込めた魔王の名は「夜闇の王」ジークディード・エル・ロウ・ヴァレンティア。漆黒の髪に紅の瞳、魔眼の美麗な王。今思い出しても腸が煮えくりかえる。
そして今日は珍しく訪問者がいた。妙齢の女性だ。亜麻色の髪に深緑の瞳。年齢は私と同じ位か?美人と言うより可愛い娘だ。殺伐としたこんな魔界に相応しくない。
だが彼女はいきなり爆弾を投下した。
「私の名前はシェルフィアラ。息子がごめんなさいね。あの子言い出したら聞かなくて」
息子?!
思わず飲んでいた紅茶を噴き出す。
「あらあら、大丈夫ですか?拭かないと」
テキパキと拭いてくれる姿をボー然と見守る私。
「い、今息子とおっしゃいました?」
「ええ。ジークは私の上の子です」
失礼ですがおいくつですか???とは聞けず思わず口ごもる。
「父親に一番良く似てて言っても聞かないんです。どうもあなたの事気に入ってしまったみたいで………その………嫁にすると………」
「?!」
むせました。あの馬鹿はわかっているのだろうか?私は勇者でお前は魔王。
「無理です」
「ですよね。でも諦めた方がいいと思います」
シェルフィアラさんが遠い目をする。話してくれた所によると、元々は前魔王陛下に拾われて侍女として働いていたそう。それがある時自分で地雷を踏んで前魔王陛下の妻になったと言う。
「私も、侍女じゃなくなった時あまりの陛下の変わり様に怖くなって一度逃げようとした時があったんですけど………捕まって、………二度と逃げようとは思わなくなりました」
そう言う顔はこれでもかと言う位、紅い。なにされたんですか?!そう聞きたいものの怖ろしくて聞けない。
「あの子は父親そっくりです。諦めたほうがいいと思います」
あの………それは………私の身にも同じ事が起こると言う事………?
「母上、余計な事を」
その声に二人ビクッと緊張する。視線の先には二人の魔王。判を押したかのように同じ顔が二つあった。
シェルフィアラさんがじっとりと汗をかいて硬直する。
「あ、へーか………なぜここに???」
「息子の嫁を見てみようと思ってな………シェル、お前今日頭痛がするから奥殿で休むんじゃなかったのか………」
怖ろしい!!!口元は笑ってるのに目が全く笑ってない………!!!コレが前魔王陛下!!!
「えーっと、治ったので、私もお嫁さんを見に?」
えへ?と効果音をつけて首をかしげる可愛らしいシェルフィアラさんですが………今はそれ逆効果じゃ………。
案の定、前魔王陛下にひっ攫われてあろうことかディープキスされてます。あの、人前なんですが………。そんなの関係ないらしい。
「治ったのなら丁度良い。朝の続きをしような?」
前魔王陛下はそうシェルフィアラさんの耳元でお囁きになりぐったりした彼女を連れていきました。
「相変わらずだな父上は。息子の前でやるのはどうかと思うんだけど………」
なぁ?と問われても私には何とも言えない。シェルフィアラさん頑張って!!!
「そういえば………どうやら母上から聞いたらしいね?」
その言葉に再度硬直。
「気長にやるつもりだったけど、目的がバレたんだ。俺も本気で行くから」
そう言って耳元で囁かれました。しかもあろうことか耳たぶにキス!!!!
シェルフィアラさん?!飛び火してます。完全に。なんて事してくれてんですか?!!
「わ、私は勇者であんたは魔王でしょうが!!!」
「でも、かなわないでしょ?俺に。いじめて泣かせてあげてもいいんだけど嫌われたくないしね」
舌舐めずりするな!!!ううう。なんでこんな事になってるんだ。帰りたい。
「どうする?君が逃げるんなら俺は人間の国を壊すけど………君がここにいる間は何もしないでいてあげる」
十分いじめだろうが!!!この野郎!!!
「そもそも、嫁ってなんだ!!!私は人間でお前は魔族だろうが!!!」
「あれ、気付かなかったの?俺の母上人間だけど」
「え?!」
魔界にいる時点でシェルフィアラさん魔族だと………。思ったんだけど?
魔族と人間て子供ができるのか?
「うん。できるねぇ。俺の下に9人いるしね」
知らない間に呟いていたらしい。―――って、
「9人?!シェルフィアラさん私と同い年位にしか見えないんだけど!!!」
「母上は見た目若いからね。そう言えば俺は26だけどリシュは幾つ?」
「か、勝手に愛称で呼ぶな!!!」
真っ赤になって抗議すれば目の前に魔王の顔が。
「ねえ、幾つ」
「じゅ、18です」
ふぅんと呟くとやっと離れてくれた。オソロシイ。
※ ※ ※
金の髪にオレンジの瞳。ハッとするような美人ではないけどとても可愛らしい容姿。そのキラキラとした魂の輝きに一目で欲しいと思った。他の邪魔な小虫は早々にどこかへ飛ばす。そもそも、勇者が来るのも可笑しな話だ。父上が母上と結婚してこっち、人間界に余計なちょっかいは出していない。どうせ、怖がりなどこかの王が勇者を仕立てあげてこちらに寄こしたのだろうが………。今はとても感謝したい位だ。
俺の可愛い小鳥。「うん」と言うまで逃がす気はまったくない。俺の子を産めば離れられなくなるだろうかとも考えたが、リシュには俺の事を好きになって欲しいと思いなおした。今なら俺が成人して早々隠居した父上の気持ちが分かる。俺はリシュとずっと一緒にいたい。好きだリシュ。愛してる。
※ ※ ※
それから、毎日のように愛の告白をされます。正直お腹が満腹で吐きそうな位。唯一の慰めはシェルフィアラさんが時々遊びに来てくれる事。彼女の天然な感じには正直癒される。くっそ、魔王め。どうせならこっちに似れば良かったものを………。しかし意外だったのは魔族が今の所人間界にちょっかいを出そうとしてなかった事だ。私、ここに来た損なんじゃあ………そう言ったらシェルフィアラさんに、よしよしされました。ちょっとほろり。あのチキン野郎の言った事は何だったんだと思う。『我等の世界は今、魔王の脅威に以下略』呪ってやるぞ。あのタヌキ。魔王には全然歯が立たなかったしな。瞬殺だ。
今日も、私からは開けられない、通り抜けられない扉をくぐって魔王陛下がいらっしゃる。
甘い菓子のようなセリフを引っ提げて。そんなこんなで私の毎日は求婚されて終わるのだった。
シェルフィアラは結局捕食され、リシュルは捕食の危機です。現魔王陛下は時間をかけて落とす作戦のようですが果たして………でも逃げられないよね?