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ある日、目覚めたら愛するあなたのモノになっていた  作者: ぷよ猫


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◇7 意外な人物

 シルビアは、無事に元の体に戻った。

 衰弱した体を回復させるのに一か月ほどかかったものの、呪われる前より元気があり余っている。

 アーノルドとの縁談は白紙となったが、婚約秒読みとまで噂されていた二人の破談は社交界を騒がせなかった。政界を揺るがすビッグニュースが国中を駆け巡ったからである。


 ――王太子殿下、長期療養のため王領クロエシェの別邸へ!

 

 今、世間では、第二王子のアーノルドが王位を継ぐのではないかという憶測が広まっている。

 貴族たちは成立前の婚約の白紙など、さして興味はないのだろう。シルビアのことは『アーノルド殿下は立太子することになったから、公爵家へ婿入りできなくなったのではないか』と添え物のように語られるだけである。


「まさか、王太子殿下が術者だったとはね……」


 そよ風の吹くバルコニーで、ララに淹れてもらったカモミールティーを飲みながら、シルビアはその意外な犯人の顔を思い浮かべた。

 アーノルドと同じ漆黒の髪と、他人に感情を悟らせないガラス玉みたいに無機質な紺青の瞳をした、滅多に笑わない人だった。賢く美しい妻を持ち、文武両道と評判の優秀な王子である。

 王太子教育で多忙だった彼とは見かけるだけで、ほとんど話したことなどなかったのに……。


「すべてに恵まれた完璧な方なのに、なぜなんでしょう?」


 焼き菓子を運んできたルルが不思議そうに疑問を口にした。

 お茶のお代わりを淹れているララも「てっきり、どこかの貴族が黒幕かと……」と首を傾げる。


「きっと王族にもいろいろ苦悩があるのよ。それに完璧な人なんて、この世にいないわ」


 そう言いながらシルビアは、客人がいないのをいいことに、レモンのパウンドケーキをヒョイと指で摘まみ上げた。

 完璧令嬢と称される己が主人の無作法を見て、ルルとララは「そうですね」と納得したように声をそろえる。


 黒魔術の犯人探しは、父ダンカンが国王に協力を仰ぎ、解呪のあと数日もしないうちに結果がもたらされた。

 王太子殿下の身体に原因不明の黒痣がある、と侍従長により報告が上がってきたのである。

 日に日に広がる黒痣に恐怖を感じた王太子は、すべて白状した。アーノルドに対する嫉妬だったと――。

 

《私には生まれたときから自由がなかった。次代の王として厳しい教育が課せられ、具合が悪くても休むことは許されない。

 遊ぶ代わりに剣の稽古、両親と食事をしたことも数えるほどしかない。物心ついたときには、すでに決められた婚約者がいて、好きな女性に対する恋心さえ押し殺してきた。

 私は、王子でありながら病弱だからと甘やかされているアーノルドのことが、前から気に入らなかった。

 少し咳をしただけで家庭教師の授業を休む。庭で遊べば、すぐにビービー泣く。挙句の果ては、好きな相手と結婚させたいだと? 王族なら国の利益になる結婚をすべきではないのか? 

 しかも、婚約者候補は宰相の娘シルビア・マクスウェルだというではないか。これでは依存先が公爵家に変わるだけだ。断じて、許すものか!

 私は二人の縁談を阻止したかった。あいつも一度くらい、挫折を味わえばいい。

 だからアーノルドの同級生のレックスを通じて、コリンナ・マッコールを紹介させた。彼女は男をたらしこむのが上手いから、世間知らずな弟など、あっという間だったよ。

 野心家のコリンナは、このままいけば王子妃になれると踏んだんだろう。だが、破談どころか婚約間近と聞いて彼女は焦った。

 アーノルドは、なんだかんだ言ってもマクスウェル嬢を頼りにしているからね。外堀が埋まれば、逆らえないと判断したようだ。

 それでコリンナは、どこからか王家の禁書庫に黒魔術の魔導書が保管されていると聞きつけて、取引を持ちかけてきたんだ。

『マクスウェル嬢と入れ替わったら、コリンナの肉体は殺してもいい。アーノルドを傷つけたいのなら、愛する女を喪う地獄を味わわせるのが一番だ』と。

 王太子教育の一環で魔術の授業を齧っただけの自分に、呪術を成功させられる自信はなかった。だが、一か八か試すくらいはしてもいいかと話に乗ることにした。

 コリンナの身に何も起きなかったから失敗したことは知っていたけど、まさか、マクスウェル嬢がアーノルドの指輪に憑いていたとはね――》


 王太子は、自分の弟を傷つけるためだけに禁呪に手を出したのだ。

 シルビアはこの場にはいなかったけれど、一部始終を見届けた父ダンカンの話によれば、王太子の独白を聞いた国王は青ざめ、王妃は失神し、アーノルドは茫然自失のまま立ち尽くしていたという。

 結局マクスウェル家と王家の協議の末、王族による黒魔術への関与を表沙汰にするわけにはいかず、王太子は病気療養の名目で生涯幽閉することとなった。時期を見て廃太子される予定である。

 かといって、アーノルドが次の国王になるわけではない。幼い頃に病弱であったがゆえに甘やかした自覚が、国王夫妻にもあった。国を背負うために必要な教育をアーノルドに施していなかったのだ。

 アーノルド本人も、実兄の深い心の闇に触れ、とても王位を継ぐ気にはなれなかったようだ。妊娠中の王太子妃が産む子へ世継ぎの座を譲ることに同意した。

 子爵令嬢コリンナ・マッコールは、逃げ出そうと王都を出る直前に捕まった。その顔には、化粧で隠し切れないほど黒々とした痣があったという。罪を公にできない以上、死罪に問われることはないが、牢獄で生涯を終えることになるはずだ。


(わたくしが彼らに何かしたわけじゃないのに……)


 一発くらい殴ってやりたかったと、ため息を吐くシルビアであった。



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