表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある日、目覚めたら愛するあなたのモノになっていた  作者: ぷよ猫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/11

◇4ー1 ドルー宝飾店の白魔術師

 アーノルドの生活は規則正しい。基本は王宮と学園の往復だ。

 きっちり定刻に寝起きし食事をするのは、それに合わせて仕事をする使用人がいるからである。

 身の回りの世話をする侍従、時間に合わせて料理を仕上げるシェフとそれを運ぶ給仕、部屋の掃除をするメイド、外出時には護衛を伴うので、急な予定変更は彼らに負担をかけてしまう。逆を言えば、王族の生活はそれだけ多くの人に支えられているのだ。

 その辺の事情はシルビアも理解している。けれど連日、ニャンコ柄のパジャマ、紅茶とスコーンの同じ朝食、学園ではコリンナといちゃつき、放課後の自習、国王夫妻と夕食……と、代り映えしない生活ではいい加減、飽き飽きするというものだ。しかもシルビアは眠らないので、一日がとても長い。


『呪いを解く見通しも立たないし、なんか、すっごく暇なんですけどぉぉぉ!』

 

 シルビアは悶えた。


 そんなある日のこと。

 めずらしくアーノルドが学園の帰りに寄り道をしたので、シルビアの心は浮き立った。

 目抜き通りの裏側にひっそりと建つ『ドルー宝飾店』は、骨董好きのドルー伯爵が道楽で始めた小さな店である。

 掘り出し物を求めて来店する貴族も多く、シルビアは幼い頃に両親に連れられて何度か来たことがあった。

 店内にはアクセサリーのショーケース、壁一面に百年前の人形や燭台などのアンティーク雑貨が飾られており、雑貨が商品の大半を占めていた。髑髏の水晶、キュウリの形をした翡翠なんて変わり種もあって、見ているだけで楽しめる。


「お待ちしておりました、殿下」


 護衛を一人店の外で待たせたまま、カランとドアベルを鳴らし入店したアーノルドを、張りのあるバリトンボイスが出迎えた。

 シルビアの記憶では、店主は白髪交じりの風格のある老紳士だが、目の前にいるのはグレーがかった銀髪を後ろで一つに結んだ二十歳くらいの青年だった。中性的な整った顔立ちをしていて、どこか謎めいた雰囲気を醸し出している。

 予約制なのか、それともたまたまなのか、店内にほかの客はいない。

 ホワイトセージのお香が焚かれ、白い煙がゆっくりと立ち上っている。時折、煙にまとわりつかれるような感覚がして、シルビアは頭がクラクラした。


「また寄らせてもらったよ。このお香の匂いで、お忍びで街に出たことが侍従長にバレてしまうんだけれどね。ここなら希少な宝石もあるだろうから」


 制服に匂いがつくのを侍従たちが嫌うのだと、アーノルドはわざとらしく渋面を作り肩をすくめる。

 そんなアーノルドに来客用の椅子を勧めると、銀髪の青年は琥珀色の目を細め愛想よく応じた。


「このお香は魔除けですよ。ホワイトセージは、けがれを祓うと言われていますから。アンティークの雑貨や宝石は、何人もの持ち主の手を渡ってやって来るんです。中には事情があって手放す人もいたでしょう。彼らの無念や執着が物に残らないように、当店ではお香の煙で燻してから店頭に出すようにしています」


「持ち主の無念や執着か。それを言ったら王家の宝物庫は無念だらけだろうな。このオニキスなんて、その昔、王位継承権を剥奪された王子が所有していたらしい。呪われているかもしれないよ」


 呪いと言いつつ大して気にしていないのか、アーノルドは冗談めかすように片目をつぶり、銀髪の青年に手を差し出して指輪を見せている。

 銀髪の青年も調子を合わせ、オニキスを覗き込みながら「それは恐ろしいですね」と大袈裟に相槌を打つ。

 シルビアは青年の顔が迫ってきてギョッとするが、どうすることもできない。


「もしよろしければ、こちらの指輪、お帰りになるまで燻して差し上げましょう」


「せっかくだからお願いするよ」


 オニキスの指輪が、銀髪の青年の手に渡った。


「それで、今日は何をお探しですか?」


「黒い宝石が欲しいんだ。できればブラックダイヤがいい。そうだな、ピアスかブレスレットに加工できる大きさで――」


 アーノルドが嬉々として説明している間、シルビアは商品棚にあるガラクタに近いアンティークをワクワクしながら鑑賞していたのだが、恋人のプレゼントを買いに来たと知ったとたん、つまらなくなった。

 黒はアーノルドの髪の色、コリンナの瞳の色だ。そう、二人の色。でも、もう傷ついてなんかやらない、とシルビアは歯を食いしばる。

 コトリ、と香皿を置く音がした。

 アーノルドが座る来客席のテーブルの片隅に、新しいお香が用意されたのだ。シルビアはホワイトセージの煙に包まれ、すぐに視界が白く染まった。

 宝石選びに熱中するアーノルドの口数も次第に少なくなっていき、店の置時計からチクタクと秒針の音だけが聞こえてくる。

 煙に燻され、じんわり温かい。


(眠い……)


 シルビアはうつらうつらとし始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ