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開かれた扉

静寂。

耳が痛くなるほどの無音の中、床に転がった五つのチョーカーが鈍い音を立てた。

首筋に残る熱い感動――それは、つい数秒前まで死がそこに張り付いていた証拠だ。

「……外れた。外れたぞ!」

佐藤が狂喜し、床を叩く。真由は力なく座り込み、ただ激しく咽び泣いていた。

俺は壁に背を預け、震える手でスマホを見つめる。

画面はブラックアウトしたまま。少年のハッキングと俺のウイルスが、運営のサーバーを物理的に焼き切ったのだ。

「終わったんだな、カイ……」

金子が掠れた声で問う。

「ああ……。配信は止まった。これで俺たちは、ただの『死体候補』から『行方不明者』に戻れたわけだ」

俺は立ち上がり、唯一の出口である重厚な金属の扉へ歩み寄った。

電子錠のランプは消えている。システムが落ちた今、物理的なロックは解除されているはずだ。

「さあ、帰るぞ。……外に出て、警察に全部ぶちまけてやる」

俺が扉の取っ手に手をかけ、全力で引き寄せた。

眩いばかりの光が差し込む。

だが、一歩踏み出した俺の足が、凍りついた。

「……なんだ、これ」

目の前に広がっていたのは、見慣れた街並みでも、警察署でもなかった。

そこは、巨大なスタジアムの中央だった。

周囲を囲むのは、数万人の観客。

彼らは皆、自分たちのスマートフォンをこちらに向け、狂ったような歓声を上げている。

スタジアムの巨大スクリーンには、今さっきまで俺たちが見ていた「配信画面」が、より鮮明に、より残酷な角度から映し出されていた。

『キタアアアアアア! 第1ステージ突破者、五名!』

『カイ! お前最高だぞ! サーバーダウンまで演出かよ!』

「演出……?」

俺の声が震える。

『そうだよ、カイ君! サーバーなんて落ちてない。君がハッキングした「つもり」になっていたあの瞬間も、すべてはリアルタイムで課金コンテンツとして売られていたんだ!』

聞き慣れたウサギの声が、スタジアム中のスピーカーから爆音で鳴り響く。

上空を見上げると、そこにはホログラムで投影された巨大なウサギが、空を覆い尽くさんばかりの笑顔で浮かんでいた。

『「遺族の復讐」? 「運営の裏切り」? ……ハハハ! 全部、僕たちが書いた**最高の脚本シナリオ**だよ! あの「少年」も、僕たちが用意した役者。君たちの過去の罪も、視聴者が一番喜びそうなものを僕たちが「捏造」して植え付けた記憶に過ぎない!』

「捏造……だと?」

俺は自分の記憶を探る。……確かに、あの事件の詳細は覚えている。だが、自分が「いつ」「どこで」それをしたのか、具体的な手触りがない。

「嘘だ……! 俺は、あの時、確かに警備員を……!」

佐藤が頭を抱えて叫ぶ。

『君たちは、選ばれたんだよ。「罪悪感」を燃料に、一番必死に生きようとする「最高のエサ」としてね! さあ、視聴者の皆さん! ここからが本番、第2ステージ! **「共食い(バトルロイヤル)」**の開始だ!』

スタジアムの床がせり上がり、無数の武器が姿を現す。

観客席からは、まるでスポーツ観戦のように「誰を殺せ」というコールが巻き起こる。

俺は、自分たちの命が、一秒ごとに「いいね」という名のデジタルな数字に変換され、消費されていく現実を突きつけられた。

俺が信じたハッキングも、少年の勇気も、すべてはこの巨大な見世物小屋の一部でしかなかった。

「……クソが」

俺は足元に落ちていたナイフを拾い上げた。

だが、それは隣にいる仲間を守るためじゃない。

目の前で、佐藤が、金子が、真由が、自分だけが生き残るために武器を奪い合おうと、互いを牽制し始めたからだ。

「カイ……。悪いな。俺、やっぱり死にたくねえんだ」

佐藤が、血走った目で俺を睨む。

自由の扉の先には、もっと広大な、終わりのない檻が待っていた。

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