遺族の復讐劇
「……全員、苦しんで死ね」
少年の低い声が響くと同時に、部屋の空気が一気に重くなった。
供給口が完全に閉鎖され、個人の酸素カウンターが狂ったようにマイナスへと加速する。
【緊急事態:全参加者の酸素供給、強制停止】
「う、嘘だろ……! 金を払う! いくらでも払うから助けてくれ!」
田中に至っては、もはや矜持も何もなく床に這いつくばって叫んでいた。
だが、スピーカーから聞こえる少年の声は、氷のように冷たかった。
『金? ……父さんが死んだ時、あんたたちは一円も払わなかった。それどころか、母さんが心労で倒れても、「自業自得だ」ってネットで叩き続けた。……姉さんが死んだ日、僕の手を握ってなんて言ったか知ってるか?』
静寂が部屋を支配する。喘ぎ声だけが、暗闇の中で響く。
『「ごめんね、もう疲れた」……そう言って、姉さんは笑って死んだんだ。……それを「エンタメ」として消費したお前らを、僕は絶対に許さない』
スクリーンのウサギが消え、代わりにリアルタイムの**「コメント欄」**が全画面に映し出された。
そこには、今この瞬間も、何十万人もの人間が書き込み続けている。
『うわ、ガチの復讐かよ』
『ざまぁwww』
『もっと苦しめよ、自業自得だろ』
「……皮肉だな」
俺は、薄れていく意識の中でスマホの画面を見つめた。
今、俺たちを追い詰めているのは、主催者の少年だけじゃない。
この配信を熱狂的に見守り、「いいね」を押し続けている、無名の数万人だ。
彼らは「正義」の名の下に、俺たちが苦しみ抜いて死ぬのを心待ちにしている。
かつて俺たちが、名もなき遺族を叩いたのと同じ熱量で。
「ハァ……ハァ……カイ……お前、何か、策はないのか……」
佐藤が喉を鳴らしながら、俺の服の裾を掴む。
彼の酸素残量は、ついに00:10を切った。
「策、か……」
俺の脳裏に、ある仮説が浮かんだ。
このゲームのルールを、少年はどうやって制御している?
首のチョーカー、酸素の供給、そして配信システム……。
もしこれが、単なる個人の復讐なら、あまりにも規模が大きすぎる。
「少年……聞こえるか。お前、一人でこれをやってるんじゃないな」
『……何?』
「お前は、この配信サイトの**『運営』**に利用されてるだけだ。姉さんの復讐という餌を与えられて、お前自身も『殺人』というコンテンツの一部にされてるんだよ」
俺はあえて、少年の「怒り」の矛先を逸らすように叫んだ。
画面の向こうで、わずかにノイズが走る。
「見ろよ、コメント欄を。お前が俺たちを殺せば、奴らは大喜びする。でも、明日になればお前のことなんて忘れて、別の獲物を探すだけだ。……お前は、姉さんを殺した連中と同じ土俵に立ちたいのか?」
『黙れ! 綺麗事を言うな!』
少年の叫びとともに、佐藤の酸素がついに**「00:00」**になった。
ピーッという無慈悲な電子音が響き、佐藤が白目を剥いて倒れ込む。
「佐藤!」
俺は咄嗟に自分のデバイスを操作し、残っていた自分のポイントを佐藤のカウントへと「譲渡」した。
【ポイント転送:カイ → 佐藤(酸素1分分)】
「ガハッ……! ゲホッ!」
死の淵から、佐藤が息を吹き返す。
「カイ……お前、自分の分を……」
「勘違いするな。死なれると、演出が盛り上がらないんだよ」
俺はカメラを睨みつけた。
「いいか、視聴者のゴミ共。……お前らが望んでいるのは『一方的な処刑』だろ? でも、俺はそれを拒否する。俺はこのクズ共を全員生かして、この部屋を出る。……お前の姉さんを殺した『社会』ってやつに、一太刀浴びせてやるよ」
俺の『いいね』カウンターが、逆説的に跳ね上がった。
「悪役」が「狂信者」へと反旗を翻した瞬間。
かつてないほどの熱狂が、配信サイトのサーバーを揺らし始めた。




