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断罪の椅子

「……わかったよ。話せばいいんだろ、話せば……!」

佐藤が観念したように、部屋の中央に置かれた椅子に腰を下ろした。

無機質なスポットライトが彼を照らし、背後のスクリーンには彼の顔が巨大に映し出される。

「俺は……あの時、東都建設の警備主任だった。ビルの前で、死んだ下請けの奥さんと子供が座り込んでたんだ。謝罪しろって、泣きながら……」

佐藤の声が震える。

「上司からは『イメージが悪くなる、さっさと排除しろ』って命令された。俺は……その子供の腕を掴んで、地面を引きずり回したんだ。泣き叫ぶ子供を、まるでゴミみたいに……。奥さんが必死に止めてきたけど、突き飛ばして、泥だらけにした」

『うわ、最低』

『子供相手にそれはねーわ』

『筋肉ダルマのくせに弱い者いじめかよ』

コメント欄が急速に冷えていく。

同時に、佐藤の首元のデバイスが赤く点滅した。

【判定:許せない(89%)】

【ペナルティ:酸素5分没収】

「ガハッ……!? げほっ、ごほっ!」

佐藤のチューブから、空気が吸い取られるような不気味な音が響く。

彼の酸素残量は一気に03:10まで削られた。

「あ、ああ……空気が、足りない……!」

佐藤が椅子から転げ落ち、喉を掻きむしる。

「次は……私……?」

真由がガタガタと震えながら、促されるまでもなく椅子に座った。

彼女は自分のスマホを握りしめ、消え入るような声で告白を始めた。

「私は……現場で自撮りをしただけじゃない。その動画を加工して、奥さんが警備員に殴りかかってるように見せかけてアップしたの。……『キチガイが暴れてるw』って。それで、何万回もリツイートされて……。奥さん、ネットで叩かれて、住所まで特定されて……」

真由の告白が終わる前に、判定が出た。

【判定:許せない(94%)】

【ペナルティ:酸素5分没収】

「いやあぁぁぁ! 助けて! 苦しい、苦しいの!!」

真由のカウントが00:45を表示する。

彼女は床を這いずり、俺の足元に縋り付いてきた。

「カイ君……お願い、あなたの『いいね』を分けて! 死んじゃう、私死んじゃう!」

俺は冷ややかに彼女を見下ろした。

「……自業自得だ。あんたがバズるために踏みにじった命に、謝りもしなかったツケだろ」

俺は彼女の手を振り払い、カメラを見据えた。

視聴者数は、ついに50万人を突破している。

だが、俺の胸の中には、ある「違和感」が確信に変わりつつあった。

(おかしい。……なぜ、俺たちの「罪」をここまで詳細に、このウサギは知っているんだ?)

東都建設の事件は、確かに大きなニュースになった。

だが、警備員個人の行動や、加工された動画の真実、匿名掲示板の書き込み主……。

それらをすべて繋ぎ合わせるには、単なる「外部の人間」では不可能だ。

「……田中さん」

俺は、まだ告白していない老紳士、田中に歩み寄った。

彼は、全ての元凶である東都建設の元役員だ。

「あんた、まだ隠してるだろ。あの事件の、本当の『被害者』が誰だったのかを」

田中は顔を伏せ、何も答えない。

だが、その時。スクリーンのウサギが、今日一番の「邪悪な笑顔」を浮かべた。

『さあ、盛り上がってきたね! でも、ここでスペシャルゲストの登場だ! この配信の**「メインスポンサー」**を紹介するよ!』

画面が切り替わり、一人の「少女」の写真が映し出された。

それは、あの日佐藤に引きずられ、真由に晒され、田中に切り捨てられた下請け業者の娘――。

だが、その写真は遺影だった。

『彼女は、ネットの誹謗中傷と生活苦で、一年前、自ら命を絶ちました。……そして、今この配信のスイッチを握っているのは、彼女の**「弟」**だよ』

部屋のスピーカーから、少年の、低く憎しみに満ちた声が響いた。

「……全員、苦しんで死ね」

その瞬間、部屋の照明がすべて消え、赤色の緊急灯だけが回転し始めた。

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