選別の共通項
「酸素の個人持ち」というルールは、部屋の空気を物理的にも精神的にも希薄にさせた。
佐藤、金子、真由の三人が俺を囲む。俺の残り酸素時間は02:40。対して、俺を追い詰める側となった佐藤は09:00を超えている。
「ハッタリはやめろ、カイ! 俺たちの過去だと? そんなもん、ただの偶然に決まってるだろ!」
佐藤が怒号とともに拳を振り上げる。
だが、俺は動かない。スマホのレンズを、部屋の隅で震える老人、田中へ固定したまま言い放った。
「偶然? ……じゃあ、田中さん。あんたの勤めていた『東都建設』の不祥事、あれで自殺した下請け業者の名前……覚えてるか?」
その瞬間、田中の顔から血の気が引いた。
「な、なぜそれを……」
「東都建設?」
金子が眉をひそめる。
「待てよ、それ……俺が三年前、SNSで『ブラック企業の末路w』って晒し上げて炎上させた会社じゃねえか」
部屋に奇妙な沈黙が流れた。
俺は一歩、佐藤に歩み寄る。
「佐藤。お前、その自慢の体で警備員をやってただろ。東都建設の本社ビル前で、抗議に来た遺族を力ずくで排除した……。違うか?」
「……っ!」
「そして真由。お前はその騒動の際、現場で自撮りして『デモ隊邪魔すぎ~』ってアップしたよな。バズるために」
真由が息を呑み、後ずさりする。
点と点が、血の匂いのする線で繋がっていく。
『え、マジ!?』
『うわ、繋がったw』
『これ、全員あの事件の関係者かよ!』
画面右下の『いいね』カウンターが、今までとは違う熱量を帯びて回転し始める。
視聴者は「暴力」の次に、「正義の鉄槌」という娯楽を見つけたのだ。
「……じゃあ、カイ。お前は何なんだ?」
佐藤が、低く濁った声で問う。
「お前だけが無関係なはずがない。お前はあの時、どこにいた?」
俺はレンズを自分に向け、静かに微笑んだ。
「俺か? ……俺は、その全ての様子を**『実況』**していたんだよ。匿名掲示板で、面白おかしくな」
『いいね』の数字が跳ね上がる。
俺たちは全員、ある一人の人間を絶望に追い込み、死に追いやった「加害者」の集まりだったのだ。
「酸素濃度、もとい『好感度』の急上昇を確認!」
スクリーンにウサギが躍り出る。
『素晴らしい! 過去の清算、これこそが最高のコンテンツだ! でもね、視聴者はもっと「具体的」な謝罪が見たいんだって。……というわけで、第3フェーズ! **「告白の重み」**タイムだ!』
部屋の中央に、古びた椅子が一つだけ現れた。
『今から一人ずつ、あの事件で自分が犯した一番卑劣な行為を告白してもらう。視聴者の審判を受け、「許せない」と思われた人間からは……一気に5分分の酸素を没収するよ!』
「没収……!?」
金子が青ざめる。彼の残り時間は、すでに4分を切っていた。
「……公平にいこうぜ。まずは、一番酸素を持っている佐藤。お前からだ」
俺はカメラを据え置き、佐藤を椅子へと促した。
逃げ場はない。首のデバイスが、逃亡を許さない。
そして何より、視聴者の好奇心という名の怪物が、次の「餌」を求めて口を開けて待っていた。
俺の残り酸素時間:12:20(激増)
佐藤の残り酸素時間:08:10
金子の残り酸素時間:03:45
「……わかったよ。話せばいいんだろ、話せば……!」
佐藤が椅子に座り、震える声で話し始めた。
だが、それはまだ、このデスゲームの「本当の意味」の入り口に過ぎなかった。




