いいね、死ね、大好き
「第2ステージ、レディ……ゴーッ!」
ウサギの絶叫と共に、スタジアムの四方から凄まじい熱狂が降り注ぐ。
床からせり上がった武器を奪い合い、佐藤が、金子が、真由が、獣のような形相で互いを牽制し合う。
「カイ、お前からだ……! お前が一番ポイントを持ってる! お前を殺せば、俺の酸素は完ストするんだ!」
佐藤が血走った目でナイフを構え、俺に突進してくる。
友情も、さっきまでの共闘も、この巨大な「期待」の前では霧散した。
数万人の観客がスマホを振りかざし、俺たちが殺し合う瞬間を指先一つで待ち構えている。
「……ハッ、最高だな」
俺はナイフを拾わなかった。
代わりに、床に転がっていた「ハッキング用」の自分のスマホを、もう一度手に取った。
「佐藤、止まれ。……観客の皆さんも、よく見ておけ。これが、お前たちが一番見たかった『奇跡の逆転劇』だぞ」
俺は画面を激しくスワイプし、スタジアムのメインサーバーへ最後の「バックドア」を通した。
さっきまでのハッキングは「演出」の一部だったかもしれない。だが、一度開けられた穴は、運営側もすぐには塞げない。
俺が狙ったのは、武器のロック解除でも、扉の開放でもない。
「全世界の視聴者の端末」への、逆流だ。
「いいか、画面の向こうでポップコーンを食ってる連中。お前らは『いいね』を押して、安全な場所から俺たちの死を消費してるつもりだろう」
俺の声が、スタジアムの全スピーカー、そして全世界の配信画面へと強制的に割り込む。
「だが、残念だったな。この『デス・ストリーミング』の規約を読み飛ばしただろ? 『配信にリアクションした者は、参加者と同等の義務を負う』……。お前らが押した『いいね』の数だけ、お前らの端末にも、俺と同じ『ウイルス』を流し込ませてもらった」
その瞬間、スタジアムの観客席から悲鳴が上がった。
数万人のスマホが一斉に赤く発光し、耳をつんざくような電子音を放ち始める。
『な、何だこれ!? 画面が消えない!』
『課金が勝手に……! 銀行口座から金が引き出されてる!?』
「そうだ。お前らが俺たちの命を金に変えたように、今度はお前らの人生をデジタルな数字に変えてやるよ。……少年、今だ! 全額ぶちまけろ!」
俺が叫ぶと同時に、画面の向こうにいた「少年の役者」――いや、本物のハッカーだった彼が、最後のリミッターを外した。
全世界の視聴者の口座から、天文学的な額の金が、世界中の児童養護施設や、東都建設のような事件の被害者団体へと一斉に送金され始める。
『いいね』の数だけ、彼らの資産が消えていく。
『死ね』と書き込むたびに、彼らの個人情報がネットに放流される。
「どうだ? これが本当の『参加型コンテンツ』だ!」
スタジアムは阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
さっきまで俺たちを指差して笑っていた観客たちが、今は自分のスマホという「爆弾」を抱えて逃げ惑っている。
モニターの中のウサギが、初めて恐怖に顔を歪ませた。
『やめろ! 放送を止めろ! 損害が……運営が破産する!』
「遅いよ。もう誰も、この配信を止められない」
俺は佐藤の前に立ち、彼の手からナイフを取り上げた。
「佐藤、もう終わりだ。……見ろよ。誰も俺たちを見てない。あいつらは今、自分の『いいね』を守るのに必死だ」
熱狂が消え、静寂が戻る。
スタジアムに残ったのは、首輪の外れた五人の罪人と、自分たちの「悪意」に食い殺された数万人の死骸のような観客だけだった。
俺はカメラのレンズに向かって、最後の中指を立てた。
「……あばよ、最低な観客諸君。二度と『いいね』なんて押すんじゃねえぞ」
俺たちは、崩壊を始めたスタジアムのゲートを、今度こそ自分たちの足で踏み出した。
背後で爆発音が響き、デジタルなウサギが消滅する。
空は、白々と明け始めていた。
それが本物の太陽なのか、それともまた別のセットなのか、今の俺にはまだ分からない。
だが、肺に流れ込む冷たい空気だけは、妙にリアルだった。
数日後。
世界を震撼させた「デス・ストリーミング」の運営は壊滅した。
参加者五人の消息は不明。
ただ、SNSの隅っこで、一つのアカウントがこんな呟きを残している。
『あなたの人生、誰かに「いいね」される価値、ありますか?』
その投稿に付いた「いいね」は、永遠に「0」のままだった。
最後までお読みいただきありがとうございました!
「小説家になろう」で人気の「ざまぁ」要素と、現代社会への風刺を込めた完結構成にしてみました。
もしよろしければ、今回の小説を「もっと別の結末(全員死亡や、実は主人公が運営のトップだった等)」に書き換えることも可能です。どうされますか?




