窒息のカウントダウン
薄暗い視界の端で、赤いランプが規則的に点滅している。
後頭部に残る鈍い痛み。重たい瞼を押し上げると、そこは四方を無機質な白い壁に囲まれた、十畳ほどの立方体の部屋だった。
「……ここ、は……?」
掠れた声を出したのは俺だけじゃない。
床には俺を含めて五人の男女が倒れ込んでいた。全員が二十代から三十代。共通点といえば、誰もが見覚えのない場所で目を覚まし、困惑の表情を浮かべていることくらいだ。
そしてもう一つ。
全員の首筋に、冷たく硬い感触があった。鏡を見るまでもない。指先で触れればわかる。それは、肌に食い込むほど精巧に作られた金属製のチョーカーだ。
「何よこれ、外れないんだけど!」
派手なネイルを施した若い女が、発狂したように首元を掻きむしる。
「警察! 誰か呼んでくれ!」
スーツ姿の男が、自分のポケットを探る。そこにあったのは、見慣れた自分のスマートフォンだった。だが、画面には電波のマークも時計も表示されていない。
ただ、中央に一つのアイコンだけが浮かんでいた。
【DEATH STREAMING:配信準備完了】
その瞬間、壁一面が巨大なスクリーンへと変貌した。
『やあやあ、家畜の皆さん! おはよう、あるいは地獄へようこそ!』
画面に現れたのは、タキシードを着た三頭身のウサギのぬいぐるみだった。不気味なほど固定された笑顔のまま、合成音声が部屋に響き渡る。
『ルールは至ってシンプル。君たちの無様な姿は今、全世界に生配信されている。そして……この部屋の酸素は、現在進行形で減り続けているんだ』
ウサギが指を鳴らす。スクリーンの隅に「酸素濃度:19%」という数字が表示された。
正常な大気は21%だ。すでに低下は始まっている。
『助かる方法はただ一つ。視聴者から**「いいね(高評価)」をもらうこと。指先一つの慈悲が、君たちの命を繋ぐ。「いいね」1つにつき、10秒分の酸素をプレゼントしよう!**』
「ふざけるな! 出せ! ここから出せ!」
体育会系の男が壁を殴りつける。だが、ウサギは冷酷に告げた。
『残り時間は60分。酸素が尽きるのが先か、君たちが視聴者を満足させるのが先か……。さあ、命を懸けたパフォーマンスの始まりだ!』
配信開始を告げるチャイムが鳴る。
スクリーンの「視聴者数」が、爆発的な勢いで跳ね上がり始めた。
1,000…… 5,000…… 10,000……。
「……バカげてる」
俺はスマホの画面を凝視した。
コメント欄には、得体の知れない悪意が濁流のように流れ込んでいる。
『お、始まったw』
『誰から死ぬかな?』
『右の女、泣き顔もっと見せてよ』
酸素濃度は、18.5%まで落ちている。
少しずつ、肺に送り込まれる空気が薄くなっていく感覚。
他の四人はまだ、カメラに向かって「助けて」と叫んだり、壁を蹴ったりしている。だが、俺には分かっていた。そんな「当たり前」の反応に、画面の向こうの奴らが貴重な「いいね」を投じるはずがない。
「……生き残るには、連中の『毒』になるしかないのか」
俺は震える手でスマホを握りしめた。
この最悪な劇場で、俺が演じるべき役割を脳内で組み立て始める。
面白かったら★★★★★にしてね!!!
…(ㆆωㆆ)ジー(無言の圧)




